新型コロナウイルスの影響による労働者の解雇が止まらない。厚生労働省の最新の発表(9月25日現在)によれば、すでに解雇された労働者と解雇見込みとなっている労働者の合計は6万人を超えた。コロナの影響は今後も続くとみられ、非常に厳しい状況だ。
解雇者と解雇見込者は全国で6万人突破も「氷山の一角」
厚生労働省はコロナ禍が本格化してから、毎週新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響についての資料をまとめている。その資料には雇用調整の可能性がある事業所数や、解雇された労働者と解雇見込みとなっている労働者の合計数が記載されている。
5月29日の発表では、雇用調整の可能性がある事業所数は3万214事業所、解雇された労働者と解雇見込みとなっている労働者の合計は1万6,723人だった。しかし最新の9月25日の発表では、それぞれ9万9,889事業所、6万923人に増えている。
4ヵ月弱で雇用調整の可能性がある事業所は7万近く増え、解雇された労働者と解雇見込みとなっている労働者は4万4,000人以上増えたことになる。
ちなみに解雇された労働者と解雇見込みとなっている労働者の数は、都道府県労働局やハローワークに対して相談があった事業所における数を集計したものであり、実際の解雇者と解雇見込者はもっと多いと考えられる。6万923人という数字さえ、氷山の一角ということだ。
業種別に見ると「製造業」だけで1万人以上、「飲食業」「小売業」が続く
厚生労働省の調査では、解雇者と解雇見込者の数を業種別に算出している。9月25日時点の6万923人のうち、最も多かったのは「製造業」の1万180人で、飲食業9,906人、小売業8,623人、宿泊業7,837人、労働者派遣業4,559人と続く。業種別の解雇者と解雇見込者の数をランキング形式で見てみよう。
1位,製造業:1万180人
2位,飲食業:9,906人
3位,小売業:8,623人
4位,宿泊業:7,837人
5位,労働者派遣業:4,559人
6位,卸売業:3,862人
7位,サービス業:3,047人
8位,道路旅客運送業:2,978人
9位,娯楽業:2,066人
10位,物品賃貸業:1,279人
ちなみに民間調査会社の東京商工リサーチの調べでは、負債額1,000万円以上の「コロナ倒産」は飲食業が最も多く、今後も解雇者が増えることが懸念されている。
今後の宿泊業界における解雇者数の推移も気になるところだ。「Go Toトラベルキャンペーン」の実施などによって客室稼働率は改善しているが、第2波・第3波の発生やワクチン開発の遅れ、ウイルスの変異などによって宿泊需要が一気に落ち込むことも考えられるからだ。
製造業企業などの業績に深刻な影響、トヨタグループの場合は?
実際、コロナ解雇が多い業界の企業業績は低迷している。日本における製造業の巨大グループといえばトヨタグループだが、2020年4~6月期の連結業績は芳しくない。
2020年4~6月期のトヨタの売上高は前年同期比40%減の4兆6,008億円で、部品サプライヤーのデンソーも同42%減の7,651億円と落ち込みが激しい。ジェイテクトやトヨタ紡織、豊田合成、愛知製鋼、アイシン精機も減少率が軒並み4割台となっている。
トヨタの株価は回復傾向にあるが、株式市場全体の復調に比べると回復のスピードが遅く、新型コロナウイルスが製造業に与える影響が大きいことを感じさせる。解雇者が多い飲食業でも株価低迷で苦しんでいる企業が多く、外食大手のすかいらーくは下落した株価を回復できていない。
「コロナ解雇」に違法性を感じている人も少なくない
新型コロナウイルスによる影響が続けば、コロナ解雇もしばらく増え続けることになるだろう。
そんな中、コロナ解雇に対して違法性を感じている人も少なくない。弁護士相談プラットフォームを運営するカケコム社が発表したアンケート調査によると、コロナ解雇者のうち15%が「違法だったと思う」と回答したという。
コロナ解雇が違法だったかどうかは個々の事案によって異なるため一概には言えないが、労使間でその正当性・違法性の認識がずれていることは間違いない。ここまで新型コロナウイルスの影響が広がっていることを考えれば、多くの会社員にコロナ解雇のリスクがあるといえる。
実際に解雇された場合は、失業手当の手続きをしたり、コロナ関連の支援金制度を利用したりすることになる。いずれにしても収入が不安定になることは避けられないため、支出を抑えるといった最低限のリスクヘッジを今からしておくべきなのかもしれない。
執筆・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。
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