近年のFinTech(フィンテック)の台頭により、スタートアップと従来の金融機関の間で、融資システムの再編が進んでいます。そんな中、新型コロナの世界的な蔓延によって、融資システムを巡る新たな課題が表面化しています。
深刻な打撃を受けたビジネスや個人の支援に向けて求められている要素、そしてコロナから生まれた融資サービスなどから、融資の未来の姿が見えてくるかも知れません。
コロナ時代の融資に必要な要素、変化とは?
世界中のビジネスがコロナショックを乗りこえるうえで、融資は重要なカギをにぎっています。しかし従来の金融機関や自治体などによる融資は、申請に必要な書類を揃えることが必要で、審査に数週間~数カ月を要するなど、時間と手間がかかります。
資金繰りに苦戦する中小企業にとって、融資プロセスの延滞は命取りになりかねません。少しでも多くの中小企業を支援するためには、迅速で柔軟性の高い融資が必須です。
また世界的な不況や失業率の上昇、経済の先行きの不透明さなどを考慮すると、既存の審査基準や方法にも大きな改革が求められます。
例えばクレジットスコアリング(信用偏差値)や取引履歴データを使用した審査基準。これらは過去の経済状況に基づいて、将来的な返済能力を判断します。
そのため過去に債務不履行があったなどの理由で、現在は十分な返済能力があるにも関わらず融資を受けられないといったケースや、返済能力が高いと判断された借り手が不履行に陥るケースも珍しくありません。
特にコロナショックで世界中が混乱の渦中にある現在、過去や現在の経済状況ではなく、未来の可能性を重視する審査基準への移行が必要となるでしょう。
コロナ渦から生まれた融資サービスとコラボレーション
このような背景から、既に多数の金融機関やFinTech企業が、コロナ時代を考慮した融資システムの採用に乗り出しています。
英国の融資プラットフォームTrade Ledger、SME(=中小企業)クレジット・スコアリング・プラットフォームWiserfunding、貿易信用保険スタートアップNimbla、顧客対応ソリューションを提供するNorthRowは、共同でデジタル融資用のプラットフォームを立ち上げました。銀行やFinTech融資企業、民間債務者はこのプラットフォームを利用し、迅速にビジネスへの融資を行うことができます。
同じく英国のオンライン融資スタートアップiwocaは、政府のコロナ事業中断貸付制度(CBILS)の申込みがオンラインでできるサービスを開始しました。他にも審査結果が24時間以内に完了し、最大20万ポンドの借入れが可能なスピード融資も提供しています。
イスラエルのFinTech企業であるInnovestaは、パンデミックへの耐久性を考慮した、信用リスク評価プラットフォーム「Innodex(CRI)」を開発。独自のAI(人工知能)技術を使用して、各企業のコロナ耐久性に基づくリスクスコアングを提供しています。
二極化が進む?コロナで浮き彫りになったP2Pの課題
一方、コロナ以前は新たな投資対象として市場を拡大していたP2P(個人間の融資を仲介する金融サービス)は、二極化が進む可能性が考えられます。
特にインドネシアなどの発展途上国では、P2Pを含むオンライン融資の需要が爆発的に伸びると予想されている反面、延滞率の増加や貸出実行額の減少など、ネガティブな兆しが現れています。
米P2P大手のLending Clubは支払延滞金を一時的に廃止し、利息のみの支払いプランや最長2か月の支払い猶予期間を設けるなど柔軟に対応していますが、これは極めて稀なケースです。
インドネシアFinTech融資協会(AFPI)の報告によると、コロナの影響で返済苦に陥った借り手から、返済条件見直しの要請が殺到したにも関わらず、その大半が却下されたといいます。
見直しに応じるか否かを決定する権利は、貸し手にあるため、プラットフォーム運営業者は介入できません。しかし配慮に欠ける強引な回収は、不良債権のリスクを高める結果となりかねません。
またロックダウン中は一部のプラットフォームが一時的に閉鎖される、あるいは取引が凍結されるといった動きが見られ、投資家の不安感を煽りました。
コロナで浮き彫りになったこのような課題への取り組みが、コロナ時代のP2Pの明暗を分ける結果になるかも知れません。
融資システムの改革を後押しする動き
利便性・透明性の高い融資システムの構築に向けて、コロナ以前から徐々に活発化していた金融機関とFinTechのコラボレーションは、今後さらに加速するものと予想されます。
P2P分野においては、借り手の経済状況に迅速に対応可能な柔軟性と、貸し手・借り手の両方が安心して利用できる環境作りが、キーポイントとなるのではないでしょうか。
現在、多方面で、融資システムの変化を後押しする動きが見られます。
近年欧州を中心に導入が拡大している「オープンバンキング」がその一例です。これは顧客の同意の元、銀行が顧客データを提携企業と共有できるシステムです。個人情報を広く共有することで、融資に有利な環境作りに役立つと期待されています。
またAI技術などを採用した自動融資ソリューションも、追い風となるでしょう。これはプラットフォーム上で顧客のデータを処理し、返済能力を自動的に判断するという、銀行や融資企業向けのサービスです。
デジタル化により過去数年で大きく様変わりした融資システムが、今、さらに変貌を遂げようとしています。テクノロジーの進化とともに、今後も革命的な商品やサービス、そして投資のチャンスが次々と生まれてくることでしょう。(提供:Wealth Road)