新型コロナウイルスの感染拡大で引き起こされた「パンデミック」は世界各国の企業に多大な損害をもたらした。そうした中、欧米では「パンデミック保険(Pandemic Insurance)」への注目度が高まっているほか、既存の利益保険を見直そうとする機運も盛り上がりを見せている。
歴史を振り返るまでもなく、「パンデミック」は人類の脅威である。大切なのは、今回の新型コロナ危機の教訓をどう活かし、次の「パンデミック・リスク」に備えるかだ。各国政府と保険業界の最新動向を見てみよう。
パンデミックは利益保険の補償範囲外?
「パンデミック」が利益保険や企業財産保険の補償対象外であることを知り、愕然とした事業主も少なくないことだろう。企業が加入している一般的な保険は、事故や災害等で通常の事業活動に支障を来し、その結果生じた逸失利益の減少や事業復興の費用をカバーするものが多い。だが、その多くの場合「感染病が原因の損害は補償範囲に含まれない」のが実情だ。
保険会社の一部では補償範囲を拡大したり、事業中断費用の一部負担に同意する動きも見られるが、今回の新型コロナ危機という「パンデミック」の経済的打撃から企業を守るには力不足の印象は否めない。
英国で「パンデミック補償」を受けられるホテル業者は3%
現実問題として「パンデミック」を利益保険の補償対象と認めている保険会社は、世界でもごくひと握りに過ぎない。たとえば、米ワシントン州の保険委員会が調査を行った保険会社84社中、基本契約で「パンデミック補償」を提供しているのはわずか2社であった。また、特約条項として「限定的な補償」を提供しているのは15社にとどまっている。さらに英国保険協会(ABI)の調査によると、英国のホテル業者で保険会社から「パンデミック補償」について前向きな返答を得たのはわずか3%、ホスピタリティ業者にいたっては1%にも満たなかったことが明らかになっている。
事故や災害とは異なり「パンデミック」の経済的損害を測定するのは至難の業だ。影響が表面化するまでに時間を要する上に、流行の期間や感染規模も予想しづらい。そもそも大規模な経済的混乱を引き起こすほどの前例が少ないため予測モデルも確立されていない。多くの保険会社が「パンデミック補償」を提供していないのは、こうした事情が背景にあると見られている。