要旨
● 緊急事態宣言の発出により一都三県の不要不急消費が一か月止まると仮定すると、通常に比べて最大▲3.3兆円の家計消費が減ることを通じて、GDPベースでは通常に比べて最大▲2.8兆円(年間GDP比▲0.5%)の損失が生じる計算になる。また、近年のGDPと失業者数との関係に基づけば、この損失により+14.7万人の失業者が発生する計算になる。
● 内閣府の「景気ウォッチャー調査」を用いて、緊急事態宣言が発出された2020年4月の現状判断指数を業種別に見ると、最も悪化したのが百貨店であり、営業を止めていたことの影響が大きかった。次が飲食関連となっており、夜の時間に営業できなかったことが大きかった。続いて低水準だったのは旅行・交通関連、次が衣料品専門店となっている。背景には、外出しなくなったことで、服を買わなくなったということがある。
● 人が動くことによって需要が発生する産業にとって、緊急事態宣言発出はやはり相当大きなダメージがあると想定される。仮に緊急事態宣言発出となった場合は、政府は予備費を活用してそれ相応の保証が必要となってくるだろう。
はじめに
首都圏で新型コロナウィルスの感染拡大が続く中、1都3県の知事らが緊急事態宣言の発令要請に踏み切った。西村康稔経済再生担当相はこの要請を受け、記者団に「国として受け止め、検討していく」と表明し、専門家による政府分科会の意見を踏まえ、慎重に判断する方針を示している。
新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言は、外出制限や交通規制に対して強制力がなく、海外で行われているロックダウンを実施することにはならないものの、昨年4-5月にかけての発出により2020年4-6月期のGDPが過去最大の落ち込みを示したことからすれば、更なる経済活動自粛の動きが強まることは確実だろう。
一都3県1か月発出でGDP▲2.8兆円減
実際、緊急事態宣言発動に伴う外出自粛強化により、最も影響を受けたのが個人消費である。そこで、2020年7-9月期の家計調査(全世帯)を基に、外出自粛強化で大きく支出が減る不要不急の費目を抽出すると、外食、設備修繕・維持、家具・家事用品、被服及び履物、交通、教養娯楽、その他の消費支出となり、支出全体の約51.7%を占める。
この結果と一都三県の家計消費が全国の約1/3を占めることからすれば、緊急事態宣言の発出により一都三県の不要不急消費が一か月止まると仮定すると、2020年7-9月期の家計消費を基準とすれば最大▲3.3 兆円の家計消費が減る。さらに、産業連関表の付加価値誘発係数に基づくと、GDPベースでは2020年7-9 月期のGDPを基準として最大▲2.8兆円(年間GDP比▲0.5%)の損失が生じる計算になる。
また、近年のGDPと失業者数との関係に基づけば、実質GDPが1兆円減ると2四半期後の失業者数が5.2万人増える関係がある。従って、この関係に基づけば、一都3県で緊急事態宣言を1か月発出することにより、半年後に+14.7万人の失業者が発生する計算になる。
移動・接触ビジネスには大きなダメージ
実際にこうした影響は、緊急事態宣言で自粛を要請して経済活動を止めた時期の経済指標を振り返れば、ヒトやモノが動かないことによるダメージがいかに大きかったかがわかる。
そこで、内閣府の「景気ウォッチャー調査」の、業種別の2020年4月の現状判断指数を見ると、通常は大体50から40のあたりになる各指数が、緊急事態宣言が発令された4月は急激に悪化していることがわかる。自粛によって家食の特需を受けたスーパーだけが、唯一それなりの水準を保ったが、他業種は非常に低くなっている。
そして、東日本大震災の時の最悪の数字ですら10以上あった全体の平均が10を下回った。中でも最も悪化したのが百貨店であり、営業を止めていたことの影響が大きかった。次が飲食関連となっており、夜の時間に営業できなかったことが大きかったと推察される。
続いて低水準だったのは、旅行・交通関連、次が衣料品専門店となっている。背景には、外出しなくなったことで、服を買わなくなったということがある。このように、人が動くことによって需要が発生する産業にとっては、やはり相当大きなダメージがあると想定される。従って、仮に緊急事態宣言発出となった場合は、政府は予備費を活用してそれ相応の保証が必要となってくるだろう。(提供:第一生命経済研究所)
一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