資産管理会社を設立して、資産管理会社にて資産を管理している富裕層は多い。なぜ、富裕層は資産管理会社を設立するのだろうか。今回は、全3回に渡って、富裕層の資産管理の舞台となることが多い「資産管理会社」について特集してみたい。
資産管理会社とは何か
「プライベートバンクに口座を持つような顧客の場合、金融商品での運用も重要ですが、日本は税金が高いので、資産管理会社をいかに活用して、個人法人を合算した合理的な資産管理を提案できるかが、プライベートバンクの腕の見せ所です」(あるプライベートバンカー)
資産管理会社とは、主に富裕層や高所得者が設立する個人会社だ。資産管理法人、プライベートカンパニーと呼ばれることもある。文字通り、資産(主に有価証券や不動産など)を管理するための会社であり、実業(事業)を行う事業会社とは一線を画する。上記のプライベートバンカーの談にもあるように、法人設立の主な目的はタックスマネジメント(税金対策)だ。
資産管理会社を設立する7つメリット
資産管理会社を設立するには、どのようなメリットがあるのだろうか。例えば、以下の7つが挙げられる。
(1)個人所得税と法人税の「税率の違い」を活用できる
個人で収入を得た場合、原則として所得税がかかる。この所得税は累進課税なので、稼げば稼ぐほど税負担が重くなってしまう。所得税の最高税率は45%で、加えて住民税10%がかかるため、実質的に所得に対する最高税率は55%と半分以上が持っていかれる計算だ。
一方で法人税は累進課税ではなく、どんなに稼いでも普通の会社は23.20%課税だ。さらに、さらに資本金1億円以下の中小企業の場合、一部の例外を除いて、800万円までの利益は15%課税で済む。
例えば、「1億円の収入を個人で受け取る場合」と「1億円の収入を法人で受け取る場合」であれば、前者は約半分が税金で持っていかれることに対し、後者は約2,254万円の税負担で済む(法人税のみの計算)。稼ぐ金額が大きくなればなるほど、手残りの差は大きくなる。
「保有物件全てではありませんが、できるだけ1物件1法人で所有するようにしています。そのほうが、中小企業の特例(利益800万円まで15%課税)の効果をフル活用できるからです。そのため、所有法人は2桁以上あります。もちろん、俗に言う1物件1法人スキームを行っているわけではなく、金融機関には全法人をしっかり開示しています」(純資産数十億円の不動産オーナー)
という人もいるから驚きだ。
(2)経費の幅が広がる
法人は個人に比べて、経費として損金計上できる幅が広い。経費として損金計上されれば、利益が減るので、税負担も減る。本来、利益が出ていないことは営利企業として望ましくないが、資産管理会社の場合はタックスマネジメントが主な設立理由なので、むしろ好都合というわけだ。
法人でクルマを購入したり、役員のための社宅を借りたりすることもできる。「フェラーリを投資目的(税金目的)で保有している」という富裕層の話を耳にしたことがある人も多いだろう。
また、あまりにも豪華ではない社宅(例えば、法定耐用年数30年以下の建物かつ床面積132平方メートル以下)の場合は、一定金額を家賃として支払えば、給与として課税されない。そして、その「一定金額」は通常の家賃相場よりかなり低くなることが多い。住まいを個人名義ではなく法人名義で借りることによって、法人の経費を多くすることができる。
中小企業であれば、交際費も800万円まで損金計上できる。個人であれば最大4万円までしか控除できない生命保険料も、法人名義であれば多くの部分を損金計上することが可能だ。
小規模企業共済や経営セーフティ共済といった共済に加入することもでき、ともに掛金は全額所得から控除できるので、退職や万が一に備えつつ利益を圧縮することができる(これらは個人事業主でも加入できるため、法人に限ったメリットではない)。
法人の経費にできるのは、業務に利用していたり、法人の運営を行うのに必要であったりする費用に限る。しかし、合法的な範囲内にて、できる限り法人の経費として計上することで、個人法人を合算した実質的な手残りを最大化することができるだろう。
(3)家族へ給与を支払うことができる
給与は経費となるので、家族に給与を払うと利益を減らすことができる。もちろん、給与受け取り者には所得税が発生するので、給与額をそのまま移転できるわけではない。しかし、所得税は累進課税なので、給与を1人で受け取るよりも複数名で受け取ったほうが、所得税も圧縮できる。
