「コロナ禍で日本の不動産市場はもう終わり」と見る人が増えています。その一方、日本の不動産は今も海外の投資家から投資先として注目されているのです。今回は、政治情勢、個人の所有権、利便性の3つの点に着目してその理由を解き明かします。

コロナ禍で地価は横ばい・下落へ…今後も増える見込み

不動産投資
(画像=kevin/stock.adobe.com)

新型コロナウイルスの影響は地価に現れ始めています。今年8月下旬、国土交通省が2020年第2四半期の地価LOOKレポートを発表しました。それによれば、2020年4月1日から7月1日までの間、都心部など高度利用地等全国100地区における地価は1地区を除いて横ばい・下落となった模様です。「どんな用途・エリアが下落したのか」に注目すると「住宅系よりも商業系が、地方圏よりも大都市圏が地価の下落した地域が多い」とされています。

この背景には、コロナ禍でこれまでの生活様式が一変したことが影響していると見られます。具体的に挙げると、次のような現象です。

テレワーク導入でテナント契約解除へ

コロナ感染を防ぐには密集・密閉・密接の3密を避けなくてはなりません。「電車で通勤して会社のオフィスに社員が集まって働く」という従来のワークスタイルを止め、できるだけ自宅で勤務することが求められます。事実、毎日通勤が当たり前だった企業のほとんどが緊急事態宣言を機にテレワークに切り替え、難を乗り切りました。

テレワークがメインになり都心部のオフィスの利用率が下がれば、家賃減額や契約解除が視野に入ります。「これまで面積の大きいオフィスを借りていたけれどコロナでなくてもいいことに気づいた」として契約解除に踏み切った企業もあります。「完全テレワークにする」あるいは「家賃の安い郊外に小さいオフィスを借りる」などが増えれば、都心部のオフィス需要は下がり、地価が下落するのです。

飲食店が閉店に追い込まれた

都心部のオフィスに人が来なくなれば、その周辺の小売・飲食などの売上も下がります。もっとも影響が大きいのは飲食店でしょう。ランチや飲み会の需要が激減して採算が取れなくなり、閉店に追い込まれた店舗は少なくありません。オフィスの解約は周囲の店舗の解約も招き、地価の下落割合を深刻化させます。

海外勢が不動産を買う3つの理由

「今後、地価が下落するエリアはさらに増える」が一般的な見解です。しかし、このような状況でも日本の不動産を買う層がいます。それは海外の投資家です。香港の大手投資ファンドであるPAGは今後、日本の不動産に最大約8400億円を投じると発表しています。また、香港の不動産ファンドやノルウェーの政府系年金ファンドもコロナ禍騒ぎの中で日本の不動産を購入しました。

海外勢がこのような行動に出るのは、我々日本人には気づきにくい3つの理由があるからです。

理由1:日本は政治情勢が安定

「何事もないのが普通」だと私たちは思いがちですが、それは日本だけです。海外に目を向ければ、たいていの国には様々な不安要素があると分かります。特に香港では民主化デモの発生で政治情勢が不安定になり、中国政府や人民元に対する不信感が高まっています。富裕層を中心に資産を海外に移したいと考えている人が多いようです。「日本円は危機に強い」と言われますが、不動産も同じなのかもしれません。

理由2:個人の所有権が認められている

日本では財産権が法律によって強力に守られています。この所有権もあって当たり前ではありません。著しい経済成長を遂げた中国は共産主義国家であるため、「不動産に対する所有権」がありません。土地の使用権が認められているだけです。この使用権にも期限があり、「居住用地70年、商業用地40年」と設定されています。つまり、投資してもいずれ資産は国に取り上げられてしまうのです。

「所有」という概念は人間の生命維持の本能と深く結びついています。「資産それ自体を所有し、支配して安心したい」という本能に抗えない投資家には、不動産の個人所有が可能な日本が魅力的に映るようです。

理由3:利便性が高く物件の質がよい

留学先や就職先としての人気が下がり、世界での存在感を失ったかのように見える日本です。しかしそれでも利便性の高さが注目されています。特にアジア圏とは地方空港経由で行き来が可能です。アジアの投資家は「遠いアメリカよりも近場の日本」と考えている人が多いと言われています。

さらに日本の建物は品質のよさが特徴です。「自国の質の悪いマンションに住むくらいなら日本の傷みにくいマンションに住みたい」と考える投資家もいるようです。

「手堅い」日本、今後投資対象となる不動産は

では今後、海外投資家たちは日本のどのような物件を投資先に見据えているのでしょうか。

分散型オフィス

一つは分散型のスモールオフィスです。コロナ禍が終息してもテレワークを続ける企業は多いでしょう。しかし「テレワークだけ」には限界があります。「対面で直接話をする」「一緒の空間で仕事をする」と、仕事へのモチベーションが高まりやすく、イノベーションも生じやすいのです。

だからといって、かつてのように大型のオフィスは必要ありません。週に何回か、限られた人数で集まれば十分です。費用対効果の点から、家賃が低めの分散型オフィスを選択する企業が増えるでしょう。

多目的の複合オフィス

もう一つの投資先候補が多目的の複合オフィスです。テレワークで自宅での勤務を行うようになると「週に2~3回出勤するなら近場がいい」「できれば行き帰りに買い物を含めて必要な用事を済ませたい」という欲求が出てきます。働く女性なら「一つの建物の中で仕事と託児と買い物を全部完了させたい」と考えるでしょう。つまり、コロナ禍をきっかけに職住近接への欲求がより高まるのです。

こういった働く人の欲求の観点から見ると、住居と商業施設を加えた多目的の複合型のオフィスが今後人気になる可能性があります。(提供:YANUSY

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