2期連続マイナス成長もコロナ封じ込めと外需回復で減少幅が縮小

マレーシア経済
(画像=PIXTA)

2020年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比2.7%減(1)(前期:同17.1%減)と、2期連続のマイナス成長となったが、減少幅は大幅に縮小、Bloomberg調査の市場予想(同4.3%減)を上回る結果となった。

7-9月期の実質GDPを需要項目別に見ると、主に内需の減少が続いたことがマイナス成長に繋がった(図表1)。

GDPの6割弱を占める民間消費は前年同期比2.1%減(前期:同18.5%減)と小幅に減少した。一方、政府消費は前年同期比6.9%増(前期:同2.3%増)と上昇した。

総固定資本形成は同11.6%減(前期:同28.9%減)と、2期連続の二桁減少となった。建設投資が同12.9%減(前期:同41.2%減)、設備投資が同8.3%減(前期:同11.1%減)と低迷した。なお、投資を公共部門と民間部門に分けて見ると、全体の7割を占める民間部門が同9.3%減(前期:同26.4%減)、公共部門が同18.6%減(前期:同38.7%減)とそれぞれ減少した。

純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+1.5%ポイントとなり、前期の▲2.7%ポイントからプラスに転じた。まず財・サービス輸出は同4.7%減(前期:同21.7%減)と減少した。輸出の内訳を見ると、サービス輸出(同57.4%減)の大幅減少が続いた一方、財貨輸出(同6.1%増)がプラスに転じた。また財・サービス輸入は同7.8%減(前期:同19.7%減)となり、輸出以上に減少幅が大きい結果となった。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

供給側を見ると、主にサービス業と建設業の落ち込みがマイナス成長に繋がった(図表2)。

第一次産業は同0.6%減(前期:同1.0%増)と小幅に減少した。天然ゴム(同23.9%減)と林業(同18.9%減)、漁業・養殖業(同10.6%減)が前期に続いて大幅に減少した。一方、パーム油(同2.6%増)と畜産(同2.0%増)とその他農業(同4.5%)は増加傾向を維持した。

第二次産業をみると、まず製造業は同3.3%増(前期:同18.3%減)とプラスに転じた。内訳を見ると、石油製品(同8.2%減)や化学製品(同3.9%減)などは前期に続いて減少したが、主力の電気電子機器(同10.2%増)や輸送用機器(同6.3%増)などがプラスに転じたほか、ゴム製品(同62.6%増)や動植物性油脂(同11.4%増)は好調が続くなど、総じて回復の動きがみられた。一方、建設業は同12.4%減(前期:同44.5%減)、鉱業は同6.8%減(前期:同20.0%減)となり、それぞれ減少した。

GDPの6割弱を占める第三次産業は前年同期比4.0%減(前期:同16.2%減)と減少した。情報・通信(同5.4%増)や金融・保険(同5.5%増)、政府サービス(同5.1%増)など成長を支えた業種もあるが、宿泊・飲食業(同29.5%減)や運輸・倉庫(同16.6%減)、不動産・ビジネスサービス(同16.1%減)、卸売・小売(同2.5%減)など多くの業種で落ち込みが続いた。

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(1)2020年11月13日、マレーシア中央銀行が2020年7-9月期の国内総生産(GDP)を公表した。

7-9月期GDPの評価と先行きのポイント

マレーシア経済は昨年半ばまで+4%台の堅調な成長が続いていたが、今年に入ると新型コロナウイルスの感染拡大を背景に景気が減速、4-6月期はコロナ封じ込めを目的に国内外で実施された活動制限措置の影響により経済が大打撃を受けて成長率が前年比▲17.1%と急減した。7-9月期は前年比▲2.7%成長と2期連続で減少したが、前期比でみると18.2%増(前期:同16.5%減)と大きく改善しており、景気は順調に持ち直してきていることが明らかとなった。

マレーシア政府は、新型コロナの感染拡大を受けて3月中旬に活動制限令(MCO)を実施したが、早期に感染状況が落ち着くと5月に条件付き活動制限令(CMCO)、6月には回復活動制限令(RMCO)に切り替え、ほとんどの活動制限が解除されていった。このように経済活動の再開が進んだことや政府が企業の雇用を守るために実施した賃金助成制度が奏功して、7-9月平均の失業率は4.7%(4-6月平均:5.1%)と低下に転じた(図表3)。結果、GDPの約6割を占める民間消費(同▲2.1%)の減少幅が前期の同▲18.5%から大幅に縮小するなど、内需に持ち直しの動きがみられた。

財貨輸出(同+6.1%)の急回復も景気の下支えとなった。新型コロナウイルスの感染拡大や在宅勤務の普及などから世界的に医療用手袋や電気・電子製品の出荷が増えた影響が大きい(図表4)。一方、3月半ばから外国人の受け入れを禁じている状況は依然として続いており、サービス輸出(同▲57.4%)に回復の兆しはみられない。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

マレーシアは感染第一波の早期封じ込めに成功し、その後の感染状況は落ち着いていたが、9月下旬に投開票が行われたサバ州議会選挙をきっかけに人の移動が増えた結果、現在第二波が到来しており、11月以降は1日当たりの新規感染者が1,000人前後に達している(図表5)。政府は10月中旬にサバ州と首都圏、11月上旬には4州を除く全国に条件付き活動制限令(CMCO)を実施、そして感染者が多い地区に対しては強化された活動制限令(PKPD)の実施で封鎖するなど、移動制限を強化している。もっとも今回は全国規模の厳格な制限措置ではなく、企業活動への影響が小さくなるように緩めの制限措置となっている。このため、活動制限に伴う経済的な悪影響は限定的となるだろうが、感染封じ込めに時間がかかることが予想され、実施期限の12月6日に制限令を解除できるかどうかは不透明感が強い。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

10-12月期は、こうした感染再拡大による外出の自粛や活動制限の影響が現れるほか、9月末の融資返済猶予措置の終了によって先送りしてきたコロナ禍の経済へのダメージが今後表面化する展開が予想される。政府はこれまでの景気刺激策パッケージ(2,950億リンギ規模)に100億リンギを追加して景気下支えを図る公算であるが、個人や企業の融資返済の再開によって需要面の落ち込みが大きくなる恐れがある。さらに、現在ムヒディン首相は政権基盤が弱体化しており、国会審議中の来年度予算の成立が遅れるリスクも小さくない。7-9月期は順調な回復を遂げたマレーシア経済であるが、今後は景気持ち直しの動きが鈍化しそうだ。


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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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