『投信残高、最大の伸び 4月 個人マネー流入』ーーそんなタイトルが日経電子版に踊ったのは5月1日のことだった。筆者はこのタイトルに強烈な違和感を覚えた。率直に言って、連日のように市況がアップダウンするこの局面で、どれほどの個人投資家が上手に投資信託に入れたかは少なからず疑問を感じたからだ。実際にこの局面で新規の個人マネーが流入することで投信残高が大きく伸長したのならば、恐らく金融庁も満面の笑みを浮かべるであろうし、「貯蓄から投資へ」などと国を挙げて旗を振る必要もない。いわんや筆者が運営するファンドガレージのような投資教育を志向するコンテンツも必要ないことになる。

ちなみに、ファンドガレージへのお問い合わせの半分以上は金融機関の方々であるが、メルマガ等で「3月下旬で日米株式市場共に最悪な状況は織り込んだと思われる」とする根拠や理由、或いは視点をいくら送っても、実に反応が鈍かった。販売側に立つ金融パーソンでさえまだまだ及び腰なのに、受け身が多い個人投資家が積極的に動くだろうか? 筆者はそんな疑問を拭えない。

更に言えば、筆者が知る限り、対面型販売チャネルは2月頃から新型コロナウイルスの影響で明らかにお客様とのアポイントが取り辛く(面談拒否)なっている。4月7日には「国家緊急事態宣言」が発令されたこともあり、対面型販売チャネルはまともにワークしていないことも容易に想像できる。もし記事通りならば、筆者が投信会社の社長をしていた頃に発生した2011年の「東日本大震災」当時とは個人投資家の投資スタイルが様変わりしたことになる。あの頃、投資信託市場に個人投資家が戻って来るには相当な時間が掛かった。ありていに言えば、現物株投資をする個人投資家と違って、投資信託を購入する個人投資家層は「資産運用なんかしている場合じゃない」雰囲気だったのだ。

投資情報は玉石混交である。投資家として成功するためには「玉」と「石」を見極めるスキルが求められる。今回はそうした観点から「マスコミ報道」とどう向き合うべきかの一例を示しておきたい。一人でも多くの読者が賢明な投資家として成功することが、筆者の願いである。

数字の意味と言葉の含意を検証する

投資信託,選び方
(画像=Joyseulay / shutterstock, ZUU online)

さて、件の記事を読み始めてみると、タイトルを見て筆者が覚えた違和感の原因がすぐに分かった。記事はこう始まる。「投資信託協会が1日発表した公募投信の4月末の純資産残高(速報値)は3月末に比べ5兆4889億円増加し、111兆8889億円となった。増加は4カ月ぶり。増加額は調査を始めた1989年1月以降で最も大きい。」タイトルから受けた当初の印象は、個人投資家からの資金流入額が過去にない規模になったという感じであったが、実際は市場がリバウンドしたことで純資産残高の時価が増加したことを記しているに過ぎなかった。