エラン(6099)は、病院や老人保健施設などの入院患者・入所者が「手ぶらで入院・退院(入所・退所)」できる衣類などの洗濯付きレンタルと日用品を組み合わせた入院(入所)セットサービスのパイオニアだ。全都道府県で事業を展開し、業界ではトップシェアを誇る。コロナ下での感染懸念、施設の面会制約なども追い風に、2021年12月期業績は2ケタ増収増益を見通す。
既存の利害関係を活用
win─win─winが肝
同社は、病院や老人保健施設(老健)などの入院患者・入所者を対象に、衣類やタオル類の洗濯付きレンタルと歯ブラシやティッシュといった日用品など、保険適用外の身の回り品を組み合わせた入院・入所セットサービス「CS(ケア・サポート)セット」を2003年から展開する企業だ。対象とするのは、主に50床以上の病院・老人保健施設。日本全国で1614施設が契約し、月間利用者数は28万3555人にも上る。
20年12月期の売上高は前期比21.1%増の260億5600万円、営業利益は同38.6%増の20億6800万円と12年連続で増収増益を達成した。セグメントはCSセットが入る「介護医療関連事業」の単一となる。
同サービスは標準プランで日額300~800円。本人や家族が入院・入所に際して身の回り品を用意・洗濯する手間が省けるだけでなく、汚れたら何回でも交換でき、1日からの利用も可能と使い勝手が良い。最近ではコロナ下で家族の面会制約や感染症の懸念などから、サービス導入を検討する施設、契約施設での利用者が増えた。
大きな特徴は、同社が利用者個人と直接契約し、病院や老健及びその施設と取引のあるリネンサプライ・消耗品業者を活用するところだ。施設にはCSセットの説明、申込受付、物品の納入や配布・回収などを委託してもらう代わりに手数料を支払い、業者には物品の納品や回収を委託し、洗濯代金、購入代金を支払う。利用者を顧客とした「BtoBtoC:企業と消費者の取引(BtoC)を支援する企業」で、施設、業者間の既存の利害関係を傷つけない。
「施設、業者、当社のそれぞれに利益が生まれ、敵を作らない“win─win─win”のビジネスモデルです。新規案件はすでに出入りしている業者さんからの紹介も多く、こうした良好な関係が競合他社を阻むことにも繋がります」(櫻井英治社長)
施設ごとにプラン作成
解約率はわずか1・8%
20年11月には沖縄支店を開設。グループ営業拠点は21カ所となり、全都道府県をカバーする拠点網が構築された。各営業所では同社が扱う1500~2000アイテムの中から、価格帯に幅を持たせ、3~5種類のプランを作る。施設側の要望を聞いて商品をリストアップするため、同じプランはあまりない。
「例えば外科だったら手術がしやすいように前開きの病院着、高齢者の患者さんが多かったら入れ歯関連の商品を入れるなど、施設によって内容を変えています。また老健の場合、保険適用の商品は介護保険を管轄する地方自治体によって異なるため、細かな確認も必要です」(同氏)
一見参入障壁が低く見られる業界だが、行政に適した営業運営をはじめ、現場への説明や運用、物品の回収など安定したフローの構築、採算ラインの見極めなど、ノウハウが必要とされる。入院セットを組織的にビジネス展開したのは同社が初。「病院が患者の私物管理や洗濯もので困っている」と聞いたのがきっかけだ。
まだ国内市場の50%以上は空白地帯といわれるが、同社の市場開拓率(推定)※は50床以上の病院で14.4%、老健で6.3%と業界でトップ。解約率は1.8%で、ほとんどが施設の閉院、統合などによるもの。
「導入した多くの施設では、ベッド周りをすっきり清潔に保て、本来の業務に専念できると好評です」(同氏)
CSサービスに付加価値
困り事相談サービスも
21年12月期の業績予想は、売上高が前期比19.0%増の310億円、営業利益が同20.9%増の25億円。業績拡大の施策として、今期は①全国展開、②グループ力強化、③新事業開発の3本柱を成長戦略に掲げている。
まず①では、全都道府県のサービス拠点網を再編・強化。②では、従来のCSセットに付加価値を付け、18年に連帯保証人代行サービスと組み合わせた入院費用保証サービス付入院セット「CSセットR」、18年に利用者側に起因する損害事故補償サービス付入院セット「CSセットLC入院保証」を開始している。
また自然災害やコロナ感染のような有事の際にも物品を安定供給できるよう、神奈川県横浜市に自社の物流拠点を構えた。21年12月期には自社配送を前年度の約3.5倍の80施設に増やす予定だ。
③への取り組みも進む。20年7月には、入退院・入退所に特化した困りごと相談サービス「キクミミ」を開始し、5カ月で169件の相談が寄せられた。同サービスは無料、それ以上の士業への相談は1時間無料という形で、双方から紹介料を徴収する仕組みだ。
「今後はCSセットの市場開拓率を伸ばしつつ、中長期では『入院中』だけでなく、ペットの世話や家の手入れなども含め『入退院前後』の困り事を解決するトータルサポート事業にシフトしていきたい。また海外進出も視野に入れ、インドで2018年から医療関連商品卸会社、今年2月から病院内洗濯会社への投資を始めています。世界でいち早く高齢化社会を迎える日本で培ったノウハウを、アジアなど人口増加の著しい地域で展開できたらと考えています」(同氏)
※厚生労働省「令和元年度医療施設調査」及び「令和元年度介護サービス施設・事務所調査)を基にした同社推定
(提供=青潮出版株式会社)