国民年金の保険料は毎月1万6,540円(2020年度)であり、経済的に苦しい時、特に失業直後などは大きな負担になることがある。そんな時に利用したいのが、年金免除制度だ。今回は、この免除制度の内容とメリット、また免除を利用するとどのくらい得をするのかを紹介する。
目次
1.年金免除制度を活用し、失業時の年金未納を回避
2.失業後、年金を未納した場合に起こる2つのこと
3.年金の免除を受けた後の対応
4.年金の免除を利用した場合のシミュレーション
5.失業したら免除制度を活用しよう
年金免除制度を活用し、失業時の年金未納を回避
日本の公的年金は、日本に住んでいる20歳以上60歳未満の人すべてが加入する「国民年金」と、会社員などが加入する「厚生年金」の2階建て構造になっている。厚生年金に加入していた会社員が退職すると国民年金に加入することになるが、退職後しばらく収入がない場合、毎月1万6,540円(2020年度)の保険料は大きな負担になることがある。
昨今は希望退職も増えているが、この負担を少しでも減らすために知っておきたいのが、国民年金保険料の免除制度だ。
年金免除制度とは特定の条件下で年金の支払いを免除する制度
本人、配偶者、世帯主のそれぞれの前年所得が一定額以下の場合や失業などの理由がある場合、申請によって国民年金保険料の納付が全額または一部免除される。ただし一部免除の場合、減額された保険料を納付しないと一部免除が無効となり、未納期間になってしまうので注意したい。
免除は将来の保険料だけでなく、過去の期間についても申請できる。申請できる期間は、それぞれ以下のとおりだ。
・過去期間……申請書が受理された月から2年1ヵ月前まで
・将来期間……翌年6月(1~6月に申請した場合は、その年の6月)分まで
ただし、1枚の申請書で申請できるのは7月から次の年の6月までの12ヵ月間なので、必要に応じて年度ごとに申請書を提出する必要がある。
たとえば、2020年4月に2018年3月から2020年6月までの期間について申請する場合、以下3枚の申請書が必要になる。
(1)2017年度分(2018年3月から2018年6月)
(2)2018年度分(2018年7月から2019年6月)
(3)2019年度分(2019年7月から2020年6月)
この例の場合、2018年2月以前は時効により申請できない。また2020年度分(2020年7月から2021年6月)の免除申請は、2020年7月以降に行う必要がある。
年金免除のメリットは将来の年金額が増えること
国民年金の免除申請をせず保険料を払わない場合、その期間は未納期間となる。免除されると、未納と比べてどのようなメリットがあるのだろうか。
保険料を免除された期間は、国民年金の老齢基礎年金を受け取るための受給資格期間に算入される。老齢基礎年金は保険料を10年納めなければ受け取ることができないが、免除期間は保険料を納めなくても年金を受け取るための期間に加えられるのだ。
最も大きなメリットは、将来の年金額に反映されることだ。全額免除の期間は保険料の支払いは免除されるが、老齢年金を受け取る際に保険料を全額納めていた場合の年金額の2分の1を受け取ることができる。
20歳から60歳までの40年間、年金の全額免除を受けていた場合を考えてみよう。将来の年金額は0円ではなく、満額の2分の1、2020年度の場合は39万850円を受け取ることができる。
保険料の4分の1免除から最大で全額免除まで
国民年金保険料の免除制度における免除額は、前年の所得に応じて「全額」「4分の3」「半額」「4分の1」の4種類だ。2020年度の保険料(1万6,540円)における、それぞれの免除で支払う保険料と反映される年金額は、以下のとおりだ。
保険料免除 | 保険料 | 支給される年金額(全額納付時に対する割合) |
全額免除 | 0円 | 2分の1 |
4分の3免除 | 4,140円 | 8分の5 |
半額免除 | 8,270円 | 4分の3 |
4分の1免除 | 1万2,410円 | 8分の7 |
保険料の免除制度には、所得の基準が設けられている。通常は前年度の所得が見られるが、会社を退職して失業した場合など収入に大きな変化があった時のために「失業等による特例免除」が設けられており、基準が緩和されている。
申し込みは役所の国民年金担当窓口で――年金手帳を忘れずに
保険料免除の申請は、住民登録をしている市(区)役所・町村役場の国民年金担当窓口で行う。また、申請書は郵送で提出することもできる。申請には申請書のほか、以下の書類が必要になる。
申請を行う人すべてに必要なものは、「年金手帳」または「基礎年金番号通知書」である。原則として所得を証明する書類の添付は不要だが、場合によっては「前年または前々年の所得を証明する書類」が必要になる。所得について税の申告を行ってない場合は、「所得の申立書」がその代わりになる。
前年度の所得ではなく、会社員で雇用保険の被保険者であった人が失業などによる申請を行う場合は、「雇用保険受給資格者証の写し」または「雇用保険被保険者離職等の写し」が必要だ。
失業後、免除を受けずに未納した場合に起こる2つのこと
失業後、免除を申請せずに未納になっている場合、どのようなデメリットがあるかを解説する。
デメリット1……将来の年金の支給額が減少、最悪の場合受け取れなくなることも
免除期間は保険料を納めたものと見なされるので、将来老齢年金を受け取るために必要な年金受給資格期間に含まれ、全額免除(保険料0)でも将来半額の年金が支給される。しかし、未納期間はまったく保険料を納めていないと見なされるので、将来の年金額が増えることもない。また未納期間が長すぎて年金受給資格期間が10年以上になっていなければ、老齢年金を受け取ることができない。
