副業や投資などの所得が増えた、自宅の不動産を売却した、相続・贈与を受けたといったタイミングで、税に関する悩みを税理士に相談したいと思うことがあります。そんなときに気になるのが費用です。ここではケース別の相場を紹介し、税理士を活用するメリットや依頼時の注意点も合わせて解説します。
1.税理士へ支払う料金にはどんなものがある?
税理士に相談したり仕事を依頼するときに支払う料金には、どんな種類があるのでしょうか。また、その料金はどのようにして決められているのでしょうか。
2002年以前は法律で一律だった
かつて税理士の報酬は、税理士会の「報酬規程」により、目安となる基準が決められていました。しかし2002年4月1日の改正税理士法施行によりこの規程が撤廃され、税理士や税理士法人は自由に報酬を決めてよいことになりました。
現在では、業務内容を細かく分けて報酬体系を決めているところもあれば、経営サポートや記帳代行などをセットにした料金体系を打ち出すところもあるなど、各税理士事務所がそれぞれ工夫を凝らしたサービスを自由な料金で提供しています。提供されるサービスが横並びではないため、報酬の相場を知ることはなかなか難しいのが事実です。
とはいえ、ホームページを開設して業務範囲や報酬額を公開している税理士事務所も多いので、それらを参考にすることで、ある程度の相場を把握することは可能です。
税理士へ支払う報酬の種類
税理士に仕事を依頼するときにかかる費用は、業務の範囲によってそれぞれ異なりますが、大きくは「顧問料」「税務書類の作成料」「相談料」「記帳代行料」に分かれます。
「顧問料」は、企業や個人事業主などが顧問契約し、毎月一定額支払う報酬のことです。顧問契約には、疑問があったときに税理士にアドバイスをしてもらったり、訪問して状況を確認してもらったり、記帳内容をチェックしてもらったり、税務調査の際に立ち会いをしてもらう、といった業務が含まれています。
「税務書類の作成料」は、個人の確定申告や法人の決算申告、消費税の申告、相続税・贈与税の申告などの際に、税務書類を作成してもらう費用のことです。決算書類の作成料が顧問料のなかに含まれているケースもあれば、別になっているケースもあります。税理士への支払いを安く抑えたい場合には、顧問契約を結ばずに、決算書の作成だけを依頼するという方法があります。
「相談料」はその名の通り、疑問があったときに相談して、アドバイスをもらうための料金のこと。初回相談料を無料とし、2回目以降から1時間あたりの定額料金を取っている税理士事務所がほとんどといえます。
「記帳代行料」は、領収書などをもとに費用を計上するなど、日々の記帳を代行してもらう場合の料金です。顧問契約を結んでいたとしても、記帳代行料は別途必要になるケースが普通です。
2.単発での相談は可能?それぞれのケースの相場
税理士に支払う料金にはいくつかの種類があることが分かりました。では具体的な相場はどのくらいなのでしょうか。いくつかの税理士事務所の料金を参考に、相場を考えてみましょう。
単発の相談料の相場
税理士と顧問契約をしていれば、顧問料金の範囲で、随時または一定回数まで税理士に相談することができます。では、顧問契約を結ばなければ相談できないかというと、そんなことはありません。多くの税理士はスポット的な相談も受け付けています。
「普段は資金的な余裕がないから自分で記帳や申告書作成をしているけれど、分からないことが出てきたときには相談したい」とか「税務に関してプロのアドバイスが欲しくなった」といった場合には、単発相談を利用するといいでしょう。単発の相談料がいくらぐらいになるのか、3つの税理士事務所の料金を例に見ていきましょう。
料金(1時間あたり) | |
A事務所 | 5,000円 ※メールでの簡単な相談は無料 |
B事務所 | 1万1,000円 ※初回無料 |
C事務所 | 5,000円(個人) 1万円(法人) ※初回無料相談なし |
単発相談の場合、おおむね1時間あたり5,000円~1万円が相場といえます。単発相談が有料でも、その後に顧問契約を結ぶことになった場合は、すでに支払った相談料金が無料になるというサービスを用意している事務所はよくあります。ただし、単発相談したからといって、必ずしも顧問契約を結ばなければならないということではありません。
なお税理士に訪問してもらって相談する場合には、相談料とは別に交通費がかかってくることがほとんどです。自ら税理士事務所を訪問する、あるいは電話・テレビ電話などでの相談なら、当然ですが交通費はかかりません。
顧問料の相場
顧問契約を結んで毎月一定額の顧問料を支払うと、税務相談や記帳内容のチェックが受けられます。税理士事務所によって料金体系は微妙に異なるので、一律に比較することは難しいのですが、いくつかの税理士事務所の料金プランから目安を知ることができます。
最低料金 | |
