要約
デフレ完全脱却までの中長期的トレンドの半ばだ。信用サイクルと設備投資サイクルが支えとなっている。企業活動活性化と財政拡大によるネットの資金需要の復活を前提条件として、それをマネタイズして働く金融緩和の効果も強くなり、マネーが循環拡大する力のリフレサイクルも強くなるだろう。内需とマネー拡大の力をコンセンサスより強くみている。政府・日銀の政策などに支えられ、デフレ完全脱却の方向性は維持されるだろう。既に新型コロナウィルス対応の緊急事態宣言は解除された。年末までには更なる経済対策も実施され、年後半はしっかりとした景気回復が進行するだろう。オリンピック実施とグローバルな景気回復下の2021・22年には景気はV字回復し、デフレ完全脱却となろう。内需による自立的な成長となろう。
物価 - 労働需給逼迫と需要超過が押し上げに
コスト面からみた物価上昇圧力は着実に高まっている。物価上昇が遅れていることで、労働需給の逼迫などによる総賃金の拡大による実質賃金の拡大が、消費の回復を強くしていくだろう。労働参加率の上昇の鈍化による労働供給の拡大の鈍化で賃金上昇が加速するだろう。潜在成長率を上回る成長率に戻る中で需要超過が物価をいずれ強く押し上げ始めるだろう。2021年半ばにはコア消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年比1%を上回るだろう。2022年前半までには、企業貯蓄率がマイナスの正常な状態に戻り、過剰貯蓄が総需要を破壊しなくなり、政府のデフレ完全脱却宣言となろう。2%の物価目標達成は、実際の物価上昇がインフレ期待を押し上げ、それが更に物価上昇を強くするサイクルが必要となり遅れて2023年頃となろう。
図)物価
金融政策 - 現行の金融緩和の枠組みを粘り強く維持
グローバルな景気持ち直しのシナリオを維持しながら、金融緩和効果の自律的な拡大が、2%の物価目標の達成へのモメンタムを強くするまで、フォワードガイダンスの下、日銀は辛抱強く緩和バイアスを維持しようとするだろう。ただ、新型コロナウィルスの影響で信用サイクルが下押されることを避けるため、金融機関に流動性を供給する策とETFを含めたリスク資産の買入れ増額を決定した。企業活動の再活性化と財政政策の緩和でネットの資金需要が復活すれば、それをマネタイズして働くことになる金融緩和の効果は、日銀が現行緩和政策を維持しているだけで強くなるとみられる。2%の物価目標は政府・日銀の共同のものであり、変更される可能性は極めて小さい。オリンピック延期で1年遅れるリスクが高まり、2022年の政府のデフレ完全脱却宣言のタイミングで長期金利の誘導目標の引き上げを始めるだろう。短期の政策金利をプラスに戻し緩和から脱却するのは、物価目標達成後の2023年となろう。
財政政策 - 引き締めから拡大へ転換し、ポリシーミックスの形に
基礎的財政収支黒字化目標は2020年度から2025年度へ先送りされ、安倍首相の自民党総裁の任期末の2021年までの制約はない。財政政策は、デフレ完全脱却のための経済活性化策と、家計支援、防災・インフラ整備を中心に、攻めの拡大へ転じている。企業貯蓄率と財政収支の合計であるネットの資金需要はまだ消滅していて、マネーの循環・拡大する力、総賃金拡大の力としてのリフレサイクルはまだ弱い。財政政策の拡大と、企業活動の回復による企業貯蓄率の低下でネットの資金需要が復活し、リフレサイクルが強くなるだろう。年初の経済対策(GDP比2.5%程度の財政措置)の効果がこれから出てくる。海外景気の更なる鈍化を補うことを目安に、財政政策は「異次元な」拡大を続けるだろう。新型コロナウィルスの影響が大きく、オリンピックも延期され、金融緩和の限界が意識され、財政政策を重視する意見が大きくなっており、新たな経済対策(1.5%程度)を実施する可能性が高い。政策対応が支え、安倍内閣の支持率は高水準を維持し、政治は安定を続けるだろう。安倍首相は政治的求心力を維持するため、ぎりぎりまで続投を明言しないだろう。有力後継候補はおらず、続投となるだろう。
図)ネットの資金需要
金利と為替 - 内需主導の成長は円安の力
名目GDPと総賃金を縮小から拡大に転じさせたのが、アベノミクスの最大の成果だ。名目GDP成長率が長期金利を持続的に上回るのはバブル期以来である。長期実質金利はマイナスとなっている。拡張する力が抑制する力を上回り、デフレによる縮小均衡から、リフレによる拡大均衡に変化してきた。日銀の金融緩和の枠組みもあり、この拡大均衡の形はデフレ完全脱却まで継続するだろう。実質GDP成長率が内需主導の自律的な形となり、過剰貯蓄の解消などにより国際経常収支の黒字額が縮小していくことで、円安の力が生まれるだろう。ネットの資金需要がまだ弱いことは、財政ファイナンスが困難化して金利が急騰するリスクは極めて小さいことを示す。デフレ完全脱却への動きを織り込みきれていない超長期金利は上昇するだろう。
図)名目GDP成長率と長期金利
リスク - 内需拡大で支えきれないほどの輸出環境の底割れ
新型コロナウィルスの影響が長引き、海外経済が極めて低調で輸出環境の底割れ状態が続けば、内需拡大では支えきれず、深い景気後退のリスクが大きくなる。東京オリンピックの延期の混乱もリスクだ。財政政策の拡大が弱く、ネットの資金需要が復活できなければ、日銀への負荷が増し、金融緩和の副作用が大きくなるリスクを高める。一方、財政政策と金融政策の予想を上回る効果、そして構造改革の進展などにより、企業がデレバレッジからリレバレッジに早期に転じれば(異常であったプラスの企業貯蓄率がマイナス化)、デフレ完全脱却が早まるアップサイド・ポテンシャルとなる。
表)日本経済見通し
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司