「女性だけの30分健康体操教室カーブス」を全国に約2000店舗展開するのがカーブスホールディングス(7085)だ。2005年の創業以来、50歳以上の女性をメインターゲットとしたユニークなフィットネス事業を展開。2020年3月、カラオケ事業などを展開するコシダカホールディングス(2157)のスピンオフとして東証1部に分離上場した。コロナ禍による会員数減少の影響で21年8月期は減収増益の見込み。事業回復に向けオンライン体操教室など新しいビジネスモデルづくりに取り組んでいる。
小規模施設で健康体操教室
FC方式採用し全国約2000店舗
国内フィットネスクラブの市場規模は約4800億円(2018年時点)。プールやスタジオを備えた総合型フィットネスに代わり、近年はサーキットトレーニング型の小規模施設が増加している。高齢社会の到来により健康志向のシニア層の利用も増加。この市場背景を受けて設立されたカーブスは、文字通り「女性だけ、30分」であることを特徴とする。
カーブスのメインの顧客は50歳以上の女性であり、年齢構成は50~70代で8割以上を占める。健康のために運動したいがやり方が分からない、運動をしたくてもなかなか続けられないといったこの年代の女性の悩みに着目し、1回30分のエクササイズで効果の高い運動プログラムを提供している。
他の総合型フィットネスクラブがオフィス街や繁華街などの都市部に出店するのに対し、同社は小型施設を生活商圏に集中して開設。自宅の近くにあるため主婦らにも通いやすく、価格も月々57 00 円(税別)からと低めの価格で展開している。
カーブスの運動は、筋力トレーニング、有酸素運動、ストレッチの3つの運動を組み合わせたオリジナルのサーキットトレーニングだ。利用者はマシンを使った筋力トレーニングとステップボードを使った足踏み運動を30秒ごとに交互に行い、最後にストレッチをして計30分で終了。手軽な運動ではあるが、メタボ対策や転倒リスク減少などの効果が研究機関との共同研究によって証明されている。
「簡単な運動プログラムではありますが、健康効果における科学的なエビデンスを複数持っているエクササイズを提供しています。ひざの痛みや腰痛の改善、さらに認知機能の改善に効果があることが東北大学加齢医学研究所などとの共同研究によって実証されています」(増本岳社長)
こうした効果に加え、インストラクターによる親身なコミュニケーションが高い顧客支持を獲得。新規入会者の半数以上は既存客からのクチコミ紹介だ。
「ハード面は他社さんでも真似ができますが、1番大切なのはソフトの部分と考えています。インストラクターが会員全員の名前を覚えてファーストネームでお呼びし、一人一人の体の状態に合わせて運動指導をします。創業以来、普通のフィットネスクラブに行くようなアクティブで運動好きな方々ではなく、まったく運動経験がない方やフィットネスクラブは敷居が高くて行かなかったような方々に向けてマーケティングをしてきています。そういう方々が楽しく運動を続けていただけるサービスの仕組みを作り上げてきたのが強みです」(同氏)
カーブスは、元々、アメリカで始まったフィットネス事業であり、日本では2005年にフランチャイズ支援会社のベンチャー・リンクによりカーブスジャパンが設立された。当時、ベンチャー・リンクに在籍していた増本氏は、シニア向けのビジネスを探す中でカーブスに出会い、世界総本部であるアメリカのカーブスインターナショナルとマスターライセンス契約を結び、06年からフランチャイズによる全国展開をスタートした。
「日本でも高齢化が進む中、これからシニア向けビジネスが伸びると言われていました。私も健康に関するシニア向けビジネスを探していて、その中で出会ったのがカーブスです。ただ、アメリカの健康問題とは肥満問題であり、アメリカのカーブスは減量のためのダイエットセンターでした。日本で展開するならば年齢層の高い人向けのビジネスとして広がる可能性がある、と思って日本に持ち込んだのが始まりです」(同氏)
