三菱自動車の看板ブランドの一つとして長らく同社の業績を支えてきた「パジェロ」の生産が、2021年上期に終了する。新中期経営計画における「適正な生産体制」を構築するための決断だ。新型コロナウイルスの影響もあり業績が急速に悪化する中、活路を見出せるのか。
パジェロの生産が終了、工場閉鎖
三菱自動車は7月27日、国内生産子会社の「パジェロ製造株式会社」(岐阜県)における車両生産を2021年の上期に停止することを発表した。工場も閉鎖する。三菱自動車は2019年に国内向けのパジェロの生産を終え、岐阜工場では輸出向けの車両を製造してきた。
パジェロが発売されたのは1982年のこと。その後、同社を代表するSUV(多目的スポーツ車)として人気を集めたが、消費者ニーズの変化などによって売上が落ち込むようになった。そして国内販売を終え、その後はアジア市場向けなどとして生産は続けていたが、海外向け販売でも思うような実績を残せず、パジェロの生産に終止符を打つことになったようだ。
発表によれば、パジェロ工場の閉鎖は新中期経営計画の一環。最新の決算発表で同社の業績悪化が鮮明になる中、三菱自動車は業績回復に向けてどのような青写真を描いているのだろうか。
2021年3月期は過去2番目の赤字額に リコール問題以来の低業績
三菱自動車が7月27日に発表した2021年3月期第1四半期(2020年4〜6月)の決算概要を紹介した後、新中期経営計画を紐解いていこう。
第1四半期は売上高が前年同期比57.2%減の2,295億4,500万円となり、営業利益は38億5,700万円のプラスから533億4,100万円のマイナスに転じた。四半期の最終損益も、93億1,200万円の黒字から1,761億5,700万円の赤字へと転落している。
通期の業績予測も厳しい。売上高は前期比34.8%減の1兆4,800億円、営業利益は1,400億円のマイナス、最終損益は3,600億円の赤字になる見通しを発表している。同社は、2005年3月期にリコール隠し問題の影響で約4,700億円の赤字を計上しているが、それに次ぐ赤字額となる見込みだ。
事業の拡大に伴って収益性が低くなっていた背景もあるが、新型コロナウイルスの影響で新車販売が急速に落ち込んだことで、四半期業績と通期見通しが非常に厳しいものとなった。
決算発表資料によれば、2019年第1四半期の新車販売台数は29万8,000台だったが、2020年第1四半期は13万9,000台と53.3%も減少したのだ。
新中期経営計画における青写真 固定費削減、ASEANと電気自動車への注力
この苦境を三菱自動車はどう乗り切ろうとしているのか。決算発表とともに同社が公表した新中期経営計画「Small but Beautiful」では、2022年度までに主に以下の4点に取り組むとしている。
・2019年度比で固定費を2割以上削減、集中投資で収益力を向上
・ASEANに経営資源を集中し、マーケットシェアを11%超に
・ASEANに続く第2の柱として、アフリカ・オセアニア・南米市場を開拓
・PHEVやEVの環境対応車のラインナップを強化
パジェロ製造工場の閉鎖は、1つ目の固定費の削減の一環として実行されるものだ。固定費の削減に向けては、ヨーロッパ向け新規商品の投入を凍結することも発表されており、「選択と集中」を進めていくという。
全体的には2021年までコスト改革に取り組み、2020年末にかけて収益力を向上させ、次第に持続的な成長を実現させていくという新中期経営計画になっている。
株価は右肩下がり、100円台もすぐそこ
今回の決算発表の前の段階で、三菱自動車の株価はコロナ禍によって大きく落ち込んでいた。ビフォーコロナは400円台だったが、国内の7都府県で非常事態宣言が出た4月以降は300円前後で推移していた。
今回の決算発表で、さらにその株価が落ち込んだ。すでに200円台まで下落し、100円台もすぐそこという状況。現時点では、他の自動車メーカーよりも三菱自動車の株価の落ち込みは顕著だ。
株価回復のためには、投資家からの信頼を取り戻す必要がある。中長期的には、何より今回発表した新中期経営計画をロードマップどおりに実行していくことが求められるだろう。
今後数年で経営の土台をどれだけ強化できるか
パジェロの生産終了にまで踏み切ることになった三菱自動車。コロナ禍で業績低迷が一層鮮明になる中、コスト削減と収益性向上によって、今後数年にわたってどのくらい経営基盤を強化できるかに関心が集まる。
文・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。
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