国内損害保険大手のSOMPOホールディングスのグループで介護事業を担っているのがSOMPOケアだ。業界初の企業内大学を設立し教育拡充を図ったり、機械化・デジタル化による業務効率の向上などから人材確保にも成功。2015年の本格参入から5年で売上規模で業界2位、居室数トップに伸長した理由や、介護市場の成長率並みの事業拡大を狙う戦略など、小林卓人執行役員シニアマーケット事業部長に聞いた。
※シニアリビング居室数(介護付有料老人ホーム・住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・グループホームの老人ホーム居室数等・21年4月1日現在)
全国の拠点1000カ所超
施設系8割、在宅系2割
SOMPOホールディングスグループは、国内損保事業を中心に、国内生保事業、介護・シニア事業、海外保険事業等で構成。SOMPOケアは介護・シニア事業を担っている。
2015年から参入した同社の2021年3月期の売上高は前年比2・7%増の1318億円、修正利益※1は同16・9%増の73億円。介護業界の売上高では、首位のニチイ学館に次ぐ業界2位に躍進している。
手がけるサービスは幅広く、現在、『SOMPOケア そんぽの家』『SOMPOケア ラヴィーレ』などの介護付きホーム等が281棟、『SOMPOケア そんぽの家S』などのサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)が145棟、訪問介護サービスや定期巡回サービス、通所介護(デイサービス)などの事業所は561カ所、北海道から九州まで全国の拠点は1000カ所超に上る。介護付きホームやサ高住、グループホームを合わせたシニアリビング居室2万7000室は、業界トップとなっている。
「割合ではホーム等の施設系が売り上げの8割、訪問介護やデイサービス等の在宅系が2割になります。ただ業界2位といっても、14兆円と言われる介護マーケットで、シェアとしては1%にもなりません。介護事業者は全国6万社あると言われ、ほとんどが地域に根づいた中小事業者です」(小林卓人氏)
創業から約130年の歴史を有するSOMPOホールディングスグループが、介護事業に参入した理由は、今、同社が進めているスローガン「安心・安全・健康のテーマパーク」の構築に寄与する事業であることだ。「万が一」の時の安心を提供するのが保険事業だが、介護は日常的に顧客の安心・安全・健康にコミットできる。さらに超高齢化・人口減少が進展する中、社会課題の解決に関わりながら新たな価値創造事業となると考え、参入したという。
2015年に「ワタミの介護」を買収し「SOMPOケアネクスト」に、16年に「メッセージ」を買収し「SOMPOケアメッセージ」として、2ブランドで展開を開始。当初は食に強くホスピタリティを大事にする「旧ワタミ」と、医療面からの介護を追求する「旧メッセージ」のアプローチの違いもあったが、グループのポリシー「人間尊重」による介護を目標に一体化を進め、18年7月にはその他2社も含めて4社を「SOMPOケア」にまとめて合併した。
合併を前に同社は、全国をエリアで分ける地域本部制度を導入した。介護業界は業態別の運営が一般的で、同社も在宅介護から施設介護までフルラインでサービスを提供しながら、業態ごとの縦割りで運営していた。しかし、例えば元気な高齢者が多いサ高住の利用者が、介護度が進んで重度化して介護付き老人ホームに移りたいとなった場合、同社のサ付きと介護付き施設が隣接していたとしても連携がないため、他社の施設に行くこともあったという。
「地域本部制では、そのエリアにおいて、施設系から在宅系までフルラインナップのサービスを提供するので、お客様の状態に応じてどのようなサービスが一番その方に適切なのか、というトータルなパッケージとしてカスタムメイドケアをご提供できるようになりました」(同氏)
現在、1000カ所以上となった事業所を、東日本・東京・神奈川静岡・埼玉千葉と、西日本を2つに分けた合計6本部に分けて統括している。
専門性の高さを評価し、
処遇改善で人材確保
介護人材の確保と定着を図るため、19年10月、介護福祉士を中心とした介護職の処遇を「地域トップクラス」水準へ引き上げた。地域によって金額は異なるが、東京の世田谷区モデルの年収は介護職リーダーを担う正社員が376万円から456万4000円へ、リーダー以外で介護福祉士相当の資格を保有する正社員は330万円から394万8000円となった※2。
こうした処遇改善は、社員の専門性の高さを評価しやりがいを持たせることに加え、介護職の社会的地位向上が業界全体の発展につながると考えてのこと。22年度には第二段階として、介護職のリーダーを担う社員の処遇を看護師と同等の水準に上げることを目指して検討を進めている。
採用しても離職率が高いといわれる介護業界だが、参入当初20%程度だったという同社の離職率は改善し現在は11・4%。20年の一般労働者の平均離職率が同じ11・4%だから、職員の定着が進んでいることがわかる。
20年12月には、介護付きホームやサ高住等19施設を運営する東京建物シニアライフサポートを完全子会社化するなど、同社は21年5月、「新中期経営計画」で安定した収益基盤の構築に向け、企業価値拡大を目指すフェイズに入ったことを公表した。
具体的には、エリアによる介護サービスの濃淡を拡充によって是正し、フルラインナップの提供を目指す「エリア戦略」、自宅で暮らす要介護者を“介護難民化”させないための「在宅介護事業の強化」などを掲げている。
「『介護の生産性は品質を上げることである』と言われる通り、まずはテクノロジーやデータを活用し、いかに安全・安心で質の高いサービスを提供していくか、その延長線上に効率があると思います。そのうえで、介護オペレーターとしての自社開発や、 M&Aで規模拡大をすることで、多くの高齢者を支え、マーケットの成長と同様の成長に向け、大きく舵を切っていきたいです」(同氏)
※1 修正前は当期純利益から一過性の損益やグループ会社配当等の特殊要因を除いて算出
※2 平均的な夜勤5回/月、日祝手当を含む
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