今週、日経平均は一時、新型コロナウイルスの感染拡大による急落前の2月21日の終値2万3386円を上回った。連日史上最高値更新が続くナスダックやS&P500に比べれば「ようやく」感は否めないが、それでもこれで「コロナショック」は乗り越えたと言えるだろう。「実体経済がこれだけ悪いのに株価だけが戻ってバブルじゃないの?」なんてことを、いまだに真顔でいうひとがいるとは到底信じがたいが、万が一にでもいるとそれは大変なことなので、この際はっきり申し上げておく。

実体経済は悪くない。「悪かった」のである。4~6月期の国内総生産(GDP)速報値は前期比7.8%減、年率換算では27.8%減。過去最大の落ち込みとなった。GDPの過半を占める家計の消費支出が大幅に減少した。しかし、それは当然だろう。政府の緊急事態宣言などを受けた外出や営業自粛の影響で消費したくてもできなかったのだから。需要が消失したわけではない。一時的な供給ショックによる落ち込みだから、それがなくなればもとに戻るのは早い。実際に消費はすでに戻っている。6月の家計調査によると、2人以上世帯の消費支出は前月比で13%増。4カ月ぶりにプラスに転じ、比較可能な2000年2月以降で最大の上げ幅となった。この結果、水準はコロナ前を回復している。

2人以上世帯の消費支出(2000年1月=100)

2人以上世帯の消費支出(2000年1月=100)
(画像=Bloomberg)

家計調査によるとエアコンやテレビ、ソファなど高額な家具・家電類が大幅に伸びた。猛暑だし、どこにも出かけれらないし、じゃあ、家まわりにお金をかけよう - すごくわかりやすい構図だ。そこに加えて「10万円」のボーナスだ。政府による1人10万円の特別定額給付金である。給付金を含む実収入は2人以上世帯で前年同月から15%増えたから家計の懐は潤っているのだ。

四半期のGDPを年率換算するから、とんでもなく大きな金額と減少率に見えるけれど、慣例で仕方ないのでそれに合わせて書くと、4-6月の実質GDPは485兆円で、1-3月の 526兆円から41兆円減った。このうち最大のマイナス寄与が291兆円から267兆円へ24兆円減った民間最終消費支出である。しかし、もう一度言うが、これは年率換算だから実際の数字は24÷4=6兆円減っただけである。たかが6兆円だ。それに対して政府がばらまいたお金はいったいいくらか。給付金の事業費は事務費を合わせて12兆8803億円。最終的にどれだけのお金が支給されるかわからないが、ざっくり10兆円くらいは配られるだろう。悠々自適の暮らしをしているひとや、エアコンの効いた涼しい部屋でのんびり在宅勤務をしている大手企業のサラリーマンなど、コロナで打撃を受けて苦しんでいるわけではないひとまで、家族の人数×10万円が振り込まれる。これで消費が伸びないわけがない。

外需も中国や米国を中心に持ち直すだろう。7月の工作機械受注額は中国向けの受注額が前年同月比5割増となった。

米国も経済指標の改善が続く。2週前8/14の「妙味のある銘柄」で述べた通り、米国では住宅関連が絶好調。先週から今週にかけて発表された指標は、 7月の新築一戸建て住宅販売件数:前月比13.9%増加。3カ月連続の大幅増加で、2006年12月以来13年7カ月ぶりの高水準。7月の中古住宅販売件数:前月比24.7%増。06年12月以来の高水準。7月の住宅着工件数:前月比22.6%増加。

今週発表された耐久財受注も市場予想を上回る伸びとなった。

米国耐久財受注・ISM製造業景況感指数

米国耐久財受注・ISM製造業景況感指数
(画像=Bloomberg)

こうしたデータ(特にハードデータ)の改善を根拠に、アトランタ連銀のGDPNowによれば7-9月は25.6%成長。7-9月期はV字回復となるのは間違いない。

実体経済は「悪い」のではなく、「悪かった」のであり、いまは「V字回復」の最中にある。これを映して株価がコロナ前に戻るのは極めて当たり前のことである。

ところで内閣府の「景気動向指数研究会」は、2012年12月からの景気の拡張期は18年10月に「山」(ピーク)を付けたと認定した。そこから景気後退していたわけだ。一方、日経センターが7月末から8月上旬に実施したアンケート調査で、33人の民間エコノミストのうち28人が景気の「谷」は5月だったと答えた。仮に5月が「谷」なら景気後退期間は19カ月。戦後16回の後退のうち4番目の長さとなる。長いこと景気は後退局面にあり、コロナショックで大幅に下振れた4-6月は「最後のトドメ」みたいなもので、逆にそれがあったので一気に大底をたたきにいったようなものだ。つまり何が言いたいかというと、いまは「景気後退は終わっている」のである。景気後退が終わっているなら、いまは景気拡大期ということになる。

問題はこの先も順調に回復基調を辿るかということだ。それを阻むのはコロナの再拡大だが、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は6月以降の感染再拡大が「全国的に見れば、7月27~29日にピークに達した」という見解を発表した。米国でも8月中旬からコロナの新規感染者数は減少が続いている。ワクチンや治療薬についての朗報も続々と伝わる。

まとめると、景気は回復が鮮明になってきており、コロナも終息の兆しが出てきた。それなのに過去最大級の景気対策が打ち出され、FRBは2%のインフレを許容する緩和策の長期化にコミットした。これで株があがらないほうがおかしい。

市場はようやく4-6月の決算発表・企業業績を消化したところだ。まだ7-9月の業績を織り込んではいない。景気をはじめ世の中がこの調子だから、7-9月の業績もV字回復となるだろう。それを目の当たりにした時、株価は2万5000円を超えているだろう。

広木隆 広木 隆(ひろき・たかし)マネックス証券 チーフ・ストラテジスト
上智大学外国語学部卒業。国内銀行系投資顧問。外資系運用会社、ヘッジファンドなど様々な運用機関でファンドマネージャー等を歴任。長期かつ幅広い運用の経験と知識に基づいた多角的な分析に強み。2010年より現職。著書『9割の負け組から脱出する投資の思考法』『ストラテジストにさよならを』『勝てるROE投資術

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