(本記事は、ジョン・ネフィンジャー氏、マシュー・コフート氏の著書『人の心は一瞬でつかめる』=あさ出版、2021年3月19日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
笑顔そのものにパワーがある
「温かさを感じさせる視覚要素」の中で、最優先すべきなのは「顔の表情」です。そして「温かさ」を生み出す方法として「笑顔」に勝るものはありません。笑顔は人類共通の行動に深く根差した、究極の非言語コミュニケーション手段です。
どの国の赤ん坊も、笑顔を通じて母親との絆を深めていきます。言葉が全く通じなくても、相手の笑顔だけは簡単に読み取ることができます。笑顔に関する文化規範はさまざまに異なるかもしれませんが、世界共通の表情であることは確かです。
人の笑顔は「幸福」「魅力」「社交性」「成功」といったさまざまなプラス要素を物語っています。
また、笑顔は「ハロー効果」をもたらします。つまり、微笑みを浮かべている人は有能で好感のもてる人物だと判断されやすいのです。教師は自分に向かって微笑みかけている生徒を指名する傾向があり、レストランのウェイトレスやバーテンダーもこのことを体感しているに違いありません。
さらに、笑顔には伝染力があります。誰かに微笑みかけられたとき、私たちは自分が笑顔を浮かべているときの感覚を思い出し、自然に微笑み返そうとします。こうした相互作用は全く無意識のうちに生じています。つまり、私たちは微笑みかけてくる人物に対して好感を抱く傾向があるのです。
「君が微笑めば、世界中が一緒に微笑む」――ルイ・アームストロングの歌に出てくるこの言葉は、単なる決まり文句ではありません。実際に、私たちの脳は瞬時に他人の笑顔を察知し、幸せな気分をつくり出しているのです。
もちろん、他人の笑顔を感じ取ることと、自分自身が笑顔を浮かべることは別物です。笑うことは私たちの気分を高め、精神活動に好影響を及ぼします。
心理学者のダニエル・カーネマンによれば、歯の間にペンをくわえ、強制的に笑顔に似た表情をつくった場合でも、実際に笑ったときと同様の気分を生み出すことができるそうです。
「ハイパワーな」姿勢を取ることで実際に自信が湧いてくるように、明るい表情を意識的につくれば、自ずと前向きな気分になれるはずです。
このように笑顔はいろいろな意味で素晴らしい働きをもっています。しかし、全ての笑顔が同じ価値をもつわけではありません。中にはマイナスの効果をもたらす笑顔もあります。
では、温かさをもたらす笑顔とは、一体どのようなものでしょうか?
笑顔にはバリエーションがある
それを理解するためには、まず笑顔のメカニズムを詳しく知る必要があります。
人間の顔には30種類以上の表情筋があり、そのほとんどが左右対称に配置されています。笑顔を形づくる上で重要な役割を果たしているのが「大頬骨筋(だいきょうこつきん)」です。この筋肉は口角を上げ、にこやかな口元をつくり出してくれます。
しかし、口元の表情は、笑顔を形作る要素の半分にすぎません。なぜなら、真の笑顔は「口元」と「目元」の二つの部分によって生み出されているからです。
本物の笑顔は「大頬骨筋」と「眼輪筋」(目の周りの筋肉)の両方を使っています。笑顔を浮かべたときの「目の輝き」は、実は目の周りの筋肉を収縮させ、「目を細める」ことによってつくり出されているのです。
一方、つくり笑いの場合、ただ口角が上がっているだけで、顔の上半分には何の変化も起きていません。
実際、赤ん坊は非常に早い時期から本物の笑顔と「つくり笑い」の両方を巧みに使いこなしています。
笑顔にはいくつかのチェックポイントがあります。
「笑い始めるタイミングの早さ」「笑顔の持続時間」「表情筋の動かし方」といった点です。
これらをチェックすることで、さまざまなことがわかります。たとえばつくり笑いの場合、自然な笑いに比べて笑い始めるタイミングが早くなるのです。
私たちはみな、こうした違いを見抜くことに長けています。
イベント会場で、まるで電源スイッチをオン/オフするかのように笑顔が浮かんだり消えたりしている人物を見かけたとします。この種の笑顔は、面白いジョークを聞いて思わず浮かべた笑顔とは、全く違った印象を与えます。本物の笑顔は、つくり笑いよりも自然に、ゆっくりと顔に広がり、「温かみ」を感じさせるのです。なぜなら、私たちはその瞬間、相手と幸せな気分を共有しているからです。
※画像をクリックするとAmazonに飛びます