富裕層のバランスシートを最も毀損するライフイベントのひとつが「相続」だ。そのため、ほとんどの富裕層にとって相続対策は大きな関心であり、同時に課題となる。今回は、富裕層の相続対策にスポットを当てて、全3回の特集をお届けする。

一代飛ばしや資産管理会社活用 富裕層の相続税対策には何がある?
(画像=PIXTA、ZUU online)

生命保険等の非課税枠を活用する

第1回では相続税の税率や歴史について見てきた。第2回では具体的な富裕層の相続税対策を考えて行くことにしよう。なお本稿を通じて、相続税対策は一般論であり、詳細は税理士など専門家に相談して頂きたい。

まずは生命保険等の非課税だ。被相続人の死亡によって取得した生命保険金や損害保険金で、その保険料の全部もしくは一部を被相続人が負担していた場合、「500万円×法定相続人の数」までが非課税となる(相続税法第12条5項より)。

例えば、法定相続人が4名の場合、2,000万円までは相続税の課税対象外になるということだ。法定相続人の数には限界があるので、たくさんの資産を保有する富裕層の場合は、節税インパクトが大きいわけではないが、非課税であれば使わない手はない。

なお、この非課税は円建て保険でないといけないわけではない。米ドルなどの外貨建て保険でも適用となる。富裕層の場合、資産の一部を米ドルで保有することは、もはや基本と言える動作なので、米ドル建て保険を選択肢としても良いだろう。

生前贈与して相続財産を減らす

次に、贈与を活用した相続税対策だ。相続税は、被相続人が保有している財産に対して課税される。したがって、生きているうちに子どもなどの親族に資産を贈与し、相続財産を減らすことで、相続税を圧縮することができる。

贈与を行う場合は、相続財産が減る代わりに贈与税がかかることになるが、年間110万円までならば非課税だ。「ちょっとした富裕層」であれば、110万円を毎年贈与することで、大幅に相続税を圧縮できるだろう。贈与先が複数名いれば、相続財産が減るスピードが早いのでさらに効果的だ。

たくさんの資産を保有する富裕層の場合、毎年110万円では効果が低いことが多いだろう。そのようなときは、たとえ贈与税がかかったとしても、基礎控除を超える金額の贈与を検討したい。例えば、600万円の贈与であれば税率は20%だ(特別税率の場合)。これを10年続けて6,000万円を贈与したとしても、20%を越えて税率が上がるわけではない。

配偶者と子ども3名がいるファミリーであれば、資産移転スピードは4倍だ。実際は基礎控除を加えて移転できるため(上記であれば600万円+110万円=710万円/年)、まずは積極的に贈与を検討したい。

特に、株式(自社株)や不動産など「今後も値上がりが期待できる資産」もしくは「配当や賃料などで定期的にキャッシュを生む資産」は、できるだけ早く次世代に移転したほうが、相続税対策に繋がる可能性が高い。被相続人の資産が増えることを防ぎ、かつ相続人の納税準備にも繋がるためだ。

一代飛ばし(孫を養子縁組)する

「一代飛ばし」とは、その名の通り、資産承継を一代飛ばすことを指す。例えば、資産家の祖父(被相続人)が自分の孫を養子にして、自分の子どもだけではなく、孫にも資産を相続させるケースが想定される。

相続は「富裕層の資産を最も毀損させるライフイベント」であるため、それならば「できる限り相続の回数を少なくしよう」と生み出されたテクニックだ。実は、戸籍上は養子になっているが、日常生活は何食わぬ顔で過ごす富裕層の孫世代はそれなりに多い。富裕層の間では比較的ポピュラーな相続税対策と言えるだろう。

しかし、少しでも多く税金を徴収したい国税庁が「一代飛ばし」の対策を怠るはずがない。孫が養子縁組によって相続人となった場合、通常の相続税に加えて2割が加算されることには注意が必要だ(それを差し引いても、ファミリー全体の納税額を下げることができる場合が多いため、多くの富裕層が実践している)。

資産管理会社を活用する

相続税対策のみならず、多くの富裕層が税金対策のために設立するのが資産管理会社(資産管理法人)だ。一般的には、不動産や株式などを法人名義で保有する。なぜ資産管理会社を活用することが税金対策に繋がるのかについては、別特集「富裕層と資産管理会社」なども参考にして頂きたい。今回は相続税対策の概要のみお伝えする。

資産管理会社を活用することが相続税対策に繋がる理由はいくつかある。まずは、税額の圧縮に繋がるわけではないが、不動産などの分けにくい資産に比べて、資産管理会社の株式は相対的に分けやすく、遺産分割がスムーズに進みやすいということが挙げられる。

また、「37%控除」も挙げられる。資産管理会社の株式の相続税評価に使われることが多い純資産価額方式では、法人が保有する資産に含み益がある場合、含み益から法人税相当額(37%)を引いて純資産価額を求めることできる(ただし、取得3年以内の不動産には適用されないことに注意が必要)。

また、家族を雇用して給与を支払うことで、被相続人(資産管理会社のオーナー)の蓄財が抑えられ、相続税額が減るということも挙げられる。また、家族を雇用して給与を支払うことで、相続が発生した際の納税資金の準備にも繋がる。

不動産を活用する

富裕層の相続税対策の鉄板とも言えるのが不動産の活用だ。不動産が相続税対策に繋がる理由はいくつか存在する。

1つめの理由が「路線価や固定資産税評価額は時価よりも低い」ということだ。不動産を相続するときの評価方法として、土地は路線価(路線価が定められていない場合は倍率方式)にて、建物は固定資産税評価額にて計算する。これらは時価の5〜8割ほどの評価と言われており、いずれにせよ時価よりも低くなることが一般的だ。現金は、時価のまま評価されるので、現金を不動産に替えるだけで、理論上は相続税が圧縮できる。

2つめの理由が「不動産を人に賃貸することで相続税評価額が低くなる」ということだ。他人に貸している不動産は、活用の選択肢が狭まるという理由から、さらに相続税評価額が低くなる。土地と建物で計算式が異なり、詳細は割愛するが、借地権割合、借家権割合、賃貸割合などをかけることによって、相続税評価額を大幅に下げることができる。おおまかなイメージとしては、現金を収益不動産に替えた場合、現金の約半分の相続税評価額になると捉えれば良いだろう。

3つめの理由は、借入をしている場合に限定された話だが、「借入を活用することでさらに相続税評価額が低くなる」ということも挙げられる。借入金額はその金額のまま負債として評価されるが、借入で購入した不動産の相続税評価額は、上記のように約半分となる。計算上は保有資産額が減って負債が増えるため、相続財産が減って、相続税が低くなるというわけだ。

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