デメリット2……障害年金、遺族年金がもらえなくなる可能性がある
国民年金を「将来もらえるお金のための保険」と考えている人もいるだろう。実は国民年金では、所定の障害の状態になった場合は障害年金が支給され、自身に万一のことがあった場合は遺族に遺族年金が支給される。しかし未納期間が長くなると、これらの年金が受け取れなくなるので注意したい。
原則として障害の場合は初診日、死亡の場合は死亡日の月の前々月までの被保険者期間のうち、保険料免除期間を含む保険料納付済期間が3分の2未満の場合はこれらの年金が受け取れない。しかし、現在は過去1年間に保険料の未納がない場合、受給できることになっている。
失業後免除申請をせず未納のままにしておくと、その期間に万一のことがあれば過去1年間に未納期間があることになり、本来受け取れるはずだった障害年金や遺族年金が受け取れない可能性があるのだ。
年金の追納で免除を受けた年金を補填する
年金の免除を受けた期間は保険料を納付したものと見なされ、将来の年金額にも反映されるが、それでも年金を納付した場合よりは年金額が少なくなってしまう。少しでも年金額を増やしたい場合、「追納」によって保険料を後で納付することができる。
年金の追納とは免除された保険料を後で納めることができる制度
保険料を免除された場合、10年以内であれば追納して老齢基礎年金の受給額を増やし、満額に近づけることができる。
追納と似た制度に「後納」がある。本来保険料を納められる期間は保険料の納期限から2年間であり、それ以降は保険料を納めることができない。しかし、2012年10月1日から2015年9月30日までは過去10年、2015年10月1日から2018年9月30日までは過去5年さかのぼって未納期間分の保険料を納めることができた。これが後納制度である。
現在は、この後納制度はなくなっている。つまり、未納期間は2年過ぎると保険料を納めることができなくなる。保険料を後で納めることができるのは、免除期間の追納のみだ。
年金の追納のメリットは年金額の増加と社会保険料の控除が受けられること
年金を追納することのメリットは、将来の年金額を増やせることと、社会保険料控除が受けられることだ。
免除期間は保険料を納めた期間と見なされるが、それでも将来の年金額は減る。老年基礎年金は生涯もらえる数少ない年金なので、追納によって年金額を増やすことで長生きに備えることができる。
また、年金保険料の支払いは社会保険料控除の対象になる。税額は所得によって決まるが、控除を受けると所得が少なくなるので、その分税金の負担が軽くなる。つまり、手取り金額が増えるのである。
追納に関する注意事項
追納ができるのは、追納が承認された月の前10年以内の免除期間内に限られ、原則その期間で最も古い期間から納付していくことになる。また、3年以上前の保険料を追納する場合、経過期間に応じて加算額が上乗せされる。
たとえば2013年度の国民年金保険料は1万5,040円だったが、2020年度中に2013年度の保険料を追納する場合、1ヵ月の保険料は1万5,160円になる。差額の120円が、経過期間による加算額だ。
実際に失業からの年金の免除を利用した場合のシミュレーション
年金の免除制度と追納制度を利用した場合、年金額がどう変わるのかをシミュレーションしてみよう。
ここでは、2018年4月から2020年3月まで2年間失業していた人が、その間の年金保険料を(1)未納、(2)免除制度を利用して追納せず、(3)免除制度を利用して追納の3パターンを比較してみる。2018年3月以前は欠かさず納付し、2020年4月以降も60歳になるまで欠かさず納付するものとする。
国民年金保険料は2018年度が1万6,340円、2019年度は1万6,410円だったで、この2年間の保険料は、1万6,340円×12ヵ月+1万6,410円×12ヵ月=39万3,000円である。
表1. 年金の免除制度と追納制度の効果
失業後2年間の年金 | 追納 | 追納金額(加算額なし) | 将来の年金額 | |
(1) | 未納 | なし | 0円 | 74万2,615円 |
(2) | 全額免除 | なし | 0円 | 76万2,158円 |
(3) | 全額免除 | あり | 39万3,000円 | 78万1,700円(満額) |
未納の場合と比べると、全額免除を利用する効果は明らかだ。国民年金保険料を2年間払えない場合でも、将来の年金額が約2万円も変わる。
全額免除を利用した場合、追納すると年金額が約2万円増える。ただし追納金を39万3,000円納めるので、年金の増加分が追納金を上回るのは年金を20年以上受け取った時点からだ。老齢基礎年金は一生涯受け取れる数少ない年金なので、長生きのリスクに備える意味で、年金額は少しでも増やしておきたい。
失業したら年金免除制度を活用しよう
国民年金の免除制度は、申請をすれば確実に通るわけではないが、失業の場合は基準が緩和される。特に免除制度を知らず、無理に納めようとして経済的に困窮してしまい、結果的に滞納になってしまうのは避けたい。また退職した後で国民年金に加入し忘れた場合も、過去にさかのぼって免除を申請できるので、この免除制度は積極的に利用したい。
文・松岡紀史(ライツワードFP事務所代表)/MONEY TIMES
【関連記事 MONEY TIMES】
個人年金保険の受け取りにかかる税金は?計算方法も解説
個人年金保険の3つのデメリット 元本割れのリスク、インフレに弱い……
個人年金保険とは?種類とメリット・デメリットを解説
個人年金保険の途中解約はデメリット大!解約を避ける4つの方法とは
将来年金が受給できなくなったらどうする?個人年金について詳しく解説