新型コロナウイルスの感染拡大で、注目度が急上昇した業界がある。「製薬業界」や「バイオテクノロジー業界」だ。新型コロナウイルスのワクチン開発に成功した企業に投資マネーが集まり、株価が急激に高まったのだ。ワクチン開発で特に注目されている3社の、この1年の株価の推移を追う。
コロナワクチンで注目される3社
新型コロナウイルスのワクチン開発で特に注目を浴びた企業といえば、アメリカの製薬会社「ファイザー」(Pfizer)、アメリカのバイオテクノロジー企業「モデルナ」(Moderna)、そしてイギリスに本社を置く製薬会社「アストラゼネカ」(AstraZeneca)だろう。
ファイザー 「RNAワクチン」を展開、日本で初承認
ファイザーは世界を代表する製薬メーカーとして、これまで禁煙補助薬「チャンピックス」や高脂血症治療薬「リピトール」などの製品を世に送り出してきた。本社をニューヨークに構え、日本法人も展開されている。
ファイザーは、遺伝物質を人工合成して利用する「mRNAワクチン」と呼ばれる新型コロナウイルス向けのワクチンを開発した。ワクチン接種により発症リスクが95%抑えられたことが話題となり、日本で初めてコロナ向けのワクチンとして承認された。
モデルナ 「mRNA」という新技術を手掛けるバイオテクノロジー企業
モデルナは、2010年9月に設立されたバイオテクノロジー企業だ。本社はアメリカのケンブリッジで、「メッセンジャーRNA(mRNA)」という新技術による医薬品開発を手掛けていることで知られている。
認可医薬品を有していなかったモデルナだが、新型コロナウイルス向けのワクチン開発では先行し、流通を手掛ける日本の武田薬品工業が2021年3月に国内での承認を申請している。
アストラゼネカ オックスフォード大学とタッグを組みワクチン開発
アストラゼネカはイギリスのケンブリッジに本社があり、抗がん剤や循環器向けの薬品などの開発に力を入れている企業だ。
アストラゼネカはワクチン開発においてオックスフォード大学と手を組み、ワクチン開発後、2021年2月には日本でも承認を申請している。国内のワクチン申請はファイザーに続いて2例目で、現在はモデルナのワクチンとともに審査が行われている。
コロナワクチン開発で株価は急上昇しているのか?
続いて、3社の株価がどのように推移したのか見ていこう。
ファイザー 一時上昇も現在は1年前の水準に戻る
ファイザーの2020年3月から月ごとの最高値を追っていくと、2020年3月は36.46ドルだったが、新型コロナウイルスの感染拡大が世界的に深刻化したこともあり、翌4月の最高値は7.5%上昇した。
その後も高値水準が続き、2020年12月には株価が一時43ドル台に達した。しかし2021年3月の株価は、1年前の水準に戻っている。
年・月 | 最高値 |
2020年3月 | 36.46ドル |
2020年4月 | 39.22ドル |
2020年5月 | 39.01ドル |
2020年6月 | 36.66ドル |
2020年7月 | 39.45ドル |
2020年8月 | 39.10ドル |
2020年9月 | 37.82ドル |
2020年10月 | 38.85ドル |
2020年11月 | 41.99ドル |
2020年12月 | 43.08ドル |
2021年1月 | 37.83ドル |
2021年2月 | 36.19ドル |
2021年3月 | 36.74ドル |
モデルナ 1年間で株価は約4.5倍に
モデルナの株価は、この1年で急上昇した。
2020年3月の最高値は34.98ドルで、2020年10〜11月にかけて株価が2倍近くに跳ね上がり、その後も高値水準を維持している。2020年3月と2021年3月を比べると、株価は約4.5倍になっている。
年・月 | 最高値 |
2020年3月 | 34.98ドル |
2020年4月 | 56.38ドル |
2020年5月 | 87.00ドル |
2020年6月 | 67.00ドル |
2020年7月 | 95.21ドル |
2020年8月 | 78.62ドル |
2020年9月 | 75.39ドル |
2020年10月 | 81.37ドル |
2020年11月 | 153.87ドル |
2020年12月 | 178.50ドル |
2021年1月 | 185.98ドル |
2021年2月 | 189.26ドル |
2021年3月 | 157.78ドル |
アストラゼネカ 株価はファイザーとほぼ似た動き
アストラゼネカの株価はファイザーと似た動きとなっているが、最高値では2020年3月より2021年3月のほうがやや高い。
2020年3月の最高値は48.69ドルで、2020年7月に64.94ドルまで上昇したものの、2021年3月は51.21ドルまで戻っている。
年・月 | 最高値 |
2020年3月 | 48.69ドル |
2020年4月 | 54.00ドル |
2020年5月 | 57.44ドル |
2020年6月 | 55.29ドル |
2020年7月 | 64.94ドル |
2020年8月 | 57.93ドル |
2020年9月 | 56.80ドル |
2020年10月 | 55.45ドル |
2020年11月 | 58.08ドル |
2020年12月 | 55.06ドル |
2021年1月 | 54.65ドル |
2021年2月 | 51.98ドル |
2021年3月 | 51.21ドル |
モデルナだけが高値水準だが、今後下落する可能性も
3社の株価推移を比較すると、ファイザーとアストラゼネカは一時株価が大きく上昇したものの、現在は1年前とあまり変わらない水準に落ち着いている。一方でモデルナは株価が4.5倍と、大幅な上昇となった。
モデルナの上昇率だけが高かった理由は、認可医薬品を1つも保有していなかったため、もともとあまり注目されていなかったからだろう
このように、新型コロナウイルスのワクチン開発を成功させた企業でも、株価の推移は大きく異なる。結果的にモデルナ株を買った投資家は大きな利益を得た。
ただし、ワクチン接種が進む中で重大な副作用などが見つかれば、モデルナであっても今後株価が急落する可能性はある。
文・岡本一道(政治経済系ジャーナリスト)
国内・海外の有名メディアでのジャーナリスト経験を経て、現在は国内外の政治・経済・社会などさまざまなジャンルで多数の解説記事やコラムを執筆。金融専門メディアへの寄稿やニュースメディアのコンサルティングも手掛ける。
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