副業をする会社員や、副業を推奨する企業がメディアで脚光を浴びている。だが実際は、副業禁止の企業もまだまだ多いようだ。どれくらいの企業が副業禁止をしているか、副業禁止は法的に有効なのか、会社に無断で副業した場合のリスクは何かなど、気になる疑問を解明していきたい。

目次
1.副業禁止の企業は7割以上? 企業調査を確認
2.企業が副業禁止にする理由トップ3
3.副業禁止を破ることは法的に問題ないのか
4.もし会社の副業禁止規定を破った場合どうなるのか
5.副業がバレる3大原因は、トラブル・噂話・住民税
6.もし副業を理由に解雇された場合は「労働審判」
7.副業禁止の企業に勤める人は慎重に考えるべき

1.副業禁止の企業は7割以上 企業調査を確認

副業禁止,企業
(画像=Olena Yakobchuk/Shutterstock.com)

「副業禁止は絶対に守るべきルールか」という疑問への回答だが、法律的に企業は社員の副業を禁止できない。そのため、就業規則や雇用契約に副業禁止の内容があっても、副業だけを理由にした罰則は基本的には科すことができない。

ただ、会社に無断で副業をすることにはリスクもある。最悪の場合、解雇される可能性も否定できない。まずは、「どれくらいの割合の企業が副業禁止にしているのか」を企業調査から見ていこう。

リクルートキャリアの調査では副業禁止の企業が約7割

2018年9月に実施されたリクルートキャリアの調査によると、国内企業の7割以上が「兼業・副業を禁止している」と回答している。容認派・推進派は3割にも満たない。なお、この調査は企業の人事担当者など2,271人からの回答をもとにしている。

日経新聞の調査では副業禁止の企業が約2割

こちらは2019年3~4月に行われた日経新聞の調査で、東証1部上場など大手企業約120社を対象にしたものである。「副業は認めない」と回答した企業は、わずか約2割だった。一方で、約5割が「副業を認め、制度化している」または「副業を認めている」と回答した。

副業禁止の企業は一定数ある まずは就業規則の確認が必須

副業を禁止している企業数は調査によって差があり、リクルートキャリアでは7割以上、日経新聞では約2割だ。母数やターゲットの違いがあるとはいえ、上場企業では副業を禁止しているところは少ないと言える。

いずれにしても、国が働き方改革を推進する中、副業容認派の企業は今後増えていくことが予想される。しかし、国が副業禁止を法律で規制しない限り、副業禁止をルールにする企業は一定の割合で残るだろう。そのため、勤務先が副業を認めているか、禁止しているかを就業規則や雇用契約書などでしっかり確認することが重要だ。

2.企業が副業を禁止する理由トップ3

気になるのは、これだけ働き方改革が注目されているにも関わらず、なぜ副業を禁止する企業があるのかだ。副業をしたい社員の側からすると「多様な働き方が広がっている時代に合っていない」「考え方が古い」と思うかもしれない。しかし、企業側が副業を禁止したい理由もある。前出のリクルートキャリアの調査によると、企業が副業を禁止する理由のトップ3は以下のとおりだ。

・副業禁止の理由1位 :社員の長時間労働・過重労働を助長するため(44.8%)
会社員をしながら副業をすることば、長時間労働の温床になりかねない。それにより、本業に悪影響が出ることを懸念するのは当然だろう。

・副業禁止の理由2位 :労働時間の管理把握が困難なため(37.9%)
雇用先は、本業と副業を合わせた労働時間の管理が求められる(詳しくは後述する)。企業にとっては手間がかかる上に、管理不備があった場合は企業側が責任を問われるリスクもある。

・副業禁止の理由3位 :情報漏洩のリスクがあるため(34.8%)
会社員の副業で多いのは、現在持っているスキルを活かして稼ぐケースだろう。たとえば、エンジニアがそのスキルを活かして他社案件を請け負うといった具合だ。そのため、勤務する企業の競合他社で副業をするケースもあるだろう。それにより、機密情報が競合他社に漏洩するリスクがある。

3.会社員が副業禁止を無視することが難しい理由

前述のとおり、就業規則などに副業禁止の内容を盛り込んでいても、社員を縛る法的根拠にならない。だからといって、会社員は会社に無断で副業すべきではないだろう。なぜなら、労働基準法があるからだ。

労働基準法により会社が労働時間を管理する義務がある

会社員の副業ルールについての公的資料で参考になるのは、厚生労働省がまとめたガイドラインだ。このガイドライン内では「副業・兼業自体への法的な規制はない」と明言している。併せて「(企業は)原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当」としている。

厚生労働省では企業が就業規則を作成する際のモデルも公開しているが、「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という規定を削除してある。これらを踏まえると、会社員は限りなく自由に副業ができるようになった、あるいは、なりつつあるように見える。

だからといって、会社員は会社に無断で副業をするべきでない。なぜなら、労働基準法を軸に考えると、会社には社員の副業時間を管理する義務があるからだ。労働基準法では、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」とある(労働基準法38条1項)。

つまり、会社は副業も含めて社員の労働時間を管理しなくてはならないということだ。そのため、いくら働き方改革が進んでも、会社員が会社に無断で自由に副業をしても良いとはならないだろう。

