企業のコンプライアンスに対する社会の目は厳しさを増すばかり。経営・組織コンサルティングを数多く行う秋山進氏は、「実は会社を窮地に陥れるような企業不祥事は上からの圧力によるものが多い」と指摘する。

企業のコンプライアンス問題に対処してきた中でその裏側を熟知した秋山氏は新著『これだけは知っておきたい コンプライアンスの基本24のケース』において、企業で起こりがちなコンプライアンス問題を例に挙げつつ、その行為の違法性や対応策を解説している。

本稿では、同書より粉飾決算、サービス残業の2ケースについて触れた一節を紹介する。

※本稿は秋山進著『これだけは知っておきたい コンプライアンスの基本24のケース』(日本能率協会マネジメントセンター刊)より一部抜粋・編集したものです。

粉飾決算の前夜

これだけは知っておきたい コンプライアンスの基本24のケース
(画像=PIXTA)

【ある営業マンの懸念】わが社は20年連続の増収増益であり、監督官庁にも褒められるような優良企業である。ところが、実際には少し前から事業は厳しい状況にある。

既存顧客向けに追加購入のインセンティブ施策を打ち出し、売上と利益の先食いをして、どうにか無理やりつくった増収増益なのである。そろそろ“連続増収増益”の看板を下ろし、問題を抜本的に洗い出し、改革すべき状況にある。

私の属している営業部門でも、今期は建前としては増収増益を目指すものの、実際には成長を諦めて、事業の見直しに注力することになっていた。ところが、昨対マイナスの第1四半期の結果が出たところ、突然、社長が叫び始めた。「何が何でも増収増益を目指せ!」と。

話が完全に変わってしまったのである。理由は、社長が創業者で大株主でもあるオーナーのところに報告に行ったところ、こっぴどく叱責されたからだという。「社長にしてやった恩を忘れたのか。数字を出せないのなら、さっさと辞めろ。取締役全員クビだ」と。

オーナーは高齢である。残念なことに、市場の厳しい状況も、日進月歩の技術の発展も、自社の優位性がすでになくなっていることも、おそらくわかっていないのだろう。

【社長のメッセージを受け、管理職を集めて開催された営業部の緊急会議に出席していた田村課長が席に戻ってきた】

上林:――で、具体的にはどうするんですか?

課長:取引するお客様の基準を大幅に緩めることになった。これまでは売ってはいけなかったCクラスのお客様にも販売する。

上林:課長。それはマズイです。Cクラスに販売したら売上は上がっても普通に回収できるかどうかわからないですよ。

課長:それはよくわかっているよ。でも仕方がない。

上林:未回収はペナルティーがありますから営業は売りません。

課長:債権が滞留した場合のペナルティーもなくなる。

上林:ほんとですか!でもこんなことやっていいんですか?

課長:いいわけないよな。何でこんなバカなことやるんだろう。

法的には問題がないが…違法行為の入り口

現段階で法的問題になることはありません。本年度の売上と利益を上げるために、社内で設定した営業対象を非合理的に広げただけです。違法行為ではないので罰則もありません。しかしこの意思決定は確実に不幸な未来を作り出します。

本年度の増収増益は維持できるかもしれませんが、滞留債権は確実に増大し、さらにはそのうちの多くが回収不能または極めて難しい不良債権となり、貸倒損失を計上しなくてはならなくなります。

それにもかかわらず増収増益を続けようとすると、その損失を上回って余りある売上利益を計上する必要があり、そうなると高い確率で架空受注や下請への圧力による不当な販売などの違法行為が生み出されることになります。

意思決定は「共有」することが大切

会社が社会的に高く評価されていると、そのイメージを保つために、見栄を張り無理をすることがあります。

本件の場合、会社の置かれている厳しい状況を理解しようとしないオーナーの見栄のために、社長は明らかに間違った意思決定をしたのですが、こういう意思決定をさせない仕組みや文化をつくらなくてはなりません。

この意思決定は違法ではなく単なる社内ルールの変更ですが、この変更こそが将来の違法行為を生み出す元凶となります。社内の管理部門や心ある管理職は徹底的に抵抗して、このような変更を阻止しなければなりません。場合によっては社外取締役や監査役などを巻き込むことも必要です。

では、もう一つ、別のケースも考えてみましょう。