08年にはカラオケ事業のコシダカホールディングスの連結子会社となり、11年には1000店を突破するなど店舗数を急拡大した。一方、本家のアメリカでは業績が悪化。そこでカーブスホールディングスは18年にカーブスインターナショナルを買収し、日本のカーブスがグローバルフランチャイザー(世界総本部)となった。19年には欧州8カ国のフランチャイズ本部事業を買収しグローバル展開を進めている。
2011年より会員向け物販本格的に開始
ロイヤリティとの2本柱に成長
2020年8月期の売上高は250億8200万円。売上高構成はロイヤリティ等が約2割、会員向け物販が約6割。同社はフランチャイズ(FC)方式を採用しているため、ロイヤリティを主力とする一方、エンドユーザーに直接販売するため会員向け物販の売上比率が高い。ここが同業他社とは収益モデルが異なっている。
同社の収益モデルは、ロイヤリティ収入と会員向け物販を2本柱とする。一般的なフィットネスクラブでは会員が支払う月々の会費などを主な収入源としているが、同社はFC方式を取っているため、全国のFC店舗から売上高の一定割合がロイヤリティとして上がってくる。
一方、物販売上は同社が直接、会員に栄養補助食品のプロテインなどを売るサブスクリプション(定額課金)型の通販形式を取る。これにより加盟店は在庫を持たずにすみ、同社が商品の末端販売価格の一定額を販売フィー(手数料)として加盟店に支払う仕組みだ。
元々同社は、ロイヤリティ収入にプラスして物販を売上の柱に成長させる構想を持っていた。2011年から本格的に物販を開始し、17年度には物販売上だけで100億円を達成。この時期、プロテインの新商品を投入したことにより購入者比率を3割から4割に伸ばし、18年度の物販売上は143億円に急拡大した。
「現在はコロナ対策に注力しているため新商品開発が遅れていますが、会員のニーズをとらえた商品を投入し、購入者比率を高めていきたいと考えています」(同氏)
今後は売上の2本柱をさらに成長させるため、FC加盟企業とエンドユーザーの会員をバランスよく重視していく考えだ。
「会員向け物販は確かに売上の主力ではありますが、とはいえ、私共にとってやはり一番大事なのは会員数だと思っています。ビジネス的にもそうですし、『健康な人を増やす』ことが当社の使命ですので、エンドユーザーのお客様の数には非常にこだわりがあります。ビジネスのパートナーであるFC加盟企業様と共に会員増に向けた施策に取り組んでいきます」(同氏)
既存加盟店による多店舗展開
人材育成に注力し安定成長
同社は10年程前から国内の新規フランチャイズ加盟店の募集は行わず、既存のフランチャイズ加盟店による多店舗展開を推進している。現在、約390社の加盟店によって全国約2000店舗が運営され、10店舗以上経営している加盟店が数十社ある。
既存フランチャイズ加盟店による店舗拡大は、「健康な人を増やす」という理念を共有し使命感を持って取り組んでいる加盟店とともに事業を拡大したいと考えているためだ。
「創業から数年後の2010年ごろには、カーブスが事業として非常に注目を浴び、放っておいても新規加盟の問い合わせが来ていました。その様子を見て、儲かりそうだからやりたいという方々に加盟してもらって拡大していくよりも、創業期から苦労を共にして事業を作ってきた人達と一緒に拡大していくのが当社の事業の本筋だと考えています」(同氏)
もう1つの狙いは、既存FC加盟店による人材育成のノウハウ活用だ。カーブス事業はインストラクターによる丁寧な運動指導など店舗のサービスが核であり、店舗拡大には人材育成が要である。そのため、新規FC加盟店を増やすよりも、人材育成ノウハウを身に付けた既存のFC加盟店に店舗を拡大してもらう方が中長期的に見て拡大のスピードが安定すると考えている。
また、店舗ごとのビジネスモデルのスケールが比較的小さめであるため、加盟店には3~4店舗の多店舗展開を推奨している。
一方、海外事業では、欧州8カ国にて約160店舗を運営。イタリア、スペインをモデル地域にして約10店舗ずつ選び、日本のノウハウを欧州向けにローカライズして導入し退会率減や入会者増などの成果を上げていた。しかし、コロナの感染再拡大で欧州ではロックダウン(都市封鎖)が強化されており、現在、約40店舗のみの営業が続いている。
