「部下が自分の言うことを聞かない」「指示したことをやらない」……そんな悩みを持っているリーダーは多いはず。接客・サービス業の現場リーダーに数多くの研修を行っている船坂光弘氏は、「そんなときまず確認すべきは、部下の『心のコップ』の上向きになっているかどうか」だという。

※本稿は、船坂光弘著『接客・サービス業のリーダーにとって一番大切なこと』(PHP研究所)の一部を抜粋・再編集したものです。

現場の問題点を指摘し、改善を促したが…

思考の習慣,船坂光弘
(画像=THE21オンライン)

私がホテルマンを卒業し、ホスピタリティ・コンサルタントとして初めて仕事をいただいたホテルでの出来事です。そのホテルの社長から、「最近、スタッフの入れ替わりなどからサービス品質が下がり、それに伴いお客様からの口コミ評価も業績も下がっている」と相談を受けました。

その後私からの提案で、1年間でサービス品質を上げて業績向上を目指すプロジェクトを立ち上げることが決まり、私がサポートさせていただくことになりました。したがって、私のミッションはホテルの「サービス品質向上」と「業績向上」です。

そのミッションを遂行すべく、早速、現場を見てみると、「スタッフの笑顔」からはじまり「館内のクリンネス」「接客応対」など、改善すべき課題がたくさん見つかりました。私は、それをすぐに現場にフィードバックし、改善を促しました。

思うように動いてくれないのは、心のコップの向きが原因

しかし、いっこうに改善される気配がありません。私は語気を荒げて「社長からの指示で実施しているプロジェクトなのに、なぜ改善しないんですか!」とメンバーに訴えました。

メンバーからは、「人がいない」「時間が無い」といったできない言い訳ばかり……。それを受けて当時の私は、「スタッフたちのこの取り組みに対するやる気のなさ」を問題にして社長に訴えました。しかし、すぐにそれは私の間違いであることに気づきました。

なぜメンバーが動かなかったか。それは、「メンバーの心のコップが上向きになっていなかった」からです。今思うと、社長が連れてきたコンサルタントからいきなり「ああしろ、こうしろ」と上から言われても、現場が受け入れがたいと思うのも無理はありません。

つまりメンバーは、私に対しての「心のコップが伏せられた状態」であり、私がどんなに正しいことを言っても、メンバーの心の中には何も入っていかない状態だったのです。