OPEC供給シェア低下で原油相場は安定化に向かう
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OPEC供給シェア低下で原油相場は安定化に向かう

SMBC日興証券 シニアエコノミスト / 宮前 耕也
週刊金融財政事情 2021年5月18日号

 2020年2月以降、原油価格は急落した。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、世界的に移動制限が実施され、経済活動が急激に縮小したためだ。同年4月ごろには、需要縮小に供給削減が追い付かず、原油の貯蔵能力が限界を迎えるとの不安が高まり、WTI原油先物価格は4月20日に史上初のマイナスを記録した。

 だがその後、原油価格は持ち直した。石油輸出国機構(OPEC)および非加盟主要産油国(OPECプラス)が同年4月から協調減産を復活、継続しているほか、米国で稼働するリグ(石油採掘装置)の数が急速に減少し、市場メカニズムに基づいた減産が進んだ。また、徐々に主要国で都市封鎖や移動制限が解除され、需給が引き締まるとの期待が強まった。実際、米エネルギー情報局(EIA)のデータで需給バランスを確認すると、20年前半は大幅な供給超過に陥ったが、年後半以降は供給ペースが抑制され、需要超過へ転じている。EIAによれば、21年後半に需給バランスがおおむね安定する見通しだ。

 その過程で浮上している原油市場の隠れたテーマは、OPEC諸国の供給シェア低下だ。コロナ禍以降、OPEC諸国と非OPEC諸国共に供給抑制を図ったが、OPEC諸国の減産幅が大きい。OPEC諸国の供給シェアは、1980年代以来の30%台前半へ低下したもようだ(図表)。これにより、原油相場はレンジ化、安定化に向かうだろう。非OPEC諸国のシェア上昇により、市場メカニズムに基づき速やかに供給量を調整する動きが強まるためだ。原油相場は1バレル=40ドル~75ドルを中心に推移しよう。足元の原油相場は同60ドル台半ばの水準にあるが、さらなる上昇余地は乏しくなるとみている。

 また、中長期的には各国の脱炭素化政策により、原油相場のレンジに上方硬直性が出てくるだろう。かつて石油依存度の低下がうたわれたのは、原油高騰局面を迎え、省エネを推進する経済面の観点からだった。例えば、石油ショック直後の80年代前半には、主に発電部門で燃料転換が進んだ結果、原子力や石炭の依存度が上昇した。

 しかし、今後は原油価格動向にかかわらず、脱炭素化を促す政策面から石油・石炭依存度の低下が促されるだろう。CO2排出係数(二酸化炭素排出量÷1次エネルギー消費量)の低い再生可能エネルギーの利用が世界的に進展するほか、一部の国では原子力エネルギーが活用されよう。原油価格が上昇すれば、省エネという経済面に加え、脱炭素化という政策面からも原油需要が縮小する構図だ。原油相場の上値は中長期的にも重くなろう。

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(提供:きんざいOnlineより)