シンカー:現行の金融緩和政策の中でもまだ自由な領域に、日銀の追加金緩和の余地があると考えられる。例えば、日銀は、国庫短期証券について、保有残高が、年間数兆円のペースで増加するよう買い入れを行うことを表明することだ。そして、この国庫短期証券の買入れを、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで継続する。日銀は従来から現行の金融緩和政策の効果の強化や効率化できる方策を検討するスタンスを維持しているため、新型コロナウィルスの影響で信用サイクルが腰折れるリスクが高まり、追加金融緩和が必要であると判断した場合、理論上可能な政策であれば実施する可能性は十分にあるだろう。更に、マーケットの過度の恐怖感によりリス・プレミアムが拡大し、株式市場が混乱が続いていると日銀が判断すれば、年間6兆円程度としてるETFの買入れの目安を増額する可能性もあろう。単純なマイナス金利政策の深堀りは、金融機関の経営体力への懸念が大きくなり、それが貸出態度に対する企業の見方を厳しくしてしまえば、信用サイクルには逆に下押し圧力となる副作用が生まれてしまうだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

現行の日銀の金融緩和政策の枠組みには三つの柱がある。

一つ目の柱は、短期金利として、日本銀行当座預金のうち政策金利残高に?0.1%のマイナス金利を適用することである。

二つ目の柱は、長期金利として、10年物国債金利が0%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行うことである。

三つ目の柱は、ETFおよびJ-REITについて、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するよう買入れを行うことである。

長期金利は誘導目標となっているが、短期金利は政策金利残高に?0.1%のマイナス金利を適用することに限定され、マーケットの金利は自由に動くことができる。

そして、国庫短期証券に関しては、毎月の「当面の長期国債等の買入れの運営について」で、「金融市場調節の一環として行う国庫短期証券の買入れについては、金融市場に対する影響を考慮しながら1回当たりのオファー金額を決定する」とされ、ほぼフリーハンドだ。

これらの自由な領域に、日銀の追加金融緩和の余地があると考えられる。

例えば、日銀は、国庫短期証券について、保有残高が、年間数兆円のペースで増加するよう買入れを行うことを表明することだ。

そして、この国庫短期証券の買入れを、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで継続する。

このスキームで、日銀保有国債の償還にともなう政府の民間からの資金調達を十分に抑制すれば、日銀保有国債の償還額を、国債買い切りオペ額が大きく下回っても、マネタリーベースが減少することはなく、政策のコミットメントを心配する必要がなくなる。

更に、日銀が国債買い切りオペを減額する余地も大きくなる。

政府・日銀の共同目標としての2%の物価上昇率を目指し、現行の金融政策のフレームワークを持続的にするため、国庫短期証券がマーケットで不足した場合、オーバーパーである利点もあり、政府は発行を増加して協力できるだろう。

国債発行は年度計画で行われるた、短期的な需給の動きに対して追加発行などで対応することは難しい一方で、国庫短期証券は違い、発行などに関して財務省に裁量が与えられており、需給の動きにより容易に対応できると考えられる。

日銀は、過去に国庫短期証券を60兆円程度(発行残高比60%程度)保有した前例があり、足許の保有額の13兆円程度(発行残高対比10%程度)を考えると、日銀には買入余地は十分にあると考えられる。

日銀が国債買い切りオペを減額すると、日銀トレード需要などが後退し、国債買い切りオペで対象となっている超長期国債の金利上昇圧力は強まってくる。

黒田総裁も1月21日の日銀金融政策決定会合後の記者会見で「超長期の金利はもう少し上がってもおかしくはないと思っています」と言及し、国債買入れの減額余地がまだ十分にあることを示唆している。

日銀は従来から現行の金融緩和政策の効果の強化や効率化できる方策を検討するスタンスを維持しているため、新型コロナウィルスの影響で信用サイクルが腰折れるリスクが高まり、追加金融緩和が必要であると判断した場合、理論上可能な政策であれば実施する可能性は十分にあるだろう。

国債買入れの減額と日銀保有国債の償還額を上回る額に国庫短期証券の買入れを維持すれば、マネタリーベースのしっかりとした増加は続き、いわゆる量の金融緩和の効果もあるとみられる。

更に、マーケットの過度の恐怖感によりリスク・プレミアムが拡大し、株式市場が混乱が続いていると日銀が判断すれば、年間6兆円程度としてるETFの買入れの目安(現状でも、市場の状況に応じて、買入れ額は上下に変動できる)を増額する可能性もあろう。

単純なマイナス金利政策の深堀りは、金融機関の経営体力への懸念が大きくなり、それが貸出態度に対する企業の見方を厳しくしてしまえば、信用サイクルには逆に下押し圧力となる副作用が生まれてしまうだろう。

図)日銀の国債保有額と国庫短期証券保有額

日銀の国債保有額と国庫短期証券保有額
(画像=日銀、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司