企業が副業を制限できるケースもある

副業禁止というテーマで注意したいのは、前述のガイドラインで「条件によっては企業が副業を制限できる」と述べている点だ。これから副業をする、あるいはすでに副業をしている人は、「企業が副業を制限することができる場合」として挙げられた、以下の項目に抵触していないかをチェックしてほしい。

  1. 会社員の業務をするのに支障が出る場合
    (例:本業に影響が出るほどの長時間副業など)
  2. 企業秘密が漏洩する場合
    (例:その企業しか知り得ない情報を使い副業を行う)
  3. 企業の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
    (例:企業の名刺を使って営業活動を行う、悪質な副業を行うなど)
  4. 競業により企業の利益を害する場合
    (例:競業他社で働く、在職中に同業で起業するなど)

4.企業の副業禁止規定を破っても解雇が認められるケースは少ない

前述のとおり、いくら就業規則や雇用契約などで副業を禁止しても、基本的に法的な根拠はない。そのため、仮に会社が副業を理由に解雇などをしようとしても、裁判でそれが認められるケースは少ないだろう。朝日新聞出版が運営するメディア『AERA .dot』の取材においても、雇用関連に詳しい弁護士は「仮に副業を理由に解雇しようとしても、裁判で認められることはほとんどありません(大山滋郎弁護士)」と述べている。

このような専門家の意見はあるが、だからといって副業による罰則のリスクがまったくないわけではない。副業をしたことが直接的な理由でなくても、「本業の責任を果たさなかった」「会社の信用を失墜させる行為をした」などの理由で以下のような罰則が科される可能性があるのだ。

  1. 訓戒、戒告
  2. 減給
  3. 出勤停止、自宅待機
  4. 降格処分
  5. 諭旨退職、解雇

実際、副業の労働時間が余暇の範囲を大きく超えていたという理由で解雇された判例もある。また、同じ業界の会社で副業をしていて機密情報漏洩のリスクがあったケースや、一般的にイメージの良くない職種で副業をしていて、会社のイメージを傷つけたケースでも解雇された例があるという。

5.企業に副業がバレる3大原因は、トラブル・噂話・住民税

副業をするのは社員の自由だが、会社に無断でするべきではない。副業禁止を謳っている会社に属していても、法的に副業を規制することはできない。しかし、バレた場合に間接的な理由でペナルティを受けたり、人事査定が悪くなったりする可能性はある。

隠れて副業をしていても、意外にバレてしまうものだ。主な原因としては以下の3つが考えられる。

副業がバレる原因1:トラブルに巻き込まれる

副業中に事故やトラブルに巻き込まれることで、会社に副業が発覚してしまうケースがある。一例では、コンビニで副業をしていた会社員がコロナウイルスに感染し、ニュースで大々的に報じられたケースがあった。あるいは、副業でタクシードライバーをしていた会社員が事故にあって副業がバレるといったことも考えられる。

副業がバレる原因2:噂話が社内で広がる

会社の同僚に話した内容が会社に伝わってしまい副業がバレる、あるいは仲の良い知人などに副業のことを話して会社に密告されてしまうケースもあるだろう。

副業がバレる原因3:住民税が高くなる

住民税は、前年度の所得に税率をかけて算出される。本業の給与に副業の報酬が加わった所得で住民税が算出されると、必然的に住民税が高くなる。住民税は、基本的に会社の給与から天引きされる仕組みになっている。つまり、給与に見合わない住民税が天引きされると「給与以外に収入があるのでは?」と会社に疑われ、副業がバレてしまうというわけだ。

6.副業を理由に企業を解雇された場合は「労働審判」

会社に隠れて副業をすべきではないと考えてはいるが、緊急でお金が必要な場合など、やむを得ない事情により無断で副業してしまう人もいるだろう。そのような人が副業を理由に解雇された場合、労働審判で調整をする方法がある。簡単にその仕組みを紹介しよう。

労働審判は裁判より簡単に労働者と使用者の問題を解決する制度

労働裁判とは、労働審判官(裁判官)と労働審判員2名(労働関係の専門家)から成る労働審判委員会が、申立人(社員など)と相手方(企業)のトラブルを調整する制度だ。原則3回以内の期日で審理し、最終的に「調停成立」または「労働審判による解決案の提示」となる。労働審判に対してどちらから異議申し立てがあった場合は、訴訟手続きなどに移る。

労働審判の申立てを受け付ける場所

地方裁判所または本庁や労働審判事件取扱支部などで、労働審判の申立てができる。

労働審判の申し立てで準備するもの

申立手数料や郵便切手などが必要になる。申立手数料は、労働審判にて請求する金額によって変わる。請求金額が100万円であれば5,000円、200万円であれば7,500円だ。郵便切手は裁判所にもよるが、2,000円程度である。

7.副業禁止の企業に勤める人は慎重に考えるべき

さまざまな視点で副業禁止というテーマについて見てきたが、最終的にお伝えしたいのは「会社員の副業は慎重に考えるべき」ということだ。多くの会社員にとっては、本業あっての副業のはず。副業にこだわって本業の評価が下がった結果、給与が減ってしまったり、会社に居づらくなったりすれば元も子もない。

会社員の給与だけでは生活が苦しいといったやむを得ない事情もあると思うが、だからといって副業をして本業に支障が出れば、ますます苦しくなってしまう。賢明な社会人としては、会社と良好な関係を維持しつつ、副業をしていくというスタンスが重要だ。

文・本間貴志(副業リサーチャー、不動産ライター )/MONEY TIMES

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