「人生100年時代」という言葉が一般的になり、老後の資産形成を検討する人が増えています。老後資金の準備方法のひとつとして挙げられるのが、個人年金(個人年金保険)です。

しかし、現在の環境では個人年金はあまりメリットが多くありません。今回は、個人年金とは何か、そして、メリットが少ない理由、それに代わる老後資金の準備方法などについて解説します。

個人年金とは何か

個人年金はメリットが少ない?老後の資産形成を考える
(画像=АндрейЯланский/stock.adobe.com)

個人年金の正式名称は「個人年金保険」で、一定期間保険料を払い込むことによって、契約時に定めた年齢から年金を受け取ることができます。年金を受け取る期間は、一定期間や一生涯などさまざまです。年金を受け取る前に死亡した場合は、それまでに払い込んだ保険料に相当する死亡給付金を受け取ることができます。

一般的に個人年金保険は、自分が払い込んだ保険料の総額を超えた金額を年金として受け取ることができます。例えば10年確定年金(年金を10年にわたって受け取るタイプ)の場合、累計で550万円の保険料を支払うと、600万円分の年金(月5万円×12ヵ月×10年)がもらえる、といったイメージです。

似たものに「変額個人年金保険」があります。支払った保険料は「特別勘定(国内や海外の株式や債券等により運用されるファンド)」によって運用され、その運用実績によって、受け取る年金額が増減するタイプの保険です。投資リスクは個人が負うため、受け取る年金の総額が支払った保険料の総額よりも少なくなる可能性もあります。

個人年金保険と同様に、年金を受け取る期間もさまざまです。年金を受け取る前に死亡した場合は、死亡給付金を受け取れます。一般的に死亡給付金には最低保証があります。

現状だと個人年金のメリットが少ない理由

ここからは、個人年金のメリットが少ない理由について解説します。注意書きがない限り、個人年金は「変額個人年金保険」ではなく「個人年金保険」を指すものとします。

低金利のため大きなリターンを期待できない

まず、低金利のため大きなリターンを期待できないことが挙げられます。前述のとおり、一般的に個人年金では、自分が支払った保険料の総額を超える年金を受け取ることができます。

しかし現在の金利は極めて低いため、プラスアルファがあまり期待できません。ただ、銀行に預けるより金利が良いのは確かです。他の運用方法と併用するなど保険としてうまく活用するのもひとつの方法です。

外貨建ての個人年金は円建てよりも金利が高いものが多いとはいえ、現在は世界中で金利が下がっています。為替リスクを負うことも考えると、あまりおすすめできません。

インフレに弱い

個人年金は原則として契約時に将来の受取額が決まるため、インフレに弱いという特徴があります。インフレとはお金の価値が下がり、相対的に物価が上がる現象のことです。

将来年金を受け取るときにインフレが進んでいると、年金の実質的価値が目減りします。例えば「30年後に年間50万円受け取れる」契約だったとしても物価が上昇した場合に50万円の価値は今より下がってしまいます。つまり、生活費が足らなくなるというリスクをはらんでいます。

途中解約すると元本割れする可能性がある

個人年金は解約時に元本割れが発生するかもしれません。解約したときに「解約返戻金」が支払われる保険があります。解約返戻金は加入していた年数に応じて金額が変動し、支払った保険料の総額に対する解約返戻金の割合を「返戻率(払戻率)」といいます。

解約返戻金が払い込んだ保険料の総額を上回る(返戻率が100%以上になる)のは、契約の20〜30年後であるケースが多いです。返戻率が100%未満で解約した場合は、元本割れが発生します。

保険会社が倒産するリスクがある

個人年金は、場合によっては30年以上にわたって保険料を支払い続けます。その間に経済情勢が大きく変化し、保険会社が倒産する可能性もあります。保険会社が倒産しても契約はなくなりませんが、保障が削減されることがあります。

個人年金に代わる老後資金の準備方法

個人年金に代わる老後資金の準備方法には、何があるのでしょうか。前述のとおり、現在の個人年金では大きなリターンを期待できません。より積極的な選択肢としては、iDeCoが挙げられます。

iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)とは、確定拠出年金法に基づいて実施されている私的年金制度のことです。60歳になるまで掛金を拠出し、自分で運用方法を選んで運用します。60歳以降、掛金とその運用益の合計額を給付金として受け取ることができます。

iDeCoでは「掛金を拠出するとき」「運用益を得たとき」「給付を受け取るとき」において、税制優遇があります。原則として60歳になるまで資産を引き出すことはできませんが「老後のための資産形成」と割り切れば、非常に優れた制度です。

しかし、iDeCoにもデメリットがあります。例えば、以下のようなことが挙げられます。

・手続きや運用は自分で行う必要があり、一定の工数がかかる
・元本保証型の商品以外で運用する場合は元本割れリスクが発生する
・国民年金基金連合会、運営管理機関、事務委託先金融機関の手数料がかかる(したがって元本保証型の商品で運用していても、運用結果がマイナスになることがある)
・掛金を低く設定しすぎると、相対的に手数料負担の割合が大きくなる
・原則として60歳になるまで引き出すことができない(流動性が著しく低い)

個人年金とiDeCoの比較

どちらにもメリットとデメリットがあるため、一概にどちらが良いとは言い切れません。iDeCoは運用が必ずうまくいくとは限らず、「自分で運用指示をしたくない」「元本割れリスクを負いたくない」という人は、個人年金のほうが適している場合もあるでしょう。また、個人年金は途中解約すると元本割れする可能性があるとはいえ、解約自体はいつでもできるため、iDeCoに比べたら流動性は高いと言えます。

一方で、個人年金のリターンでは満足できない人、あるいは将来にインフレが起きると考えている人などにとっては、運用成果は保証されていないものの、個人年金よりiDeCoのほうが向いていると言えるでしょう。

現在の環境では個人年金はメリットが少ない

ここまで、個人年金とは何か、個人年金のメリットが少ない理由、個人年金に代わる老後資金の準備方法などについて解説してきました。

確かに現状において個人年金のメリットは少ないかもしれませんが、それ自体に問題があるわけではありません。老後資金を形成したい人は、自分の向き不向きを考慮して運用方法を検討すると良いでしょう。

※本記事は投資に関わる基礎知識を解説することを目的としており、投資を推奨するものではありません。

(提供:Wealth Road