そろそろ確定申告の季節がやってきます。給与所得者にとって確定申告とは、今年支払った費用を申告し、税金の還付を受けるチャンスでもあります。医療費やふるさと納税の寄付金などは年末調整ではできないので確定申告で申告する必要があります。この記事では、確定申告で医療費控除を受ける方法を、出産費用を例にとって解説します。
目次
税の仕組みについて 所得・所得控除・医療費控除とは?
確定申告で医療費控除を受ける方法を説明する前に、税金の計算の仕組みについて触れておきたいと思います。ここでは納税者がサラリーマン、すなわち給与所得者の場合の個人所得税および住民税の計算の方法について説明をします。
給与収入から所得税額を計算するには次の(A)から(F)までのプロセスを踏みます。
▽所得税の計算のプロセス
A | 給与収入 |
B | (-)給与所得控除額 |
C | 所得金額 = A-B |
D | (-)所得控除額 |
E | 課税所得金額 = C-D |
F | 所得税額・住民税額 ※Eをもとに計算される |
その年の源泉徴収票をみると、「支払金額」の欄にその年の「A:給与収入」が記載されています。「B:給与所得控除」とはサラリーマンの経費ともいえるもので、給与収入をベースに一定の算式で計算されます。「C:所得金額」は、A¬¬-Bで求められます。普通“所得”というと、この金額を指します。
(D)所得控除は所得から税金のかからない金額として差し引くことができるものです。所得控除には、「人的控除」と「物的控除」があり、全部で14種類の項目があります(下記【参考】に一覧を記載)。人的控除は納税者本人と扶養家族の状況に応じて、物的控除はその年に支払ったお金の内容に応じて控除されます。
所得控除額を大きくすると、税金のかかる部分、つまり(E)課税所得金額が小さくなり「節税」につながります。この記事で焦点を当てる「医療費控除」は所得控除のうち物的控除にあたり、この医療費控除の金額が大きくなれば、そのぶん税負担が軽減されることになります。
課税所得金額に所定の税率をかけると、(F)所得税額・住民税額が求められます。所得税率は課税所得金額が大きくなればなるほど、税率が高くなります。所得税や住民税の具体的な計算方法は、下記の関連記事でも解説しています。
【参考】所得控除の項目
人的控除 | 基礎控除、配偶者控除、配偶者特別控除、扶養控除、障碍者控除、ひとり親控除・寡婦(夫)控除、勤労学生等控除 |
---|---|
物的控除 | 社会保険料控除、生命保険料控除、地震保険料控除、小規模企業共済等掛け金控除、医療費控除、雑損控除、寄付金控除 |
出産した年は医療費が多いので、医療費控除申告のチャンス
税金の仕組みをおさらいしたところで、本題である「医療費控除」の控除額の計算のプロセスについて説明したいと思います。
医療費控除の金額は、次の式で計算した金額(最高で200万円)になります。
▽医療費控除額の計算式
A | 実際に支払った医療費の合計額 |
B | (-)保険金などで補填される金額 ※ |
C | (-)一律で差し引かれる金額 = 10万円 |
D | 医療費控除額 |
※B中の「保険金」とは、生命保険契約などで支給される入院費給付金、健康保険などで支給される高額療養費・家族療養費・出産育児一時金などをいいます。
※その年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額になります。
一方、出産にはどのくらいの費用がかかるでしょうか。国民健康中央会 2016年度のデータによれば、東京都で出産した場合の正常分娩の平均的な出産費用(妊婦合計負担額)は62万1,814円です。
もちろん出産にかかわる負担費用の中には、医療費控除の対象となる分娩費用や入院費用、妊娠と診断されてからの通院費用なども含まれますが、場合によっては対象とならない費用もあります。
ここではわかりやすいように、その年の医療費が出産費用だけだったとして、かつ全額が医療費控除の対象となる場合を想定して、いくら申告できるか上記の計算式に当てはめてみます。
▽当年の医療費が出産費用だけの場合の費目と金額イメージ
A | 実際に支払った医療費の合計額 | 62万1,814円 |
B | 保険金などで補填される金額 | -42万円(出産育児一時金) |
C | 一律で差し引かれる金額 | -10万円 |
D | 医療費控除額 | 10万1,814円 = A-B-C |
ここまでの説明で気づかれた方もいると思いますが、医療費控除を申告するためには2つのハードル、つまり乗り越えるべき“差引金額”があります。
ひとつめは、保険金などで補填される金額です。これには、自分自身で加入した民間医療保険の入院給付金、手術給付金など、または健康保険などによる公的保険による高額医療費、そして、ここで取り上げた出産の場合に支給される出産育児一時金などがあります。
2つめは一律で差し引かれる10万円です。医療費の合計額がこれら2つの差引金額の合計金額を上回る場合に、確定申告で医療費控除を受けることができます。
ところが、上記の例では2つのハードルをクリアして、約10万円の医療保険控除の申告ができるようになっています。それは、合計差引金額52万円を考慮しても、出産費用の支出が大きいからです。
その年に病気にかからなかった方でなければ、出産費用以外の医療費がかかっているはずなので、その分を加えると医療費控除額はさらに大きくなります。
医療費控除を申告する目的と確定申告のやり方
医療費控除を申告する目的は、節税です。医療費控除額の分だけ税金がかからなくなるので、すでに支払っている所得税が還付されます。また、1年半遅れで翌年以降に支払う住民税も減額されます。
ただし、いずれの場合も確定申告が必要になります。具体的な方法について確認しておきましょう。
確定申告の方法:領収書は5年の保管、必要書類の確認も重要
サラリーマンの方は、通常、年末調整で所得控除を申告し、還付を受けることができます。 たとえば、その年支払った生命保険料を申請すれば生命保険料控除が受けられ、還付金が戻ります。
ところが、医療費控除の申告は年末調整ではできないので、確定申告で自己申告しなければなりません。今までに何度か確定申告をされた方もいらっしゃるかと思いますが、準備すべき資料は次のとおりです。
▽医療費控除を受けるために準備するもの
1 | 確定申告書 | 給与所得のみの方は確定申告書Aを使います。税務署でもらうか、国税庁のHPからダウンロードすることが可能です。 |
2 | 医療費の明細書 | 3.医療費の通知書や4.医療費の領収証をもとに明細書を作成します。 |
3 | 医療費の通知書 | 健康保険組合から送られてくる医療費の内訳を記したものです。 |
4 | 医療費の領収書 | 還付申告に添付は不要ですが、5年間の保管する必要があります。 |
5 | その年の源泉徴収票 | 年末か翌年初に勤務先からもらうので、確定申告書を作成る際に使用します。 |
医療費がかかった翌年の2~3月ごろの確定申告時に提出すれば、4~5月ごろには所得税の還付をうけることができます。住民税は医療費がかかった翌年6月から翌々年5月にかけて納付しますが、あらかじめ医療費控除が適用されたうえで納税額が決定しています。
実際にいくら税金が還付・減額されるのか?
