サービス残業を強制させる流れ

うちの部は、全員が月45時間以内に残業を抑えている。部長は朝礼でいつも言う。「生産性をあげよう。無駄な時間を減らして早く帰ってください」と。ただ現実は少し違う。毎月3週目くらいを迎えると、課長はこんなことを言う。

課長「みんな時間管理わかってますね。45時間までそれぞれあと何時間残ってますか?各自しっかりと自分の状況を確認して、決して45時間をオーバーしないように」

――しかし、課長はこうも言う。

課長「何が何でも納期は守らないといけない。納期が守れない企業や社員は顧客からの信頼を失う」

――たしかに顧客の信頼を失ったら、売上減は余儀なくされる。でも、それって納期守れないと罰則という意味?と思ったりもする。そういう意味で使っているのではないとは思うのだけれども……。

そして、我々が頭を悩ませていると、課長は「知恵を出せ。生産性をあげろ。君たちならできる」とも言う。これまたごもっともだ。で、実際どうしているかというと、課員のほぼ全員が自宅や会社でサービス残業をしている。

課長が言うように生産性がアップして時間短縮ができればいいのだけれども、知恵が泉のように湧いてくるわけでもない。すでに相当の業務改善をしてきたのだ。改善すべきところもあまり残っていない。

とはいえ、課長から「サービス残業をしろ!」と強制されたこともない。実際の残業時間は60~70時間くらいの気がする。ガマンできないこともない。あえて事を荒立てることもないし、それほどひどい状況でもない。そんなことで、今の状況がこれからも続くのだろうなと諦めている。

原因は「能力不足」ではない

サービス残業とは雇用主が、残業代の全部または一部を支払わずに法定労働時間を超えて従業員を働かせることで、労働基準法の違反行為となります。

一般的には、部下に残業の申請を行わさせず、一方では、業務時間内では遂行不可能な質と量の業務を課すことで、残業せざるをえない状況を作り出すことによって生まれます。

時間外労働については、原則月45時間、年360時間までと定められており、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることができません。そのため45時間を超える分についてサービス残業しろと(言外に)強制される可能性があり、上記のケースはそれに該当します。

罰則としては「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が定められています。また厚生労働省は労働基準関係法令に違反した企業名を同省のホームページに掲載しており、ここに名前が出ると企業の社会的評判が大幅に低下します。

万が一のために、記録しておく

企業は労働者の代表と36協定(※サブロク協定)を結べば時間外労働や休日労働を行わせることは可能ですが、無制限に働かせることはできません。この上限を定めているのが限度時間(原則月45時間、年360時間)となります。

本ケースは、自発的に残業をしているように見える状況となっていますが、好ましくありません。本来は現況を課内で共有する場を持ち、仕事のダブりを減らすなどの生産性向上と仕事量の削減などに取り組むことで、サービス残業をなくさなければいけません。

もし、上司がサービス残業をすべく誘導する場合は、会社の相談窓口等に連絡してみてください。

※サブロク協定:労働基準法に基づく労使協定。企業が法定労働時間(1日8時間1週40時間)を超えて労働させる場合等に必要なルール

これだけは知っておきたい コンプライアンスの基本24のケース
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秋山進(プリンシプル・コンサルティング・グループ代表)
様々な企業のコンプライアンス問題に対処してきた中でその裏側を熟知した著者が、ありがちなコンプライアンス問題を上司と部下とのミニストーリーで解説。汎用的なケースばかりですので、社内のコンプライアンス研修テキストにも使えます

(『THE21オンライン』2020年10月12日 公開)

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