A事務所 | 法人:月額1万5,000円~ 個人:月額1万円~ |
B事務所 | 法人:月額2万円~ 個人:月額1万円~ |
C事務所 | 法人:月額3万円~ 個人:月額2万5,000円~ ※毎月訪問プラン |
個人事業主なら月額1~2万円、法人なら月額1万5,000~3万円程度が、最低水準の顧問料金といえるでしょう。ただしこれらはあくまでもミニマムの料金であり、実際に依頼するときの料金は依頼者の状況によって変わってきます。顧問料金を決める基準となる項目には以下のようなものがあります。
- 個人/法人
- 売上規模
- 業務内容
- 訪問あり/なし(ありの場合は訪問頻度)
複雑かつ大量の作業が発生したり、頻繁に訪問をお願いしたりすれば、それだけ顧問料も高くなるということです。また、記帳代行や確定申告、決算書の作成も一括で行うセット料金を提示している事務所もあります。
個人:確定申告(所得税)の相場
個人事業主が、所得税の確定申告を依頼した場合の料金例は下記の通りです。いずれも記帳代行は含まない料金です。
年間売上1,000万円以下の確定申告料金 | |
A事務所 | 3万円~ |
B事務所 | 5万円~ |
C事務所 | 10万円 |
上記はあくまでも最低料金であり、実際の料金は売上規模に応じて変わってきます。売上が大きくなればなるほど、料金もアップします。また、事業所得以外に不動産所得があれば、所有している部屋数に応じて料金もアップする税理士事務所が多いようです。さらに消費税の申告が必要な課税業者であれば、申告内容が少々複雑になるので料金がプラスされます。
なお個人事業主ではなくサラリーマンが、医療費控除やふるさと納税による寄附金控除などの手続きを依頼する場合には、個人事業主向けの報酬よりも安くなることが多いといえます。
法人:決算申告の相場
以下は法人が「決算申告のみ」を依頼する場合の作成料金例です。実際の料金は、年間売上高に応じて、あるいはその法人の業種に応じて、大きく変わってきます。法人の規模や種類はさまざまなので、法人決算申告の料金もまちまちであり、相場をつかむのは非常に難しいといえます。
なお、決算申告だけを依頼するのではなく、毎月の顧問契約を結ぶことで、決算申告料金が割引になるケースも多いようです。また、決算書の作成や申告の料金を、「顧問料金×4~6カ月分」などと決めている税理士事務所もあります。
年間売上高1,000万円以下の料金 | |
A事務所 | 9万円 |
B事務所 | 14万円 |
C事務所 | 18万円 |
相続税申告の相場
相続税申告の料金も大小さまざまです。なぜなら、一口に相続税申告といってもケースバイケースであり、税理士の手間は大きく変わってくるからです。下記は、相続財産額1億円以下の場合で、税理士報酬がいくらになるかの一例です。
相続財産額1億円以下の料金 | |
A事務所 | 50万円 |
B事務所 | 70万円 |
C事務所 | 75万円 |
多くの税理士事務所では、「基本料金」(相続財産の試算と申告書作成)に加えて「追加料金」というかたちで料金を算出しています。追加料金は、以下のような基準で加算されることになります。
- 相続人の数
- 土地評価の有無
- 名義預金・名義株式の確認および変更
- 住民票や戸籍謄本の収集
- 同族会社の株式評価
- 複雑な財産の評価
- 遺産分割協議への同席
同じ1億円の相続財産であっても、追加料金となる項目が多いと、税理士へ支払う料金も大幅にアップしてしまうことがあります。相続人が遠方に住んでいて連絡を取りづらいとか、相続人が非常に多く権利関係が複雑、申告期限までに日数が少ないなどの特殊な事情があると、さらに多額の料金が発生することになります。
3.税理士に依頼するメリット
税務に詳しい人であれば、日々の記帳や申告書・決算書作成といった業務を税理士に頼まなくても、ある程度までは自分でできてしまいます。では、税理士に依頼するメリットはどこにあるのか、改めて考えてみましょう。
経理・税務作業をアウトソースし本業に専念できる
日々の記帳や年に一度の決算・確定申告といった作業は、慣れている人であってもなかなか難しく手間がかかるもの。税理士報酬を節約しようと自分で取り組んでみたものの、申告書を作るまでに何日もかかってしまったのではあまり意味がありません。面倒な仕事はプロである税理士にアウトソースすることで、自分は本業に専念するという考え方が、個人事業主や経営者にとっては正しい判断といえます。
間違いのない申告ができる
税に関連する法律はたびたび改正されます。しかもその内容は複雑で、一般人にとっては分かりにくいもの。自分で税務申告作業をするにしても、古い法律や間違った知識でやってしまうと、後でミスが発覚して結局やり直しになったり、申告書の修正や追徴課税が発生したりといった問題が起こります。最新の税務について把握している税理士に頼めば、こうした心配はなくなります。
