日銀の黒田東彦総裁は2023年4月に任期満了を迎え、退任が確実視される。2021年3月には長期金利の変動について、黒田総裁と次期総裁の最有力候補とされる雨宮正佳副総裁が正反対の見解を述べて異例の「閣内不統一」が露見。水面下で黒田総裁の後継レースが始まったことをうかがわせた。総裁の人選次第では、国債やETF(上場投資信託)の大量購入とマイナス金利を柱とする今の金融政策が大転換する可能性が出てくる。

次期総裁の有力候補は、
日銀生え抜きの雨宮正佳氏

日銀が頭を抱える3つの難題
(画像=iLand /PIXTA、ZUU online)

黒田東彦日銀総裁は、2014年3月の就任時ですでに68歳。総裁任期は1期5年なので、3期目が終わると83歳だ。G7(主要7カ国)財務相・中央銀行総裁会議など国際イベントへの出席が目白押しで、国内でも時差のある海外との連絡や国会対応にも追われる。激務を考えれば、2023年の退任は既定路線と言えそうだ。

日銀総裁ポストは日銀生え抜きと財務省(旧大蔵省)出身者が交互に就任する「たすき掛け」を原則として決まってきた。黒田氏も例外に漏れず、「日銀のプリンス」と呼ばれた白川方明前総裁の後任として就任。デフレ脱却を掲げた安倍晋三首相(当時)に請われて日銀の舵取りを任されると、政府との協調を前面に押し出し、大規模金融緩和やETF購入の大幅増額など大胆な政策を次々と繰り出した。追加金融緩和のたびに株価は上がり、「黒田バズーカ」として称賛されたことは近代経済史に残るだろう。

順当に行けば、次の総裁の椅子は日銀出身者に回ってくる。現在、黒田総裁の下には雨宮正佳氏と早稲田大学などで教鞭をとった若田部昌澄氏が副総裁の職にある。表向きは2人の副総裁は対等で、ともに総裁を補佐する立場だが、実際は「副社長と社外取締役くらいの差がある」(日銀OB)。金融政策決定会合などの裏方を務める政策委員会室や金融システムの安定を図る金融機構局と決済機構局などは雨宮氏の担務。若田部氏はいわゆる「学者枠」で、次期総裁の椅子には雨宮氏が最も近い位置にいる。

次期総裁が背負うのは、
「異次元金融緩和」の後始末

次期総裁が背負うのは「黒田バズーカ」の後始末だろう。脱デフレ政策で黒田氏の背中を押した安倍首相は2020年9月に退陣し、黒田氏もほどなく日銀を去る。一方で、安倍首相と黒田総裁が手を握って政府・日銀の共通目標に据えた「消費者物価指数の上昇率2%」はこれまで一度も達成されていない。しかも、2016年1月に始めたマイナス金利政策の副作用で、預金と融資の利率差を収益源とする銀行の経営が悪化し、与党・自民党内からも見直しを求める声が出ている。

潮目の変化を象徴する出来事が2021年3月にあった。