シンカー:今後の最も重要な経済データは4月1日に公表となる日銀短観だろう。新型コロナウィルスの影響を見る上でも、日銀は重要視しているとみられる。企業の業況感の悪化は既に分かりきったことである。それ以上の注目は、信用サイクルが強い状態を維持できるのかだ。中小企業貸出態度DIが大きく悪化し、信用サイクルが腰折れるリスクが高まれば、デフレ完全脱却に向かう日銀の内需拡大シナリオが維持できないため、追加金融緩和に追い込まれるだろう。リスクはダウンサイドに大きくなっているようだ。政府は、新型コロナウィルスの感染が拡大しないようにするため、3月2日から小中高校を休校にすることを要請した。経済活動には自粛ムードによる停滞が起こる可能性が高い。サービス業を中心に中小企業の資金繰りにも大きな影響が出るリスクが大きいため、短観が出る前にも、日銀は詳細な観察とヒアリングを続けるとみられる。中小企業の資金繰りが急激に悪化して信用サイクルが腰折れることはなく、日銀はまだ短観の結果を待って判断を下したいと考えているとみられる。しかし、FEDの緊急利下げを受けて、円高が急激に進行したり、日銀の観察とヒアリングで信用サイクルが変調をきたすリスクが大きくなっていると判断されれば、3月18日・19日の政策決定会合で追加金融緩和を行うことになろう。その場合、緩和手段は金利引き下げよりも、ETFの買入れ増額によるマーケット心理の下支え策や、国庫短期証券の買入れなどの短期的流動性拡大策がメインとなるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

今後の最も重要な経済データは4月1日に公表となる日銀短観だろう。

新型コロナウィルスの影響を見る上でも、日銀は重要視しているとみられる。

企業の業況感の悪化は既に分かりきったことである。

それ以上の注目は、信用サイクルが強い状態を維持できるのかだ。

グローバルに在庫・生産サイクルが多少悪化しても、日本経済は拡張を続けることができるまで、強い信用サイクルに支えられた内需を中心に頑強になってきていた。

信用サイクルをうまく示すのは日銀短観の中小企業貸出態度DIである。

信用サイクルは雇用拡大の牽引役であるサービス業の事業拡大を左右するため、失業率に先行する指標である。

7 - 9月期の中小企業貸出態度DIは+20と4 - 6月期から変化はなく、まだバブル崩壊後の圧倒的な最高水準である+20程度を保っていた。

ただ、貸出態度DIは伸び悩んでいる。

消費税率引き上げによる警戒感もあるのか、10 - 12月期には+19へ若干低下した。

今回は更に新型コロナウィルスの影響が圧し掛かっている。

大規模な政府の経済対策がまさにこれから実施されることを考慮すれば、DIが+20前後を維持でき、景気拡大は持続すると考えられる。

信用サイクルが好調さを維持できれば、失業率の更なる低下が賃金・物価上昇率を押し上げていくという、日銀のシナリオも維持できることになる。

一方、DIが大きく悪化し、信用サイクルが腰折れるリスクが高まれば、デフレ完全脱却に向かう日銀の内需拡大シナリオが維持できないため、追加金融緩和に追い込まれるだろう。

リスクはダウンサイドに大きくなっているようだ。

政府は、新型コロナウィルスの感染が拡大しないようにするため、3月2日から小中高校を休校することを要請した。

大規模な集会・イベントの開催も自粛を要請している。

経済活動には自粛ムードによる停滞が起こる可能性が高い。

サービス業を中心に中小企業の資金繰りにも大きな影響が出るリスクが大きいため、短観が出る前にも、日銀は詳細な観察とヒアリングを続けるとみられる。

黒田日銀総裁は3月2日に「潤沢な資金供給と金融市場の安定確保に努めていく方針」との談話を公表し、日銀が警戒感を強めていることを示している。

中小企業の資金繰りが急激に悪化して信用サイクルが腰折れることはなく、日銀はまだ短観の結果を待って判断を下したいと考えているとみられる。

しかし、FEDの緊急利下げを受けて、円高が急激に進行したり、日銀の観察とヒアリングで信用サイクルが変調をきたすリスクが大きくなっていると判断されれば、3月18日・19日の政策決定会合で追加金融緩和を行うことになろう。

その場合、緩和手段は金利引き下げよりも、ETFの買入れ増額によるマーケット心理の下支え策や、国庫短期証券の買入れなどの短期的流動性拡大策がメインとなるだろう。

図)日銀短観中小企業貸出態度DIと失業率

日銀短観中小企業貸出態度DIと失業率
(画像=総務省、日銀、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司