医療費控除を申告したら節税額はいくらになるでしょうか。出産した年を想定した、具体的なケースで試算してみたいと思います。
出産費用は前項のケース同様に62万1,814円とし、出産育児一時金を適用。さらに出産費用以外の医療費で、その年に10万円の医療費の支出があったとすると医療費控除額は次のように計算できます。
▽出産以外に年間医療費10万円の場合の医療費控除額シミュレーション
A | 実際に支払った医療費の合計額 | 72万1,814円 |
B | 保険金などで補填される金額 | -42万円(出産育児一時金) |
C | 一律で差し引かれる金額 | -10万円 |
D | 医療費控除額 | 20万1,814円 = A-B-C |
こうして求められた医療費控除額をもとに、納税者の条件を次のとおり仮定して節税額を概算で計算してみます。
▽モデルケース
・納税者の給与収入:1,000万円
・同課税所得金額:576万円(専業主婦(夫)世帯、15歳未満の子供2人と想定)
・所得税の還付額:
20万1,814円×20%=約4万360円 ※1
・住民税の減額分:
20万1,814円×10%=約2万180円 ※2
還付額と減税額の合計 約6万540円
※1:課税所得金額は576万円なので、所得税の速算表によれば所得税率は20%。よって20%相当分が還付される
※2:住民税の税率(所得割)は、課税所得金額にかかわらず10%。よって、10%分が減額される
所得税と住民税を合わせて、6万円以上の節税効果があることになります。
確定申告について知っておくと役に立つこと
最後に確定申告について知っておくと役に立つことを説明したいと思います。
(1)還付申告は翌年の1月1日から申告が可能
一般に「確定申告」という言葉が使われますが、「確定申告」は前年の税金を納めていない自営業者の方のためのものです。自営業者にとって確定申告は納税のために必要な義務で、確定申告を行わず、納税をしないと延滞税などの罰則が適用されます。
それに対し、サラリーマンの方は源泉徴収で納税済み、年末調整で精算済みなので「確定申告」の義務はありません。サラリーマンの方が行う「確定申告」は税金の還付を請求する「還付申告」であり、準備さえしておけば、翌年の2月16日を待たず、1月1日から行えます。還付金を早く受け取りたい方は1月早々から申告されることをおすすめします。
(2)還付申告は5年間さかのぼってすることが可能
還付申告は5年間さかのぼってすることが可能です。ですから、2年前に医療費控除の申告をしたけれど、高額の領収書が見つかった場合、または、その年は還付申告をしていなかったが、生命保険料の控除証明書が出てきた場合など、所得控除に当てはまる費用なら、あらためて還付申告をして税の還付を受けることができます。意外に大きな金額になることがあるので、申告をし忘れた方は昔の領収証を探してみる価値があると思います。
(3)共働き夫婦は所得の高い方が申告をすると、節税効果が大きくなる
夫婦のうち高所得である方が確定申告を行ったほうが節税額は大きくなります。次の例で説明します。
▽共働き夫婦のモデルケース
(夫)
給与収入:1000万円
課税所得金額:614万円
(妻)
給与収入:500万円
課税所得金額:232万円
医療費控除額:20万1,814円
(医療費控除額は世帯で合算)
夫が申告した場合 | 妻が申告した場合 | |
---|---|---|
所得税の還付額 | 4万360円 ※1 | 2万180円 ※2 |
住民税の減額分 | 2万180円 | 2万180円 |
節税額計 | 6万540円 | 4万360円 |
※1:2万1,814円×20%=4万360円
(夫の課税所得金額は614万円、すなわち330万円超から695万円以下なので所得税率は20%)
※2:2万1,814円×10%=20,180円
(妻の課税所得金額は232万円、すなわち195万円超から330万円以下なので所得税率は10%)
すなわち、課税所得金額による所得税率の差が、還付額にも影響することになります。共働きであっても夫婦は同一生計なので、医療費控除に限らず所得控除に関する申請は給与の高い方にまとめたほうが有利ということになります。
以上、医療費控除を例にとって、確定申告により税を還付する方法およびその節税効果について説明をしました。医療費控除に限らず、積極的に節税を考えていただけると幸いです。(提供:JPRIME)
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