老朽化マンションの問題がたびたび話題になっています。「ゴーストマンション」「廃墟マンション」などにいたるケースも見聞きするようになってきました。実際に日本全国にどのくらいの老朽化マンションがあり何が問題となっているのでしょうか。問題点を整理します。
増え続ける高齢マンション
国土交通省が公表している「分譲マンションストック戸数」によると2019年度の全国のマンションストック数は約665万戸でした。665万戸に1世帯あたりの平均人員2.33人(2015年国勢調査)をかけると約1,551万人です。つまり国民の約10人に1人以上がマンションに暮らしている時代に突入していることが理解できるでしょう。
このうち老朽化したマンションはどれくらいあるのでしょうか。「築年数=老朽化」とは限りませんが2019年末時点で「築40年以上」のマンションに限っていえば全国に約92万戸あります。今後、築40年以上のマンションの数は2029年に約2.3倍の約214万戸、2039年に約4.2倍の約385万戸となる見込みで文字通り「急増」です。
経年とともに建物の劣化が進む
築年数が経過したマンションでは、どんな問題が出てくるのでしょうか。まず建物の劣化です。鉄筋コンクリートでできた丈夫なマンションでも建築後から劣化が始まり時間が経過すれば経過するほど劣化は進行します。もちろん定期的なメンテナンスや大規模修繕が行われていれば劣化を最小限に食い止めることは可能です。
しかしすべてのマンションで適切な管理ができているとはいえない可能性があります。特に築年数の古い建物であればあるほど「長期修繕計画が作成されていない」「定期的な修繕が実施されていない」といった可能性が高くなるでしょう。長期修繕計画がないために修繕積立金に対する区分所有者の意識が低く大規模修繕をしたくてもできないケースもあります。
国土交通省の公表している「マンション政策の現状と課題」によると築40年以上のマンションの約37%、築30年以上のマンションの約22%で「適時適切な大規模修繕が実施できていない可能性がある」と指摘しているのです。適切な維持管理が行われないままだと建物はますます劣化し外壁タイルがはがれ落ちたり給排水管が老朽化したりして安心して住むことのできない状態に陥ってしまいます。
高齢化率や空き住戸・賃貸が増加する
住民の高齢化もこの問題に拍車をかけおり、築年数が経過するにつれてマンションの住民も高齢者が多くなっていきます。高齢者が多いと管理組合の役員の担い手が不足し積極的な管理組合運営が行われない可能性も否めません。認知症の居住者が増えて対応にコストがかかるケースもあります。さらに相続などで区分所有者が変わった物件の非居住化(空き住戸化、賃貸化)の懸念もあるでしょう。
高齢化や非居住化の進行により総会運営や集会の議決が難しくなりますます適切な管理ができなくなってしまいます。管理が不全になれば建物の劣化を防ぐための大規模修繕や日々のメンテナンスは困難です。経済的に余裕のない高齢者が増えたり修繕積立金の滞納が増えたりする可能性も十分に考えられるでしょう。
建物が劣化していくことで「建物の資産価値が下がる」「空き家が増える」「ますます管理不全になる」など負のスパイラルに陥りかねません。こうしてスラム化したマンションができあがるわけです。一度スラム化したマンションを再生することは容易ではないでしょう。
進まない建て替えの原因は合意形成の難しさと資金面
老朽化マンションの対策の一つが建て替えですがこれもなかなか難しいのが実態です。国土交通省が公表している「マンション建替え実施状況」によると2020年4月1日時点で全国のマンションで建て替えが行われた実績は254件のみとなっています。建て替え工事実施中の物件と合わせても300件に到達していません。これまで建て替えが実現したのは、都市部の好立地にあったケースがほとんどです。
例えば建て替えをすることで容積率の緩和などに伴い今よりも高い建物を建てられ余った住戸を売却することで建て替え資金を捻出できたケースもあります。しかしそのような好条件の建て替えができるのは、一握りのマンションのみです。今後は、自己資金の負担なしに建て替えすることは難しいケースが多くなり区分所有者の合意形成が大きなハードルとなります。
老朽マンションの区分所有には手を出さない方がいい
このような高経年マンションの増加に対して国も手をこまねいているわけではありません。法令の整備も含めてさまざまな策を打ち出し老朽化マンションの長寿命化・再生へ取り組みを促進しようとしています。しかし問題の核心には高齢化や人口減少があるため、すっきりと解決することは難しいといえるでしょう。
このような状況に対して不動産投資家はどのような対策が必要でしょうか。もし区分所有マンションの購入を検討する場合は、購入前に修繕積立金の積立状況や管理状態、大規模修繕の履歴をよく確認し適切な管理が行われている物件のみを買うことです。しかしそのような優良物件は価格が高くなりがちです。
収益性を求めるなら自分で大規模修繕や日々のメンテナンスをコントロールできる1棟物がベストといえるのではないでしょうか。(提供:YANUSY)
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