「おうちでカーブス」新規向け開始
オンラインで運動継続し健康維持
2021年8月期の業績予想は、売上高240億円、営業利益13億円の減収増益の見込み。コロナの影響で元々は83万人いた会員が一時は54万人まで減ったが、21年2月末現在で64万人まで回復している。今後は、会員数の早期回復を最優先課題とし、期末会員数を70万人に回復させる計画だ。
主要施策の1つがオンライン体操教室「おうちでカーブス」だ。スマホやタブレットを利用して自宅でカーブスの運動ができるオンラインのプログラムであり、今年4月から新規会員獲得に向けた展開を開始した。
元々、同サービスは、コロナの感染拡大を受けて増えた休会・退会の会員に向けたサービスとしてスタート。現在、約1万会員が利用中であり、運動再開の選択肢として利用が広がっている。家事の合間や仕事の後に自宅で運動でき、コーチがサポートするのが特徴。巣ごもり需要の高まりを受け、リアルとオンライン融合の新しいモデル創出の成長を目指しており、その過程で店舗網の拡大とオンラインのバランスを見極めていく。
2つめの施策は、男性向け「メンズ・カーブス」の展開。女性会員からの「夫を運動させたい」という声を受けて開発した業態であり、現在、全国に7店舗を展開している。
元々は年間約50店舗の出店を計画していたが、コロナにより新規出店をほぼ凍結し、フランチャイジーからの要望等により年数件ずつ出店している。ただ、「感触として女性向けカーブスの3~5店舗に1店舗の割合で男性向けカーブスを展開できるだけの大きなマーケットがある」というのが増本社長の考え。将来的に女性向けカーブスが2500店舗になったときには、「メンズ・カーブス」だけで400~500店舗から1000店舗近くまで出店できると見ている。
同社がターゲットとしている50歳以上の女性のフィットネス市場は、他社とは競合しないマーケットであり、高齢化が進む日本における市場性はブルーオーシャンだ。単なるスポーツフィットネスのサービスではなく、「健康」を切り口に新しい市場を創造してきた強みを生かし、マーケティングを強化し会員数の早期回復を図っていく。「50~70代の人口は男女合わせて約4800万人、女性が2500万人、男性が2300万人、その女性2500万人の大半が当社の本来の顧客層になると思います。ですから女性向けカーブスで100万人、150万会員というのは全然不可能な話ではない。それだけの大きなマーケットがまだまだあると捉えています。地域の健康インフラとして、より多くの方にカーブスの運動を提供していきたいと考えています」(同氏)
日本初の「スピンオフ」上場
信用力向上により事業拡大加速へ
同社は20年3月、東証1部に上場した。コシダカホールディングスの株主がそのままカーブスホールディングスの株主となる「スピンオフ」の手法を利用した分離上場は全国初であり話題を呼んだ。
上場の理由の1つは信用力の向上だ。同社としては、フィットネス事業だけでなくヘルスケア全般や病気・介護の予防の分野に進出する事業戦略を描いており、カーブスとして単独に上場して知名度を上げ独自の資金調達ができるような方向を考えていた。
また、地域住民の健康増進の取り組みには地方自治体との連携が不可欠であり、上場企業であることが大きな後押しになると判断した。フランチャイズ事業なので多額の投資資金がいらないこともプラスに働いた。
「ベンチャー・リンクでカーブス事業をスタートし、その後コシダカグループに入って約10年間、一緒にやってきました。その中で、コシダカグループの腰高博社長と私が話し合い、先方(コシダカHD)のカラオケ事業と私共のカーブス事業の間では大きなシナジーがあるわけではなく顧客ターゲットもビジネスモデルも違う、それぞれの成長戦略を描く中で、独立してそれぞれの道を歩んだ方がいいのではないかということになったのがスタートラインでした。日本初のスピンオフによる上場でしたので準備に2年程かかりました」(増本氏)
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