カンブリア宮殿,モスフードサービス
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モスバーガーが変わった~斬新商品が続々誕生

にぎわいを取り戻したモスバーガーでは今、期間限定の新商品が注目を集めている。

ポスターには「日本人のおよそ88%がまだ知らないチーズ料理」と、気になるコピーが。まずコロッケを揚げて、その上にミートソースと、チーズをからめたマカロニをこれでもかというくらい乗せた「マッケンチーズ&コロッケ」(479円)。たしかに今までにないハンバーガーだ。こうしたエッジの効いた新商品が若い世代にハマっている。

もちろん看板商品も健在だ。定番の「モスバーガー」(377円)は大きいトマトとミートソースが特徴で、これまで13億個も売れた文字通りモスの顔。だが、これも知らないうちに味を進化させていた。「持ち帰ってもおいしい味が残るように目指して、ミートソースがおいしくなりました」と言う。

コロナの影響でテイクアウトが増えた2020年7月、冷めてもおいしいようにミートソースをリニューアル。お酢や塩こうじなど、和の調味料を加えてコクを出した。さらにバンズも改良。持ち帰ってもパサつかない、しっとりした生地に変えたという。

こうした取り組みでモスバーガーは、コロナ禍にあっても、既存店売上高が前年比108%と躍進しているのだ。

今までにない店作りにも挑戦している。そのひとつが、天井が高くて広々としたシックな装いの横浜市にある「モスプレミアム」桜木町クロスゲート店だ。

メニューも普通のモスとは一味違う。パティのボリュームはモスの約2倍。肉汁たっぷりの和牛のパティを贅沢に使い、それに合わせるのは本ワサビ。さらにアボカドもたっぷり。ここでは普通のモスでは味わえないプレミアムなバーガーを出している。この「和牛バーガーアボカドわさび」(1780円)はモスで最も高級なバーガーだ。

他にも、これでもかとチーズをかけた「3種のとろけるチーズバーガー」(1580円)に、モッツァレラチーズをトマトでサンドしたまるでハンバーガーのような「丸ごとトマトのカプレーゼ」(800円)など。モスでは扱っていなかったビールも飲める。ここは大人が楽しめるハンバーガーレストランなのだ。

停滞していたモスバーガーを、エッジを効かせた新商品で復活させた立役者が、モスフードサービス社長・中村栄輔(62歳)だ。

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挑戦で「モス離れ」を克服~バーガー以外のコラボも

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モスバーガーの創業はマクドナルドが日本に上陸した翌年の1972年。創業者の櫻田慧は日本人の口に合う和のハンバーガーづくりに挑戦。そうしてできたのが、醤油や味噌を使った「テリヤキバーガー」だった。今でこそどこにでもあるが、1973年に日本で初めて作ったのはモスバーガーだ。

櫻田の次なる挑戦がパンの代わりにご飯を使った「ライスバーガー」。コメ離れが進む中、国から余った米を使って欲しいと頼まれ、開発したという。こうした他にない独自の商品を次々と生み出すことで、モスバーガーは躍進を遂げてきた。

ところが、そんなモスに異変が起き始める。24年間右肩上がりだった売り上げは90年代後半には頭打ちに。客数の低迷に歯止めが掛からず、利益が落ち込んでいった。

なぜそんな事態に陥ったのか。当時社長で現会長の櫻田厚は、創業時のチャレンジ精神を失っていたと振り返る。

「今まで右肩上がりで来ていたから、今のままでも売り上げは戻るという慢心や油断があったと思います」(櫻田)

定番商品に頼り、新たな挑戦をしなくなったモスバーガー。客が少しずつ減っていくことにも手を打てず、若者のモス離れを引き起こしていたのだ。

2016年、社長に抜擢された中村に託されたのは、モスバーガーの大改革だった。

「もちろん定番商品が一番ですが、どうしても保守的に動いていた。思いっきり踏み込んでみようかと『これがバーガーなの?』『これがモスバーガー?』いう感じでやってみようじゃないか、と」(中村)

その言葉通り中村は挑戦を始める。見せてくれたのは社長になってから出した新商品だ。

焼きトマトやバジルソースを使った、その名のとおりの「マルデピザ」(2018年2月)。唇がまひするほどの辛さを売りにした「激辛テリヤキチキンバーガー」(2019年5月)。そしてエビ天までハンバーガーにした「海老天七味マヨ」(2019年9月)。これは噛んだ時のカリカリという音がウケて3ヵ月で290万食売る大ヒットとなった。

