(本記事は、山端 康幸氏の著書『アパート・マンション経営は株式会社ではじめなさい』=あさ出版、2021年6月17日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
法人と個人事業の違いは「税金」
アパート・マンションのオーナーが法人化するいちばん大きなメリットは、なんといっても節税。まずは、個人事業主と会社に課税される税金の違いを確認しましょう。
個人事業主の場合は、主に所得税・住民税・事業税がかかりますが、会社の場合には法人税・法人住民税・法人事業税がかかってきます。個人事業主も会社も、基本は「所得(儲け)」(収入から経費を差し引いた額)に対して課税されますが、税率に違いがあります。簡単に税金の計算方法を説明します。
◆個人事業主の場合――所得税の計算方法
所得税は収入金額から必要経費を控除し、各人の個人的事情を加味する制度としての所得控除額を控除した残額に累進税率(所得の多い人ほど重い税率で課税)を乗じて計算します。
①総所得金額
収入金額−必要経費=総所得金額
②課税所得金額
総所得金額−所得控除額(※)=課税所得金額
(※)所得控除額とは支払った社会保険料等の金額や扶養親族等の数に応じて控除できる金額。
③所得税額
課税所得金額×税率(※)=所得税額
(※)税率は下記の表の通りです。
所得税のほかに、地方税である住民税が課税されます。さらに、平成25年から平成19年までは、所得税額の2・1%相当額の復興特別所得税が課税されますが、以後説明の便宜上省略します。
◆法人の場合――法人税の計算方法
一方、法人税は次のように計算されます。
①法人所得金額
売上高等収入金額(益金)−売上原価・販売費一般管理費等(損金)=法人所得金額
②税務調整
実際の課税所得計算では、法人所得に、法人税法の規定に則(のっと)り一定の調整をした金額となります。
調整とは、たとえば、支払った法人税等、規定を超えた交際費や寄付金は損金として認められないので、当期純利益に加算することです。受領した配当収入は二重課税排除のため、益金に入れないなどの調整をします。これらを「税務調整」といいます。
③法人税額
法人税率は比例税率となっており、所得が高い場合でも一定税率になっています。
法人所得金額×税率
(※ほかに法人住民税がある。日本の法人税と法人住民税を合わせた実効税率は33・58%ほど)
所得税と法人税、税率はどのくらい違う?
◆ 節税ポイント 1 所得税は累進税率、法人税は比例税率
所得税と法人税は、所得について課税される点は同じですが、税率が異なります。所得税は、5%から45%までの7段階の累進税率となっています。
一方、法人税は、法人の規模や課税所得に応じて2つの税率が定められています。所得税ほど細かく区分されていないため、どんなに課税所得が大きくても法人税率は上限23・2%です。
◆ 節税ポイント 2 所得600万円で、法人のほうが税負担が少なくなる
個人と会社は、所得の計算方法も税率も異なりますので、正確な比較は不可能ですが、所得に応じた税金を単純比較すると、下記の表の通りです。(ここでは給与の支給は考慮せず、あくまで所得について課税される税金のみを比較している)。
上記の表をみると、所得金額が小さいうちは個人が有利ですが、所得金額600万円ぐらいから法人が有利になることがわかります。単純税率比較で600万円が損益分岐点といえます。
◆ 節税ポイント 3 一人あたりの所得を減らせば、所得税の税負担も減る
所得税は、所得の少ない人は低い税率で、所得の多い人は高い税率で課税される仕組みです。税率が低い所得で課税されるようになると、結果的に税金の総額が少なくなります。
たとえば、1000万円の個人所得がある人の事業を会社経営にし、所得1000万円を二人が500万円ずつ給料としてもらうことにすると、一人1000万円に対する税率よりも、二人の所得500万円に対する税率を足したほうが低い区分となります。
◆ 節税ポイント 4 給与所得はさらに税負担が少なくなる
法人化することにより、個人の事業所得が、会社からの給与所得にできると説明しました。給与所得は個人の所得として所得税が課税されます。
この給与所得は、給与所得者の必要経費にあたるものとして、左ページの表のように、給与収入から給与所得控除額(一定の経費)を差し引いて計算できます。
給与所得額=給与収入−給与所得控除額
このように法人化することにより、個人事業の所得1000万円が会社からの給与収入になり、さらに給与所得控除額分が控除されることになります。事業所得を給与所得とするだけで税負担が減るのです。
◆事業所得を給与所得にするだけで、こんなに節税できる
それでは、①個人事業での所得税、②法人化により給与所得化した所得税、さらに、③所得を分散した場合の二人分の所得税の金額を比較してみましょう(便宜上、所得控除はゼロとする)。
①事業所得1000万円の所得税
所得税額……1000万円×33%−153・6万円=176・4万円
②給与収入1000万円の所得税
給与所得……1000万円−195万円=805万円
所得税額……805万円×23%−63・6万円=121・55万円
③給与所得500万円が2人の所得税
給与所得……500万円−(500万円×20%+44万円)=356万円
所得税額……356万円×20% −42・75万円=28・45万円
二人分の所得税額……28・45万円×2人=56・9万円
このように、事業所得1000万円の所得税額176・4万円が、法人化による給与所得化で121・55万円、さらに給与所得者が2人になることにより56・9万円になる仕組みが理解できたと思います。
◆定期同額給与等の注意点
会社の給与(役員の給与を「役員報酬」といいます)の額は、基本的には自由に設定できます。しかし、一定のルールがあります。
役員報酬の改定は、決算日から3カ月を経過する日までに行わないといけません。そして毎月同額の給与(定期同額給与といいます)でなければなりません。
また、会社の決算期途中で役員報酬を増額した場合、増額部分は経費として認めてもらえません。その他役員の賞与や不相当に高額な給与なども経費にはなりません。
利益が出たからといって、役員報酬や役員賞与で会社の所得を調整するということはできませんのでご注意ください。
土地活用や相続税対策に関する不動産税務を専門とする。
不動産税務専門税理士として40 年の経験を有する。
クライアントもアパート・マンション経営者が多く長期的な資産活用の税務コンサルタントを業務としている。
明治大学リバティアカデミー講師・全国宅地建物取引業協会講師・不動産コンサルティング協議会講師・賃貸不動産経営管理士協議会講師などを歴任、その他新聞社など主催のセミナーを数多く行う。
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