例えば、法人から1人で3,000万円の給与を受け取るよりも、「自分は1,200万円、配偶者は800万円、長男は500万円、次男は500万円」と分散させたほうが、トータルの手残りは大きくなる。なお、「金額に見合う業務に従事していること」が給与支払いの条件だ。
(4)退職金を支給できる
退職金(退職所得)は、長年の勤労に対する報償的給与として一時に支払われるものであることから、税負担が非常に優遇されている。具体的には、退職金額から勤続年数に応じた退職所得控除額を差し引くことができる。また、役員等勤続年数が5年以下である場合を除き、退職所得控除額を差し引いたあとの数字をさらに1/2することができる。
資産管理会社とはいえ、法人と個人は別人格なので、法人にプールした資金を生活費や娯楽費に使いたいときは、何かしらの方法で個人へ資金を移す必要があることは言うまでもない。退職金はその方法のひとつとして活用される。退職の時期はコントロールできることが多く、大きな黒字が出る年にわざと退職金をぶつけることもできる。
また、自分への退職金だけではなく、③のように家族を法人の役員や従業員として雇っていた場合は、その家族にも退職金を支給することができる。前述のように、退職所得は非常に税金が優遇されているので、上手に活用すれば、ファミリー全体の手残りを最大化することができるだろう。
(5)給与支払いにはダブルのメリットがある
自分や家族に給与を支払っている場合、給与所得に応じた給与所得控除を受けることができる。例えば1,200万円の給与を受けた場合、給与所得控除は195万円なので、実際に課税されるのは1,005万円だ。
給与は損金計上できるため、自分や家族に給与を支払うと、法人としては利益を圧縮でき、個人としては給与所得控除を受けることができる。給与支払いにはダブルのメリットがあるということだ。③や④と有機的に絡み合うことで、メリットはさらに大きくなっていく。
(6)相続対策になる
日本の相続税の最高税率は55%であり、富裕層にとって相続対策は重要な課題だ。資産管理会社が相続対策になることには、いくつかの要因が挙げられる。それぞれを確認していこう。
1.遺産分割がしやすい
不動産などの分けにくい資産に比べて、資産管理会社の株式は相対的に分けやすく、遺産分割がスムーズに進みやすい。
2.含み益控除がある
資産管理会社の株式の相続税評価に使われることが多い純資産価額では、法人が保有する資産に含み益がある場合、含み益から法人税相当額(37%)を引いて純資産価額を求めることできる(取得後3年以内の不動産は、通常の取引価額で評価)。
3.相続人の納税資金の確保に繋がる
相続が発生したら、原則として10ヵ月以内に相続税を納付する必要がある。相続税は現金で支払うため、相続税が高い富裕層ファミリーの場合、納税資金(現金)が足りないという事態が発生することがある。そこで、③のように家族へ給与を支払うことで、相続が発生した際の納税資金を準備することができる。
4.被相続人の蓄財を抑えることができる
家族へ給与を支払うことで、資産管理会社のオーナーの蓄財が抑えられ、相続税額が減るという効果が期待できる。
5.プロベート対策になる
プロベート(亡くなった故人の財産や債務、納税状況、相続人の確認を裁判所の監視下で行う遺産分割、相続手続きのこと)が存在する国に資産を保有していても、それが法人所有であれば、相続対象は法人の株式となるため、プロベートの対象にならない。プロベートは資産移転に長い時間がかかったり、弁護士などの費用が多額になったりするケースが多いため、回避できることは大きなメリットだ。なお、日本人富裕層がよく不動産を所有する米国にはプロベートが存在する。
(7)赤字を10年繰り越すことができる
法人事業年度に生じた欠損金額(赤字)は原則として、向こう10年に渡って繰り越すことができる。したがって長期スパンでの資金管理戦略を描くことが可能だ。個人の損失繰越は3年間であるため、10年という時間は非常に優遇されている。
例えば、多額の退職金を支払った年は大幅な赤字になることが予想されるが、向こう10年間、その金額に達するまでは、利益が出ていても法人税を支払わなくて良い。退職金や給与、その他赤字を計上できるものをうまく組みわせることによって、長期スパンでの手取り最大化を実現することができる。
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