(本記事は、ジョン・ネフィンジャー氏、マシュー・コフート氏の著書『人の心は一瞬でつかめる』=あさ出版、2021年3月19日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
「強さ」は二つの要素から成り立っている
いきなりですが、「強い人」というのは、どのような人でしょうか。
「強い人」は、意志の力で物事を成し遂げることができます。「強さ」はその人が、どれだけ世の中を思い通りに動かせるかを測る尺度です。
強さを感じさせる人は世間の注目を集めます。その力がどのように使われるのか――自分にとってプラスに働くのか、それともマイナスになるのかが気になるからです。
強さを感じさせる有名人の例は数えきれません。
破天荒ながら、自宅のガレージからスタートさせた会社を世界的企業にまで成長させたスティーブ・ジョブズや、そのタフな姿勢から「鉄の女」とまで呼ばれていた英国初の女性首相マーガレット・サッチャー(1979〜1990年在任)など……。
見るからに弱々しい人物の場合、その人が何を目指しているかなど、誰も気にしません。仲間として受け入れることはあるかもしれませんが、彼らは世界を動かす能力に欠けているため、気に留める必要はないのです。
「強さ」とリーダーシップは切っても切れない関係にあります。人は常に強いリーダーを求めています。強い人間は集団を脅威から守ってくれるからです。潜水艦の乗組員チームであれ、学校の友人グループであれ、「強さ」はリーダーシップに欠かせません。
「強さ」は二つの基本要素――世界を動かす「能力」と「意志の力」――から成り立っています。
「能力」と「意志の力」がここではキーワードとなります。
まず、「能力」についてです。
この場合の「能力」には、世界を動かすために必要なあらゆる資質――体力、それぞれの専門スキル、社交術、苦労して手に入れたノウハウなどが含まれています。
脳外科医であれ、音楽家であれ、会計士であれ、高度な知識や訓練を要する仕事をこなしている人々は、周囲から注目を浴び、尊敬されます。
業界によっては、コミュニケーション能力が最も重要な能力とされることもあります。
たとえば外交官は、言葉を巧みに操るだけでなく、さまざまな非言語シグナル――ジェスチャーや目線など、言葉以外のサインを通じて洗練された社交術を発揮し、人々の尊敬と信頼を勝ち取ります。
コミュニケーション能力の高さとは、人当たりの良さだけにとどまりません。しっかりと自己主張できることも重要です。
遊び場でいじめっ子にからかわれたときに、とっさに言い返すことのできる子供は、次からはいじめられなくなるだけでなく、何をして遊ぶかを決めるときに意見を尊重されるようになります。そのためには、気の利いた言葉をパッと思いつく能力も必要でしょう。
能力が物事を成し遂げるための「ツール」だとすれば、意志はツールを動かすための「動力」だと言えます。
「意志」とは、障害や抵抗を乗り越えて、行動を貫き通そうとする熱意です。こうした資質は「決断力」「気骨」「意欲」「野心」「根気」「粘り腰」などと呼ばれ、あらゆる分野において重要視されます。
「強さは肉体的な力からくるのではない。それは不屈の意志から生まれる」というガンジーの言葉は、その本質を最もよく言い表しているかもしれません。
意志の力は、筋肉と同様に鍛えることができます。その半面、酷使すると消耗してしまいます。
最近の研究によれば、ハードな一日の終わりには意志の力がすり減ってしまい、誘惑に打ち勝つのが難しくなるそうです。しかし、あらかじめ鍛えておくことで、誘惑をものともしない意志の力を手に入れることも可能なのです。
私の友人のボニーは、身をもってそのことを学びました。
数十年もの間、ろくに運動をしてこなかった彼女は、ある日ランニングクラブに入ることを決意しました。初日、ボニーはたった500メートルしか走れませんでした。
「やっぱりランニングクラブなんて入るんじゃなかった。もうやめたい――」
彼女は思わずそうつぶやき、逃げ出しそうになりましたが、どうにか踏みとどまり、毎日「今日は昨日より長く……」そう決意を新たにしながら、ひたすらランニングを続けました。こうして彼女は体力だけでなく、肉体的苦痛を克服する精神力を身につけることができたのです。
彼女のように何らかの試練に立ち向かっている人々は、ただ単に歯を食いしばって苦しさに耐えているだけではありません。
実は、彼らはある種のテクニックを使ってつらさをうまくやり過ごしています。
苦痛や衝動と真っ向から対決するのではなく、それらを巧みにかわしているのです。
ボニーは、きついランニングの中盤、肉体的な苦痛になるべく意識を向けないようにし、代わりに今度の休暇のことを思い浮かべたり、頭の中で好きな歌を口ずさんだりしました。
そのおかげで彼女は、精神力を無駄にすり減らすことなく、後半のランニングに余裕をもって臨むことができたのです。
このように、苦痛を和らげる手段はいろいろあります。やり遂げた自分にごほうびをあげるのもいいですし、達成したときの満足感に思いを馳せてもいい。自分に合った方法を見つけましょう。
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