結果の概要:4か月連続の前年同期比マイナス圏

ユーロ圏経済
(画像=PIXTA)

12月1日、欧州委員会統計局(Eurostat)は11月のユーロ圏のHICP(Harmonized Indices of Consumer Prices:EU基準の消費者物価指数)速報値を公表し、結果は以下の通りとなった。

【総合指数】
・前年同月比は▲0.3%、市場予想(1)(▲0.2%)より下振れ前月(▲0.3%)から横ばい(図表1)
・前月比は▲0.3%、予想(▲0.3%)と同じで、前月(+0.2%)より減速

【総合指数からエネルギーと飲食料を除いた指数(2)】
・前年同月比は+0.2%、予想(+0.2%)と同じで、前月(同+0.2%)から横ばい(図表2)
・前月比は▲0.5%、前月(+0.1%)から減速

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

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(1)bloomberg集計の中央値。以下の予想値も同様。
(2)日本の消費者物価指数のコアコアCPI、米国の消費者物価指数のコアCPIに相当するもの。ただし、ユーロ圏の指数はアルコール飲料も除いており、日本のコアコアCPIや米国のコアCPIとは若干定義が異なる。

結果の詳細:再度の外出制限も飲食料価格は上昇せず

11月のHICP上昇率(前年同月比)は、全体で▲0.3%、「コア部分(=エネルギーと飲食料を除く総合)」で+0.2%となり、いずれも9月から2か月連続で横ばいとなった。品目別の傾向についても9月以降は変化に乏しいが、以下、詳細を「コア部分」「エネルギー」「飲食料(アルコール含む)」の3分類に分けて見ていく。

まず、コア部分の「エネルギーと飲食料を除く総合」は3か月連続で前年同月比+0.2%となり、内訳で見ると、「エネルギーを除く財(3)」は9月▲0.3%→10月▲0.1→11月▲0.3%とマイナス圏で推移している。一方で「サービス」は9月+0.5%→10月+0.4%→11月+0.6%とプラスを維持しているものの、1%を割る伸び率にとどまっている(図表2)。ただし、サービス価格は11月にはやや加速しており、これまでの鈍化傾向が止まった可能性もある。

コア以外の部分では「エネルギー」が、9月▲8.2%→10月▲8.2%→11月▲8.4%とマイナス8%を下回る伸び率で推移しており、前年同月比寄与度でも11月は▲0.86ポイントと全体のインフレ率を大きく低下させている主因となっている。11月は前月比でも▲0.2%(10月+0.4%)と弱含んでいる(前掲図表1・2)。

「飲食料(アルコール含む)」についても、11月は前年同月比で+1.9%(前月+2.0%)、前月比で+0.3%(10月+0.3%)とほぼ横ばいで推移している(図表3)。10月に高めの上昇を記録した未加工食品も、11月の上昇率は10月からほぼ横ばいで推移した。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

なお、ユーロ圏では新型コロナウイルスの感染急拡大(第2波)への対応として強めの外出制限を課している国が多い。上半期の行動制限時期には飲食料を中心に物価上昇圧力が見られたものの、11月は同様の価格上昇圧力が見られておらず、この点は第1波と異なる状況と言える。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

国別のHICP上昇率を見ると(図表4・5)、11月は前年同月比で未公表のオーストリアを除く18か国中10か国が減速し、また11か国がマイナス圏という状況にある。11月は経済大国でウェイトが最も大きいドイツで▲0.7%とマイナス幅を拡大させる(4)一方で、ドイツに次ぐ大国であるフランス・イタリア・スペインは10月と比較すると若干の減速緩和や加速が見られる。ただし、総じて見ればインフレ基調としては引き続き弱く、今後もゼロ%前後での推移が続くと見られる。

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(3)飲食料も除く。 (4)ドイツではVAT引き下げを実施しており、インフレ率が押し下げられている。具体的には7月から税率で19%→16%(軽減税率は7%→5%)への引き下げを12月まで実施する予定。


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高山武士(たかやま たけし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員

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