コロナ禍で多くの企業が売り上げを落とし、減収減益に沈んだばかりか、じつに6割に上る企業が業績予想を発表できないという異常事態となった。中でも影響が大きかったと思われる業界「ドラッグストア」について分析していこう。
マスクや衛生商品が飛ぶように売れ活況
「マスクは売り切れです。次の入荷までお待ちください」
新型コロナが猛威を振るった今年3月以降、ドラッグストアの店頭にはこうしたPOPが数多く見られた。連日、大量の感染者が確認されて死者も相次ぐ中、ほぼ全国民がマスクを着用するような事態に陥ったためだ。
「入荷して店頭に並べた途端、顧客は奪い合うように購入していった」(ドラッグストア店長)という売れ行きで、ドラッグストアは「あまり大きな声では言えないが、新型コロナさまさま」(同)といった状況だった。
マスクだけではない。消毒液やうがい薬といった衛生商品も飛ぶように売れ、既存店売上高は前年同月比で3割、4割増が当たり前という“空前の活況”を呈していた。
それでなくても今やドラッグストアは、医薬品や健康関連商品だけでなく、化粧品や食品、中には生鮮食品まで取り扱い、「ライバルはスーパー」とまで言われる状況で、Eコマースなどに押されて苦境に陥っていた小売業界において一人勝ちの状況。そこに新たな“神風”が吹いたのだから、笑いが止まらないというのが正直なところだろう。
現に、最大手のツルハホールディングスの2020年5月期第3四半期決算は、売上高が6.7%増、営業利益は15.7%増の増収増益となったのを始め、2番手のウエルシアホールディングスも、売上高は11.4%増、営業利益は30.1%増で大幅な増収増益となるなど、おしなべて好決算に沸いている。
しかし、ドラッグストアの決算を詳しく見ていくと、十把一絡げに好調だったとは言い難い実態が浮かび上がる。実は、企業の戦略によって濃淡がくっきりとついているのだ。
インバウンド店を撤退したコスモス薬品
「もうインバウンド店からは撤退する」
福岡県を主な地盤とするドラッグストア大手の「ディスカウント・ドラッグ コスモス」は、東京・池袋の店舗の閉鎖を決めた。オープンからわずか2ヵ月しか経過していない店舗が閉店になるのは、異例のことだ。また、コスモス薬品が閉店を決めたのは池袋店だけではない。東京の中野店や福岡の中洲店など、じつに15店の一斉閉店を決定したのだ。
これらの店舗は全て「インバウンド店」。商品構成はもちろん、店舗についても免税対応などに主眼を置き、訪日外国人をターゲットにした店作りをしていた。というのも、急増していた訪日外国人を囲い込もうとしていたからだ。
2007年、政府は観光立国を国の重要な施策の一つに掲げ、観光立国推進基本法を施行。その翌年の2008年には観光庁が設置された。あわせてビザの要件緩和や免税措置を進めたことにより訪日外国人は急増。2018年には初めて3000万人を突破、前年比8.7%増となる約3119万2000人となった。
こうして日本にやって来た訪日外国人に人気が高かったのがドラッグストアだった。先を争うように化粧品や衛生商品などを買い漁り、大きなスーツケースに詰め込んで帰国する姿は記憶に新しい。そうした状況を見て、コスモス薬品もインバウンド店の展開を決め、地元福岡だけでなく、東京を始めとする大都市圏で専門店の展開を進めようとしていたのだ。
ところが新型コロナで様相は一変。世界中でまん延した影響で、海外渡航が禁止された国も多く、“爆買い”のインバウンドが “消滅”してしまったのだ。
「インバウンド向けに思い切り舵を切った店舗だったので、1日の売り上げがほぼゼロといった日も少なくなかった。終息が見えない中で、ずっと赤字を垂れ流すわけにはいかないと考え撤退を決意した。これからはもともと強かった食品を始めとする郊外店に原点回帰する」と関係者は明かす。
大盛況だったマツモトキヨシが一転
インバウンド消滅の影響をもろに受けたのは、ドラッグストア最大手の一つ、マツモトキヨシだ。
2020年3月期こそ売上高2.5%増、営業利益も4.3%増とそれなりの決算を発表できたものの、21年3月期は一転減収減益予想となっている。特に上期の業績悪化は厳しく、売上高は11.8%減、営業利益に至ってはほぼ半減の48.4%減となる予想だ。下期に少し持ち直す見込みだが、それでも通期で売上高3.5%減、営業利益も18.8%減と見ている。
「訪日外国人を中心顧客に据えたインバウンド店を積極的に展開しこれまでは大盛況だったが、新型コロナで訪日外国人が全く来なくなって一気に苦しくなっている。銀座や新宿といった大都市や駅前に数多くの店舗を展開していたが、こうした店舗は家賃も桁外れに高く、売上がゼロ近くになってしまうと真っ赤っかで、かなり厳しいだろう。下手をすると減益幅がさらに拡大するかもしれない」と業界関係者は見ている。
経営統合に暗雲か
こうしたインバウンド戦略を進めていたのは、マツモトキヨシと2021年10月に経営統合を予定しているココカラファインも一緒だ。
統合を前に、マツモトキヨシに第三者割当増資を引き受けてもらう形で381億円を調達したことで一息つけたのもつかの間、新型コロナに見舞われたことでマツモトキヨシと同様に、インバウンド客が消えた。そのため、やはり上期を中心に7割近い営業減益予想。通期では減収ながら増益になると予想しているが、「影響がその程度で収まるか不透明」と指摘する声も業界内には根強い。
「統合によって売上高1兆円規模のメガドラッグが誕生し、業界ナンバーワンに躍り出るとあって、業界内では再編機運が一気に高まった。しかし、補完関係でシナジー効果が生まれるといいながら、両社ともにインバウンド比率が高いこともあって統合に暗雲が立ち込めている。今後、ビジネスモデルを見直さなければならなくなるのではないか」と業界関係者は指摘する。
高粗利商品の売り上げ不振で好調さにも陰
ただ、今は好調なドラッグストアも、「粗利率が高い商品が売れなくなっている」と嘆いている。ドラッグストア各社のビジネスモデルは、食品を始めとする低粗利商品で来店を促し、化粧品やクスリなど高粗利商品を買ってもらうことで利益を上げるというもの。ところが、外出自粛や巣ごもり消費の普及などによって、高粗利商品が売れなくなってきているというのだ。
「新型コロナが発生した直後はマスクや衛生商品などが馬鹿売れして“コロナ特需”に沸いたが、そうした商品は粗利が低いから、売り上げが落ち着いてくると儲からない。そうした中で、家から出ないしマスクを着用するからといって化粧をしない女性たちが増えてきて化粧品の売り上げが激減している。特需だからといって喜んでいられない状況になってきた」(ドラッグストア幹部)
一見、好調に見えるドラッグストア。だが、戦略によって濃淡があり、決して明るい将来を描ける会社ばかりでもなさそうだ。
※2020年6月21日執筆
文・MONEY TIMES編集部
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