要旨
- 政府は5月11日までとしていた東京、大阪、京都、兵庫の4都府県の緊急事態宣言を延長し、愛知と福岡も対象地域に含めることになった。期間は5月31日までである。
- 直近2017年の県民経済計算を基に家計消費の全国に占める発出地域の割合を算出すると、東京都14.4%+京都府2.1%+大阪府7.2%+兵庫県4.2%+愛知6.2%+福岡3.7=37.8%となる。ただ、延長後も東京や大阪は百貨店やショッピングセンター等の大規模施設への休業要請を続けることになったため、緊急事態宣言に伴う6都府県の消費押し下げ圧力を第一回目の緊急事態宣言の2/3程度と仮定すれば、マクロの個人消費押し下げ効果としては延長前の▲5,218億円に延長20日間の▲5,545億円が加わり、トータルで約▲1.1兆円程度になると試算される。
- GDPの減少額は延長前の▲4,460億円に▲4,739億円が加わり、トータルで▲9,199億円程度と計算される。それに伴う3か月後の失業者の増加規模はこれまでの+2.5万人に+2.7万人が加わり、トータルで+5.2万人程度と試算される。
- しかし、今回発出地域以外でも新型コロナウィルス陽性者数が増加傾向にあること等も勘案すれば、発出地域も広がる可能性があり、発出期間も長期化することを警戒すべき。
- 海外に比べてワクチン接種率の進捗が圧倒的に遅れていることからすれば、政府は更に接種率を早めることも検討すべき。英医療調査会社「エアフィニティ」が昨年12月に公表した集団免疫獲得時期の見通しによれば、日本は医療従事者・高齢者の接種完了時期でも今年10月、集団免疫獲得時期に至っては欧米諸国に大きく遅れて来年4月となっている。
- 集団免疫獲得に近づくまで日本はこれまでのような緊急事態宣言の発出と解除を繰り返すことになり、引き続き経済に甚大な影響が出ることは避けられない。傷口をできるだけ広げないためにも、政府は海外を見習い、国産ワクチン実用化も含めて、国内でのワクチン接種率をさらに加速させるべく柔軟で迅速な対応が求められる。
はじめに
新型コロナウィルスの変異株が猛威を奮う中、政府は5月11日までとしていた東京、大阪、京都、兵庫の4都府県の緊急事態宣言を延長し、愛知と福岡も対象地域に含めることとした。期間は5月31日までである。
ただ、経済への影響も考慮し、百貨店やショッピングセンターなどの大規模な施設への休業要請や、イベントやスポーツを原則、無観客とする措置は緩和された。しかし、東京や大阪を中心に自治体独自の判断で大型商業施設の休業要請は継続されることになったため、経済活動の抑制圧力が拡大することは避けられないだろう。これまでの緊急事態宣言により、発出時の経済が大きく悪化したことからすれば、地域拡大と休業要請延長で悪影響が拡大することは確実だろう。
休業要請延長で個人消費計▲1.1兆円
過去の緊急事態宣言発出に伴う外出自粛強化により、最も悪影響を受けたのが個人消費である。そして、実際に過去のGDPにおける個人消費と消費総合指数に基づけば、2020年4~5月にかけての個人消費は、緊急事態宣言がなかった場合を想定すれば、▲4.4兆円程度下振れしたと試算される。
また、2021年1月以降の緊急事態宣言の影響は、同様に推計すると、第一回目の1/5程度の▲0.9兆円程度だったことが推察される。なお、第1回目が全国に対して48日間の発出だったのに対して、第2回目が全国の個人消費の約6割を占める地域に73日間の発出だったことを勘案すれば、発出地域に限定した期間あたりの影響としては、第1回目の22.3%程度だったと予想される。
これは、同じ緊急事態宣言発出でも、時短要請に限った場合よりも、第1回目のような休業要請まで発出した方が、単位当たりの影響が1/0.223=4.5倍程度の影響が生じたことが推察される。
そこで、今回延長で対象となる6都府県の緊急事態宣言が発出された場合の影響を試算し直すべく、直近2017年の県民経済計算を基に家計消費の全国に占める発出地域の割合を算出すると、東京都14.4%+京都府2.1%+大阪府7.2%+兵庫県4.2%+愛知6.2%+福岡3.7=37.8%となる。
ただ、政府は延長後の経済への影響も考慮し、百貨店やショッピングセンター等の大規模施設への休業要請や、イベントやスポーツを原則、無観客とする措置は緩和した。しかし、延長後も東京や大阪は百貨店やショッピングセンター等の大規模施設への休業要請を続けることになった。このため、緊急事態宣言に伴う6都府県の消費押し下げ圧力を第一回目の緊急事態宣言の2/3程度に拡大すると仮定すれば、マクロの個人消費押し下げ効果としては延長前の▲5,218億円に延長20日間の▲5,545億円が加わり、トータルで約▲1.1兆円程度に拡大すると試算される。
しかし、家計消費には輸入品も含まれていることからすれば、そのまま家計消費の減少がGDPの減少にはつながらない。事実、最新となる総務省の2015年版産業連関表によれば、民間消費が1単位増加したときに粗付加価値がどれだけ誘発されるかを示す付加価値誘発係数は約0.85程度となっている。そこで、この付加価値誘発係数に基づけば、GDPの減少額は延長前の▲4,460億円に▲4,739億円が加わり、トータルで▲9,199億円程度に拡大すると計算される。
また、近年のGDPと失業者数との関係に基づけば、実質GDPが1兆円減ると1四半期後の失業者数が+5.5万人以上増える関係がある。従って、この関係に基づけば、6都府県で緊急事態宣言が20日間延長されれば、それに伴う3か月後の失業者の増加規模はこれまでの+2.5万人に+2.7万人が加わり、トータルで+5.2万人程度に拡大すると試算される。
ワクチン接種遅れで宣言発出と解除を繰り返す可能性
このように、6都府県に37日程度の休業要請にとどまれば、マクロ経済に及ぼす影響は1回目の緊急事態宣言ほどは大きくないと言えるかもしれない。しかし逆に考えれば、国民の新型コロナや緊急事態宣言慣れなどにより、同じ宣言でも人流抑制効果は限定的となっていることも示している。このため、新型コロナウィルス陽性者数の抑制が限定的となれば、発出地域もさらに広がる可能性があり、発出期間もさらに長期化することを警戒すべきだろう。
こうした中、政府は新型コロナワクチンの高齢者への接種を開始している。そして、菅首相はワクチン接種一日100万回を目標にする考えを明らかにしている。しかし、人口規模が日本の2.6倍以上ある米国の1日当たり接種回数はすでに400万回を超えているようであり、海外に比べて接種率の進捗が圧倒的に遅れていることからすれば、政府は更に接種率を早めることも検討すべきだろう。
また、政府7月末までに高齢者へのワクチン接種完了を目指している。しかし、英調査会社「エアフィニティ」が昨年12月に公表した集団免疫獲得時期の見通しによれば、日本は医療従事者・高齢者の接種完了時期が今年10月、集団免疫獲得時期に至っては欧米諸国に大きく遅れて来年4月となっている。この見通しに基づけば、集団免疫獲得に近づくまで日本はまだかなりの時間を要することになる。そうなれば、今後もしばらくは緊急事態宣言の発出と解除を繰り返すことになり、引き続き経済に甚大な影響が出ることは避けられないことになろう。
従って、傷口をできるだけ広げないためにも、政府は海外を見習い、国産ワクチン実用化も含めて、国内でのワクチン接種率をさらに加速させるべく柔軟で迅速な対応が求められるといえよう。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