グループ経営とは、親会社と子会社により構成される企業グループを、一つの組織のように意思統一して運営していくことである。この記事では、グループ経営をするうえで押さえておきたいメリットやデメリット、成功のためのポイントについて詳しく解説していこう。
グループ経営とは
グループ経営とは、資本関係にある親子会社などが企業グループとしての意思決定を統一化し、組織目的を実現していくための経営手法である。また、元来は独立した複数の企業が一体となってグループを構成し、取引拡大や付加価値の向上を図っていくグループ経営もある。
グループミッション
グループ経営を行うために必要なのが、まずグループミッションだ。ミッションとは「使命」のことだ。グループミッションとは、各企業の枠を超え、グループとして何を実現するのか、その使命のことを意味している。グループミッションが明確に定義されることによりはじめて、グループ内の企業それぞれが同じ方向を向くことができるようになる。グループミッションとあわせて、ビジョン(理想像)やバリュー(価値)も定義していく必要がある。
資源の最適配分
さらに、グループ経営で重要なのは、グループシナジーを最大化するための施策である。それが資源の最適配分だ。資源の最適配分を実現するには本社の役割が重要だ。グループ企業各社が持つ有形・無形の資源を本社が理解し、そのそれぞれをグループ企業全体で利用できるよう、配分を行う必要がある。そのためには、グループ内の情報を本社が常に把握できるための体制を構築しておかなくてはならない。
一般的には、グループ経営を行うことによって、子会社の責任の範囲が明確になり、各社の自律性を高めることができるといわれている。一方で、財務面では、本社を通じたグループ全体のキャッシュ・マネジメントが必要になる。
以下の事例をみてみよう。
※筆者作成
単一の法人のA社では、事業部制を採用している(本社、B事業部、C事業部)。損益状況は、本社(△30)、B事業部(100)、C事業部(△30)で、企業規模拡大に向けてグループ化を検討しているとしよう。
税務面では、単体での申告で16の納税、グループ化しただけでは40の納税、連結納税を採用すると16の納税となる。事業運営面では、A社とB社の関係は、A社は業績が好調なB社から余剰資金を吸い上げる場面が発生する。ここでの資金移動方法は、B社からA社に対する配当が一般的であるが、この場合、原則として株主総会の普通決議が必要となるのだ。
また、株主総会で配当額の上限を確定させておいて、その後取締役会の決議によって、必要に応じて移動させることも可能だ。
2010年10月1日以降は、グループ法人間の受取配当等の益金不算入制度が適用され、課税が発生することなくグループ間での資金移動が可能となる。そのほか株主総会や取締役会の決議を経ずに、実施する方法として、寄附金による資金の授受を行うことも考えられよう。
一方、A社とC社との関係では、C社が赤字であったため、運転資金等が不足している場合は、A社からC社に対するグループ資金の貸し付けというかたちで資金融通が行われる。いずれにしても、A社では、グループ全体の営業・投資・財務活動から発生したキャッシュ・フローについて、新たな設備投資等の投資活動に使用するか、または借入金の返済や株主への配当等の財務活動に使用するかなど、全体最適の観点から意思決定を行うのだ。
グループ経営のメリット
グループ経営にどのようなメリットがあるかをみていこう。
1.意思決定のスピードの向上 各事業に関する権限は事業会社に集中するため、経営環境に柔軟に対応できる体制が確保される。また、将来のグループ経営者にマネジメントを学習する機会が生まれる。
2.管理体制の強化 商標権等の一元管理等管理体制の強化に資すると考えられる。
3.ブランドの共有と利用 1つの会社の中で、地域や業種によって給与体系を変えることは、不可能ではないが、従業員間に不公平感が生まれる。業種ごとに会社を分けることで、ブランドを共有しつつ、給与体系や社風に違いを持たせることが可能となる。
4.事業再編が実行し易くなる 事業の取得や売却が事業会社の取得や売却という方式で行われるため、事業再編が行いやすくなる。
5.税負担の軽減 例えば、連結納税制度は、原則100%子会社のみを対象としており、同制度の利用により、赤字会社と黒字会社の所得を通算できるため、税負担を軽減できる。
グループ経営のデメリット
グループ経営にはデメリットもある。どのようなデメリットがあるかをみてみよう。
1.間接コスト増大の可能性 傘下企業が独自に間接部門を保有する場合、間接コストが増大する可能性がある。 (⇒シェアドサービスの導入により間接コストの最小化を図ることが可能)。
2.グループ意識喪失の恐れ 権限委譲により、各社の足並みが揃わず、グループとしての総合力は発揮できないことも考えられる。(⇒持株会社のリーダーシップによりグループの連携を図ることが必要)。
グループ経営を成功させるには
グループ経営を成功させるためには何が重要かをみていこう。
明確なビジョンを持つ
グループ経営を成功させるために必要なのは、まず明確なビジョンを持つことだ。ビジョンとは、前述のミッションを達成することにより、グループや組織がどのような姿になるのか、その理想像を意味している。ビジョンには、期限を設けずに設定する恒久的ビジョンと、中長期のビジョンとの2つがあり、両方の適切な設定が重要だ。
グループ全体の可視化
グループ経営においては、企業内部が可視化されるばかりでなく、グループ全体が可視化される必要がでてくる。本社は、グループ内各企業の状況を常に把握し、必要に応じた資源の最適配分を行わなければならないからだ。グループ全体での基幹システムの標準化は、欠かせない課題となる。
定期的なガバナンスの強化・見直し
前述のとおりグループ経営においては子会社の不祥事などの影響が、グループ全体に波及することがある。したがって、子会社のガバナンス強化は重要な課題となる。内部不正防止のための監督機能の強化や、社外取締役の起用による競争力強化などが必要となるだろう。
業務効率化
グループ経営においては業務効率化も大きな課題だ。グループ経営のメリットとなる経営基盤の共有や人員の最適配置などを行い、業務効率化を進めていくことが必要だ。
データの細かい分析
グループ経営においてはデータの細かい分析が、単体の企業を経営するより大きな課題となってくる。グループ内企業のデータを横断的に収集することにより、経営状態の正確な把握が必要だ。また、収益性や安全性、活動性などの財務分析指標も、迅速な把握が重要だ。
人材の確保・育成・的確な配置
グループ経営においては人材の確保・育成・的確な配置も、成功のための大きなポイントだ。グループ企業間の垣根を超えた人材交流は有効な施策の一つとなる。また、グループ全体で勤怠管理を行い、働き方改革を進めることも重要だろう。
働きやすい環境づくり
働きやすい職場環境づくりも、グループ経営を成功させるポイントだといえる。グループ企業社員のモチベーションアップこそが、業績アップに大きくつながってくるからだ。適切な雇用管理や人材評価、人材育成は重要な課題だといえるだろう。
グループ経営は資源の最適配分に注意をはらおう
企業グループをあたかも一つの組織のように運営しているグループ経営は、グループシナジーを最大化させることが大きなポイントとなってくる。そのために必要なのは、グループ内の情報を常に把握しながらの、資源の最適配分だ。資源の最適配分に注意をはらい、グループ経営を成功させよう。
文・福薗健(公認会計士・税理士)
プロフィール
福薗 健 (ふくぞの たけし)
公認会計士税理士福薗事務所所長 公認会計士・税理士。1970年生まれ。監査法人、上場会社を経て開業。監査法人時の法定監査、M&Aのための財務調査・企業評価、上場会社経営企画時のIR、グループ間の調整などの経験を踏まえ、会社設立から上場会社に並走しながら会計、税務を中心に会社に日々対応している。
(提供:BUSINESS OWNER LOUNGE)