他にも人気の日本酒「獺祭」と組んで甘酒シェイク「まぜるシェイク獺祭」(2020年12月)を生み出すなど、挑戦的なメニューを次々に投入することで、中村は若い客を引き戻してみせたのだ。

常識破りの挑戦はハンバーガーにとどまらない。「UHA味覚糖」と組んだ「つむモスグミ」(410円)は、食材をかたどったグミを重ねると、オリジナルのバーガーが作れるというもの。食材宅配の「オイシックス」と作ったのは、モス自慢のミートソースを生かしたパスタソース。「ふとんの西川」とのコラボでマスクも作った。他業種とのコラボで、ハンバーガーの枠を超えた挑戦にも乗り出しているのだ。

2月中旬、モスの社内では初夏に向けた新商品の開発が進んでいた。担当するのは、日本料理の板前歴20年の商品開発グループ・荒木光晴だ。

「ハンバーガーはコース料理を一口で食べる感じ。食べた時に一番おいしくなるようにするのが難しいと思います」(荒木)

荒木が今回取り組むのは、刺身でもいける新鮮な真鯛。ハンバーガーに使うのはもったいないくらい。「ファストフードでこんなに立派な鯛を使えると思っていなかった」と言う。

わざわざ真鯛を使うのは、コロナで外食需要が減って困っている漁業関係者を応援するため。厚めに引いた鯛をフライにする。「白身魚は淡白ですが、水分を飛ばしすぎず、蒸し焼きになるように揚げるのがこだわり」(荒木)と言う。

野菜に大振りのフライを2つ。仕上げにレモンを効かせたタルタルソースを乗せる。国産の鯛を使った、これまでにないハンバーガーが完成した。試食した中村が言う。

「おいしい。やらないと結果はでない。失敗するかもしれないけど、一歩踏み込んで動いてみることを大切にしています」

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かつての人気に陰りが…~知られざる感動の復活秘話

中村は毎朝出社すると、必ずするのが「日めくりカレンダーをめくる」こと。そこには創業者・桜田の言葉が日替わりで載っている。「口コミは最高の信頼の情報だ」「やっぱりモスバーガーは違うな」……。

後者は「差別化されて、やっぱりモスバーガーは違うという存在になりたい」という意味だ。櫻田がとった差別化戦略のひとつが、97年に開始した農家との直接取引。農薬を極力使わない野菜を使うなど、安全安心を追求してきた。

この日めくりを通じて、中村は創業者の想いと毎日向き合っているのだ。

もともと弁護士志望だった中村が、大学受験で上京したときに食べたのがモスバーガーとの出会いだった。

「食べた時、本当にうまいと思いました。まさかこれが縁でこの会社に入って社長になるとは思わなかったですけど」(中村)

ところがその後、司法試験に6回落ちて弁護士を断念。モスバーガーに入社する。

中村は当時、創業者の櫻田に提出した企画書を大切にとってある。「味が満足いかなければ、取替えまたは返金する」という突拍子もない企画だったが、櫻田は、「できる!……GO!」と返事を書いてきた。

「こんなスパッと言われるとは思わなかったですね。動いてみないと結果は出ないと学びました」(中村)

ただその直後に櫻田は急逝。中村の企画は実現することはなかった。

それから19年後、モスバーガーの改革を託された中村に就任早々、ピンチが訪れる。長野や山梨などの19店舗で食中毒が発生したのだ。原因は特定されなかったが、安全安心をうたってきたモスのイメージは大きくダウン。影響はチェーン全体に及び業績は悪化。赤字に転落し、窮地に立たされた。

「私たちの商品を食べてお客様が苦しい思いをするのは、とんでもないこと。こんな辛いことはないですよ」(中村)

中村は即座に手を打っていく。それまで肉や加工食品が主だった細菌検査を野菜にまで拡大。検査項目も増やすなど、衛生管理を徹底強化した。さらに、食中毒により収益が悪化したフランチャイズには総額11億円を補填した。

「全部見直して、やり直す作業をして、これで大丈夫だというレベルまで一気に上げました」(中村)

翌年、全国の本部長やフランチャイズオーナーを集めた会議で、中村は今後の大方針を打ち出す。それが「チェンジ」。モスは変わるという決意を込めたのだ。

壇上で中村はタップダンスを披露した。もちろん経験などないが、挑戦する姿勢を自ら示すため、社員やフランチャイズオーナーの前であえて踊ってみせ、「世の中の変化は早い。ゆっくり改革していく余裕はない。早く動かないといけない。新しいモスをつくるしかない」と訴えた。

