目次

  1. 要旨
  2. 狙われたGW
  3. 政府の方針
  4. 個別産業への打撃
  5. 深まる視界不良
消費
(画像=PIXTA)

要旨

政府は、4月23日に緊急事態宣言を発令することを決めた。これが3回目である。その打撃は、GWの連休消費を減少させることであろう。連休消費は、2019年の7.67兆円(10日間)から、2021年は5.04兆円(7日間)に減少すると試算される。日数が異なるので単純比較はできないが、その需要を期待していた消費産業には手痛い打撃になる。

狙われたGW

政府は、4月22日に緊急事態宣言を発令する。昨年4・5月の1回目、今年1~3月の2回目に続いて、今回は3回目になる。経済活動にとって不都合なのは、昨年に続いてGWに重ねて実施されている点だ。大型連休は行楽消費の真っ盛りの時期であり、観光・娯楽業には大切な稼ぎ時だ。それが2年連続で潰されるのは、関連業界には甚大な打撃だ。

そこで、まず、GWに限った個人消費の規模はどのくらいかを計算してみた(図表1)。家計調査の日次消費を用いて、細かく試算したものである。その規模は、毎年ごとの曜日構成で微妙に変化する。2020年のGWは1回目の緊急事態宣言が直撃した年であるので、その手前の2019年から計算した。2019年は、並びが良くて10日間の連休になり、個人消費支出額は7.67兆円(除く帰属家賃)になった。この計算は、内閣府のGDP統計と総務省の家計調査を用いて試算したものである。次に、同様の方法で2020年のGWを計算すると、やはり緊急事態宣言が発令されていたこともあり、個人消費は4.85兆円と激減していた(期間4月29日~5月6日の8日間)。1日平均の前年比では▲21.0%の減少率である。そして、2021年のGW消費を7日間(4月29日~5月6日)で取って予想してみると、消費総額は5.04兆円となる見通しだ。1日平均では2019年比で▲6.1%の減少になる。2021年のGW消費は、実額では昨年よりは盛り返すが、依然として厳しいということになる。

『第一生命経済研究所』より引用
(画像=『第一生命経済研究所』より引用)

政府の方針

3回目の緊急事態宣言では、(1)酒類を提供する飲食店に休業要請、(2)大型商業施設では生活必需品を除いて休業要請、(3)大規模イベントは原則無観客、などの制限が敷かれる。カラオケ店への休業要請、鉄道の終電時間繰り上げ・減便も実施されそうだ。期間は4月25日から5月11日の17日間。対象の地域は、東京都、大阪府、京都府、兵庫県の4都府県である。

すでに、これらの地域では、まん延防止等重点措置※が適用されていた(5月5日までと5月11日まで)。今回は当初の期間設定が1か月間(1・2回目)ではなく、17日間と短い。短期集中という政府の方針を反映しているのであろう。

※その他同措置の対象は、宮城県、沖縄県、埼玉県、千葉県、神奈川県、愛知県の6県があった。政府は、これに4月23日から愛媛県の追加を決定。緊急事態宣言の地域と併せると11都府県。

政府は、すでに実施しているまん延防止等重点措置の地域に重ねることで、緊急事態宣言の経済的インパクトをできるだけ最小限にしようと配慮しているのだろう。また、GWに重ねることで、消費産業にはダメージが集中するとしても、企業活動にはなるべく悪影響を与えないよう休暇に重ねているのだろう。

個別産業への打撃

今回の緊急事態宣言は、企業活動に全般的なブレーキを踏むものではない。むしろ、1~3月の緊急事態宣言に近く、飲食店を主なターゲットにしている。それでも、打撃を受けそうな分野は、旅行(ホテル・旅館、鉄道・航空)、外食、娯楽レジャー、衣料品・化粧品などに広がるだろう。従来から、家計調査では、外食、交通、教養娯楽サービスの3項目が常に大きく減少する格好になっている(図表2)。その流れが続くということだろう。

『第一生命経済研究所』より引用
(画像=『第一生命経済研究所』より引用)

2回目の緊急事態宣言と比較すると、今回は大型商業施設などの事業者への休業要請が加わったところが変更点になっている。仮に、百貨店・ショッピングセンターなどが休業すると、それに関連して衣料品需要が落ちることが懸念される。また、「人流を減らす」ことを目的のひとつにしている点では、交通機関へのインパクトも警戒される。 さらに、細かくGWの期間に集中的に売上を増やすような業種が何かを調べてみた。データは、家計調査でGWの期間に占めるウエイトが大きな消費項目の上位15品目を挙げたものである(図表3)。首位の「他の交通費」は、船賃・フェリー代などの交通運賃である。これは、長期休暇のときに船などを利用するときの費用である。緊急事態宣言で帰省や大型旅行が減ってしまうことで、今回もこうした交通機関の利用減少が起こることが予想される。2位の子供用和服は、子供の日に祖父・祖母が孫に購入するものも多いだろう。16~30位には子供用シャツ、通学用かばんといった同様に孫消費と関連するものがあった。3位の文化施設入場料は、やはりGWの外出レジャーに関連したものだ。園芸用植物(7位)、楽器(8位)は長い休みを趣味に楽しむ内容だ。これらの項目は、今年は緊急事態宣言の影響でかなり減ってしまうのではないかとみている。すでに、コロナ禍は1年以上に亘り、この間の帰省は手控えられている。今回のGWでも同様に地方への帰省が抑制されることで、地方の祖父・祖母が支出する消費も減らされ、旅行・娯楽以外にも、大家族で楽しむ焼肉・寿司などの外食需要も低迷が続くことになろう。

『第一生命経済研究所』より引用
(画像=『第一生命経済研究所』より引用)

深まる視界不良

政府は、今回の緊急事態宣言は短期間で終わらせたい意向だろうが、かえって視界不良が強まっている側面もある。それは、多くの人が「緊急事態宣言は今回では終わりではなさそうだ」と感じているからだ。7月22日から東京五輪が開催されるが、それまでに感染者の増加が起これば、もしかすると「4回目の緊急事態宣言が5月11日以降にあってもおかしくない」と予感させる。そうした不安感は、目下の先行きの不透明感をより強めるのではなかろうか。政府には、なるべく政策の予見可能性を高める工夫をしてほしいが、今のように感染リスクが強いと、それもままならないのが実情である。その分、事業者への手厚い支援も欠かせないということになるだろう。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生