売上は好調。社員数も順調に伸びている。あとは新製品を発表することができればIPOできる……そんな急成長ベンチャーを襲ったのは内部分裂の危機だった。

新製品の発表はすでに1年も延期されていた。会社はVCから資金調達を行っており、悠長にチームビルディングを行っている時間はない。

「社長のカリスマ性を上げて、短期間で社内をまとめ上げてほしい」。『感情を動かす技術』(アチーブメント出版)の著者で、プレゼンテーションディレクターとして経済界に多くのクライアントを抱える中西健太郎氏の元にそんな依頼が舞い込んできたことがある。

自分の言動ひとつで、思いのままに周囲をコントロールし、ビジネスやプライベートを充実させる。そのような願いをかなえる手段の一つが、プレゼンテーションだ。

中西氏が半年かけてその経営者にどのようなトレーニングを行い、急成長ベンチャーの危機を救ったのか?事例を元に、トップに立つ人間が身につけたい「プレゼン」の威力を紹介したい。(聞き手・くすいともこ)

『感情を動かす技術』著者に聞く・前編
(画像=Monster Ztudio/shutterstock.com,ZUU online)
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リーダーに「プレゼン力」が絶対必要な理由

『感情を動かす技術』著者に聞く・前編
※本インタビューは4月中旬、オンラインにて行われました(画像=ZUU online編集部)

――最初に、プレゼンテーションディレクターというお仕事について教えてください。

現在、プレゼンテーションディレクターとしての仕事は以下の3つです。

1つ目は新製品発表会や株主総会のような現場でのプレゼンテーションのディレクションです。ディレクションには、表現の指導(声の出し方、立ち居振る舞い、相手との距離感)、スピーチライティング、現場でのリハーサルのほか、現場へ行く手前のリハーサルも含まれます。

2つ目は、経営者を対象にしたマンツーマンレッスンです。リーダーたちがプレゼン力を身に付けることで、カリスマ性やリーダーシップが強くなり、相手の行動を容易に生みやすくなります。プレゼンテーションの規模を問わず、人を動かすことに変わりはありませんが、トップ経営者になればなるほど、さまざまな場面で相手を動かしたい場面が増えてきます。1レッスンは1時間半〜2時間ぐらい。お忙しい方が多いので、早い方なら2週間に1回のペースで3ヵ月、長い方だと1年ぐらいかかる方もいますね。

3つ目は、企業研修です。営業職を中心に研修をしています。

――プレゼンテーションディレクターという職業の方は日本にほとんどいないと思うのですが、これまでの経緯を伺えますか?

僕は20年前からプレゼンテーションのトレーニングが日本に必要だとずっと提唱してきました。20年前はなかなか理解してもらえませんでしたが、近年、その重要性が理解されるようになってきたと感じます。

僕は音楽や芝居、舞台芸術を生業にしています。音楽の仕事をしていると、Apple製品に触れる機会が多くなります。パソコンもMacですし、音楽制作ソフトはMacでしか動かないものを使っていましたし……いわゆるMac信者でした。

そのため、20代の頃から、故・スティーブ・ジョブズ氏のスピーチをインターネットでリアルタイムに見ていました。それで、思ったんですよ。日本にもジョブズのようなプレゼンテーションができる人がいたら、どんなに強い国になるんだろうって。

日本は製品の品質が良いですし、人間性も良いし、良いところがたくさんある。でも、プレゼンテーションの場でことごとく負け続けているのではないか。もしジョブズのような人が日本に現れたら、どんなに日本は強くなるんだろう、と。

スティーブ・ジョブズのプレゼンテーションの技術やノウハウは何も特別なものではない、と感じていました。伝えたいことをどう表現するのか、表現することで相手の感情をどう動かすのか、その感情が導線となってどう相手を動かすのか。そういったことはすでに舞台芸術の業界にノウハウとして溜まっていたわけです。

このノウハウを芸能界だけの秘められたものにするのではなく、積極的に社会に還元することで、海外から魅力的に見られる日本が作れるんじゃないか。そう思うと、ワクワクしました。

謙虚なベンチャー経営者、急成長で内部分裂の危機

――これまでのクライアントで印象に残っているケースがあれば教えてください。

あるベンチャーキャピタル(VC)からの依頼で、ベンチャー企業の若手経営者にパーソナル・トレーニングを行ったときのことです。

彼の会社は順調に成長していて、売り上げも伸び、人も増えていたのですが、急に人が増えすぎたことで会社が内部分裂しそうになっており、新製品の発表が1年も延期されていました。このままだとIPOできなくなるかもしれない、という状態でした。

正攻法でいくなら1〜2年かけてチームビルディングやチームマネージメントを行ったほうがよいです。ただ、このケースではそんな悠長なことをやっているうちに会社が分裂してしまいそうでした。もっと短期間で会社を立て直すために、社長のカリスマ性をあげて、そのカリスマ性で社内をまとめられるようにしたい、とのことで僕に声がかかりました。

経営者がポジティブな感情を表すと社員も燃える

――その経営者の第一印象はどのようなものでしたか?

社長はとても謙虚で静かで聡明な方でしたが、外に出る感情やエネルギーに欠けるというのが第一印象でした。思慮深いということは素晴らしいことなのですが、「表現力」という武器が足りなくなるケースがよくあります。

この経営者にはもっと感情を表現する力が必要だと感じ、週1回、多いときは2回、期間としては半年ほどかけてプレゼンテーションのトレーニングを行いました。

――実際のトレーニングで特に力を入れて教えた部分があれば教えてください。