説明会に出席したフランチャイズのオーナー、埼玉県ふじみ野市にふじみ野店を構える長木紫織さんは「謝罪から始まるという噂だったので、ちょっとびっくり。タップダンスも必死さ、一生懸命さは伝わった。変えるんだということが伝わってきました」と言う。

以来、モスバーガーはどんなことにも挑戦する会社に変わっていく。その姿勢はコロナ禍においても生かされている。

長木さんが向かったのは、埼玉県所沢市の観光農園「所沢北田農園」。ハウスの中で栽培していたのはイチゴ。県内有数のイチゴ狩り農園だ。しかし去年の春、緊急事態宣言でお客が激減。イチゴが大量に余り、窮地に陥った。

「4月に根元から抜いて全て処分する予定でした。悲しかったです」(北田喜久江さん)

この状況を知った長木さんは中村に直談判。農園のイチゴを商品化するよう訴えた。中村もすぐさま応えた。通常商品化には一年近くかかるが、困っている農家を救おうと、4ヵ月という異例の速さでイチゴシェイクを作り上げた。

そして去年の夏、地元埼玉限定で「まぜるシェイク埼玉県産いちご」の発売が実現した。北田さんは5000パック分のイチゴを無駄にせずに済んだのだ。

「救世主です。感謝してもしきれない存在です」(北田さん)

イチゴシェイクの商品化に「できる、GO!」と言った中村にはこんな想いがあった。

「チェーン方針説明会で『一歩踏み込みましょう、挑戦しましょう』と言ったから、『やろう』と。地域に可愛がっていただいているのだから、地域の皆さんが喜んでくださることを大切にしています」

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ハンバーガー戦国時代~激戦を生き残る秘策とは

コロナ禍のテイクアウト需要に目をつけて、居酒屋や焼肉チェーンなど、異業種も相次ぎハンバーガー市場に参入、しのぎを削っている。ハンバーガー戦国時代の到来だ。

東京・港区のロサンゼルスからやってきた「ザ・カウンター六本木」。「強みはカスタムだと思います。好みでいろいろなものを選べる」という。

自分好みのオリジナルバーガーが作れる「カスタムバーガー」(1419円~)。パティはビーフやチキン、白身魚など5種類。13種類のチーズにトッピングも33種類から選べる。バンズやソースも選べるから100万通り以上のバーガーが作れるというわけだ。

一方、国内組の老舗「ドムドム」はカニを丸ごと一匹使った「丸ごと!!カニバーガー」(990円)で勝負に出た。使うのは、脱皮したてで甲羅が柔らかいソフトシェルクラブというカニ。これに粉をまぶして唐揚げにしていく。そのままバンズに乗せて、チリソースをかければ完成だ。

「やりすぎ?それは嬉しいです。普通のバーガーでは埋もれてしまうと感じています。商品で目立ちたい。ドムドムを選ぶ理由にしてもらいたいと思っています」(「ドムドムハンバーガー」浅田裕介さん) 続々と現れる強敵にモスバーガーはどう立ち向かうのか。スタジオで中村はこう語った。

「次から次に新規参入があって、新しい形のバーガー、店が生まれるのは、ハンバーガーに対する需要がある証拠。その需要にしっかり応えたいと思っています」(中村)

モスバーガーがまた、新たな挑戦に動き出した。お客が受け取っている紙袋の中身は食パン。その名も「バターなんていらないかも、と思わず声に出したくなるほど濃厚な食パン」(600円)だ。

店頭で予約し、月に2回の販売日に取りに行けば手に入る仕組み。発売初日のこの日だけで9万5千個も売れ、早くも話題沸騰となっている。

今までにない面白い企画に、今後も中村は挑戦し続ける。

※価格は放送時の金額です。

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~村上龍の編集後記~

中村さんは、モス入社後も司法試験に未練があったらしい。そんな態度を創業者は暖かく見つめた。モスはどこか暖かい。テリヤキなど初期から続く商品、店内の雰囲気、食を通じて人を幸せにすることをいちばん大切にしてきた会社だとわかる。ただし変化への対応が遅いらしい。創業家以外からのトップ、過度期だとよくわかるのだろう。「会社は変わった」と示すためにタップを踊った。見た目よりお茶目な人だ。お茶目なトップが引っ張るモス、これからが楽しみだ。

<出演者略歴>
中村栄輔(なかむら・えいすけ)1958年、福岡県生まれ。1982年、中央大学卒業。1988年、モスフードサービス入社。1995年、法務部長。2001年、店舗開発本部長。2012年、国内モスバーガー事業営業本部長。2016年、社長就任。

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