敷金はオーナーが入居者から預かるお金です。ただし契約や状況によっては返さないこともあるため、状況に応じて会計処理をしなくてはなりません。また、2020年4月から改正民法によって、敷金の扱いがより厳格になりました。今回は敷金の会計処理と現在の法的な取り扱いについて見ていきます。
敷金とは何か
敷金は礼金と並ぶ入居契約の初期費用です。月の家賃の1~2か月分を払う点では礼金と同じですが、性質は異なります。礼金が「賃貸オーナーに対する入居者のお礼の習慣」であるのに対し、敷金は「入居者がオーナーに預けるお金」です。
なぜ入居者はオーナーにお金を預けなくてはならないのでしょうか。それは、入居している間、いろいろなトラブルが生じるからです。
敷金は次のような時に使われます。
- 賃料の不払・未払の補填
- 入居中の不注意や故意で生じた汚損や毀損を修繕する費用
入居者と賃貸契約を結んで満室になれば万々歳、ではありません。コロナ禍など突発的な事態で入居者が仕事を失えば、家賃の滞納リスクが生じます。また、行動に問題のある入居者ならば、契約期間中に部屋の壁や床が破損するかもしれません。「賃貸業の収入は不労所得だ」と世間は言いますが、実はていねいに管理を行わないと安定収入が得られないシビアな事業なのです。
こうした入居者によるダメージを軽くするために、敷金があります。
敷金の会計処理は契約によって変わる
敷金の本質はあくまでも入居者から預かっているものです。そのため、会計上は原則、「預り金」という負債の部の勘定科目として処理します。家賃や更新料、礼金のような収益にはならないのです。
ただし、すべての敷金が預り金として処理されるわけではありません。「敷金を返還しない」「原状回復費用は敷金から充てる」「時間の経過に伴い、敷金を償却する」といった契約内容に関し、貸手と借手が合意しているなら、返還しないと決まった金額はオーナーの収益として計上します。
ケース別!オーナーの敷金の会計処理パターン
ではここから敷金の会計処理の方法をパターンごとに見ていきましょう。ここでは敷金10万円を普通預金で預かるものとします。
入居時の敷金の仕訳
入居時に受け取った敷金は原則、次のように仕訳をします。
(借方) 普通預金 10万円 (貸方) 預り金 10万円
この仕訳は「賃貸借契約終了時、敷金を入居者に返金する」ことが前提です。なお、入居者と契約している間、この預り金はオーナーの決算書の貸借対照表「負債の部」に記載し続けます。
返金したときの敷金の仕訳
退去時に預かった敷金を全額入居者に返金するときは次のように仕訳をします。
(借方)預り金 10万円 (貸方)普通預金 10万円
この仕訳を行うことで、預り金勘定は貸借対照表から消えることになります。
一部を原状回復に充てたときの敷金の仕訳
入居者が退去する際、貸した部屋に修繕が必要なことがあります。預かった敷金のうち5万円を原状回復に充て、残額を返金するのなら次のように仕訳をします。
(借方)預り金 10万円 (貸方) 売上 5万円
普通預金 5万円
「売上5万円」は原状回復に充てたことで敷金が返還不要となったことを意味します。
契約で敷金の全額または一部を返金しないときの仕訳
敷金は返金が原則です。しかし、中には「敷金償却契約」を締結し、敷金の一部または全部を返さないこともあります。このようなケースでは、返さないことが決まった時点で売上に計上します。
例えば、契約の内容が「契約時点で敷金10万円を返金しないと確定する」となっているなら、契約時に次の仕訳を行うのです。
(借方)普通預金 10万円 (貸方)売上 10万円
返還予定のものなら「預り金」ですが、契約時点で返還しないことが確定するなら、最初から収益として扱います。
時間の経過で徐々に敷金の返還不要額が決まるときの仕訳
さらに、契約の中には「時間の経過に伴い、少しずつ返金しない金額が決まっていく」と定めているものもあります。これを「敷金を償却する」といいます。このケースでは、返金しない額が決まった時点で返還不要部分を売上計上します。
敷金10万円の償却期間が2年なら、2年に分けて返還不要額を預り金から売上に振り替えるのです。具体的には次のようになります。
1.入居に伴い、敷金を預かったとき
(借方)普通預金 10万円 (貸方)預り金 10万円
2.1年目の終わりに半分償却するとき
(借方)預り金 5万円 (貸方)売上 5万円
2.2年目の終わりに残りを償却するとき
(借方)預り金 5万円 (貸方)売上 5万円
ここで預り金として負債の部に計上されていた敷金は貸借対照表から姿を消すのです。
改正民法で敷金の取扱いは厳格化したことに注意
「預かったお金を入居者に返したくない…劣化を理由に返すのをやめよう」と感じるオーナーもいるかもしれません。実際、「預けただけの敷金が戻ってこない」といったトラブルもよく耳にします。従来の敷金は、その定義や原状回復の範囲が曖昧だったため、入居者とオーナーの争いの種になりやすかったのです。
しかし、2020年4月1日以降から施行された改正民法は、敷金の定義や原状回復範囲が明確化しました。これにより、担保目的なら名称に関係なく敷金として扱われます。また、賃料滞納や賃借人の故意または過失による修繕といった事情以外なら、敷金は賃借人の退去時に返還しなくてはなりません。
また、原状回復についても国交省のガイドラインで規定されました。通常損耗や経年変化によるものの修繕はオーナー負担となったのです。冷蔵庫による壁ヤケや家具の設置による床の凹みでは入居者に原状回復費用を請求できません。ただし、たばこのヤニやペットによる柱傷や臭い、引っ越し作業によるキズは入居者負担になります。
預かるお金が担保目的かどうかを契約書で明確にしないと、これまで以上に入居者とトラブルになる恐れがあります。気になるのなら、専門家の手を借りつつ、契約書の見直しを行うとよいでしょう。(提供:YANUSY)
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