税務調査に入られた際の対応がしやすい
個人・法人、売上規模の多い・少ないにかかわらず、納税者には一定の確率で税務署による税務調査が実施されます。そのときに顧問税理士がいないと、税務職員に対して自分で対応することになってしまい、時間と手間がかかるばかりか心理的な負担にもなります。税理士と顧問契約を結んでいれば、税務調査への対応も任せられます。ただし、税務調査の対応は別料金となっているケースもあります。
融資の際に有利に働く可能性がある
金融機関に融資を依頼する場合、確定申告書や決算書を提出することになります。そのときに、専門家ではない個人事業主や経営者が自分で作成している決算書より、プロである税理士が作成した決算書のほうが、金融機関に対して信頼感が高いといえます。税理士の作った信頼性の高い財務諸表を提出することで、審査が有利になる可能性があります。
4.税理士に仕事を依頼する際の注意
いざ税理士に仕事を依頼しようとなったときには、どのような点に注意すればいいでしょうか。
得意・不得意分野があるので、適した税理士に依頼すること
「税理士なんだから、どの種類の税のことにも詳しいはず」と思うかもしれませんが、実はそうとは限りません。一口に「税金」といっても、所得税、消費税、法人税、相続税などいろいろあり、税理士の得意分野もバラバラなのです。
税理士試験の内容からもそのことは分かります。税理士試験に受かるためには、11科目中5科目に合格する必要があります。5科目のうち2科目は、必須の「簿記論」「財務諸表論」で、残り3科目は選択制です。「所得税法」または「法人税法」のいずれか1科目に加え、「相続税法」「消費税法または酒税法」「固定資産税」「住民税または事業税」「国税徴収法」のなかから2科目を選択します。
つまり、「相続税法」について勉強しなくても税理士にはなれるということ。そして税理士試験に受かって開業したら、相続税の相談を受けることはできてしまいます。しかし、きちんと勉強もしていない税理士が、複雑な相続税法について完璧に理解しているかといえば、決してそんなことはないでしょう。
したがって税理士を選ぶ際には、「得意分野は何なのか」「その得意分野でどのくらいの実績があるのか」をきちんと見極めることが大切です。得意分野は「税金の種類」だけでなく、「顧客の業種」「規模」などさまざまです。「パン屋に強い税理士」などニッチな分野に専門特化した税理士もいます。
税理士の得意分野を調べるときには、ホームページの情報を見るだけでなく、実際に面談して、どれくらいの実績があるのか直接聞いてみることが大切です。
どこまでやってくれるのか、業務内容を明確にする
税理士事務所によって報酬体系や業務内容はまちまちです。同じ「確定申告作成料」であっても、税理士によって対応してくれる業務範囲は大きく異なるのです。その料金にどんな作業が含まれているのか、あるいは含まれていないのかを、依頼する前にきちんと確認する必要があります。
最終的には相性で決める
税理士は経営のパートナーという側面もあります。個人事業主・経営者の経営方針ややりたいことに理解を示してくれて、それに合わせた適切なアドバイスをくれる税理士を選ぶことが大切です。
例えば、最先端のITを活用した会社を起業しようというのに、ITにあまり詳しくない高齢な税理士を選んでしまうことはアンマッチングといえます。この場合は、ベンチャー企業の経営に詳しい、若手の税理士を顧問に選べば、節税しながら会社が成長するプランを一緒に考えてくれるでしょう。
また逆に、節税だけを目的に依頼しようとしているのに、積極的な事業拡大を勧めてくるような税理士では話がかみ合いません。したがって税理士を選ぶときは、最初の面談できちんと自分の方針を話して、賛同してくれるかどうかを確認することも大事でしょう。
複数の税理士に見積もりを取る
上述したように、税理士の報酬や作業内容は事務所によってバラバラです。自分の依頼したい作業内容を明確にしたら、それをいくらでやってくれるのか、見積もりを依頼するといいでしょう。複数の税理士事務所から相見積もりを取れば、比較検討しやすくなり、相場も分かってきます。
また、時間的な余裕がなく1社だけに依頼することを決めている場合も、作業内容について見積書を取って確認する必要があるでしょう。自分でもできるような簡単な作業は、見積もりから省いてもらうことで、報酬を節約するといったこともできます。
5.メリット・デメリットを精査して依頼を検討する
税理士事務所に仕事を頼むことで、正確な決算書や確定申告書を作成できることはもちろん、本業に注力できるようになるため、作業効率や業務効率が向上するなどの利点もあります。一方で、税務のプロフェッショナルに依頼するということは相応の料金も発生します。売上規模や作業の煩雑さなどを勘案し、コストなどデメリットをカバーできるだけのメリットを享受できるならば、税理士の活用も積極的に検討してみましょう。