マンション経営では「物件をいくらで買えるか」「家賃はいくら入ってくるか」といった目先の数字が注目されがちです。たしかに物件価格や家賃は、重要な要素となります。しかしマンション経営で安定した収益を得るには「どんな維持費がかかるのか」を理解してなるべくコストを下げることも大切です。
そこで本記事では、マンション経営でかかる費用や維持費を下げるための対策について解説します。

目次

  1. 1.マンションの維持費は実質利回りに影響する
  2. 2.マンション経営の初期費用
    1. 2-1.マンションの取得費用
    2. 2-2.仲介手数料
    3. 2-3.登録免許税・司法書士報酬
    4. 2-4.ローン事務手数料・保証料
    5. 2-5.火災保険料・地震保険料
    6. 2-6.不動産取得税
  3. 3.マンション経営で定期的にかかる費用
    1. 3-1.管理費・修繕積立金
    2. 3-2.固定資産税・都市計画税
    3. 3-3.賃貸管理手数料
    4. 3-4.借入金の返済
    5. 3-5.所得税・住民税
    6. 3-6.税理士報酬(確定申告を依頼する場合)
  4. 4.マンション経営で不定期にかかる費用
  5. 5.管理費の金額設定と徴収方法
  6. 6.修繕積立金の金額設定と徴収方法
  7. 7.マンションの年間維持費はいくらかかる?
    1. 7-1.管理費の平均額
    2. 7-2.修繕積立金の平均額
    3. 7-3.修繕積立金は築年数が経過するほど高くなる
  8. 8.マンション経営でかかる維持費のシミュレーション
  9. 9.マンションの維持費に関する注意点
    1. 9-1.将来の建て替えを想定しておく
    2. 9-2.管理費や修繕積立金の状況を注視する
  10. 10.マンション経営の維持費を下げるための対策
    1. 10-1.管理費が高いマンションを避ける
    2. 10-2.修繕積立金が不足しているマンションを避ける
    3. 10-3.好条件で融資を受けられる金融機関を探す
    4. 10-4.可能な範囲で節税に取り組む
    5. 10-5.確定申告は自分で行う
  11. 11.まとめ
  12. 12.マンション経営の維持費でよくある質問
    1. 12-1.Q.マンション経営の維持費の目安は?
    2. 12-2.Q.マンション経営の維持費において注意することは?
    3. 12-3.Q.マンション経営の維持費は節約できる?
    4. 12-4.Q.マンション経営の節税はどうやってするの?

1.マンションの維持費は実質利回りに影響する

マンション経営ではどんな維持費がかかる?コストを下げて実質利回りを上げよう
(画像=minicase/stock.adobe.com)

投資用のマンションを購入する場合、物件情報には物件価格と想定家賃、利回りなどが掲載されています。一般的に物件情報に掲載されている利回りは、維持費を考慮していない「表面利回り」です。物件の収益性を正しく見極めるには、コストを考慮した「実質利回り」を計算する必要があります。

  • 表面利回り(%)=年間家賃収入÷物件価格×100
  • 実質利回り(%)=(年間家賃収入-維持費)÷(物件価格+購入時の諸費用)×100

物件価格が手ごろで周辺相場よりも家賃収入が高ければ表面利回りは高くなります。しかし維持費がかさむと実質利回りが低下し想定よりも収益を確保できないかもしれません。また、空室などが発生すれば収益がマイナスになる可能性もあるでしょう。

マンション経営で成功するには「どんな維持費がかかるか」を意識しつつ、できるかぎりコストを下げて実質利回りを上げることが重要です。

2.マンション経営の初期費用

マンション経営を始める場合、物件取得時に初期費用がかかります。具体的にどんな費用がかかるのでしょうか。マンション経営の初期費用について確認していきましょう。

2-1.マンションの取得費用

マンションを取得するための費用です。例えば、中古物件や建築済の新築物件を購入する場合は購入代金、所有している土地に新築する場合は工事代金がかかります。新たに土地を探して新築する場合は、建物の工事代金とは別に土地の取得費用も必要です。マンション価格は、投資エリアや物件の規模、構造などによって大きく異なります。

一般的に数千万円~1億円超のまとまったお金が必要です。ただしローンを利用するケースが多いため、自己資金として用意するお金は少なく済みます。ローンを組む際は、家賃収入からローンを返済できるように収支計画を立てたうえで投資判断をすることが大切です。

2-2.仲介手数料

仲介手数料は、土地や中古マンションを購入する際に仲介業者へ支払う手数料です。仲介手数料は、国土交通省の「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」で以下のように上限額が決まっています。

不動産の売買金額仲介手数料の上限
200万円以下物件価格×5%+消費税
200万円超400万円以下物件価格×4%+消費税
400万円超物件価格×3%+消費税

【物件価格400万円超の場合の速算式】
物件価格×3%+6万円+消費税

不動産仲介会社によっては、この算式で計算した金額よりも安くなる可能性があります。仲介手数料は、成功報酬のため売買契約を締結しなければ支払う必要はありません。また不動産仲介会社(宅建業者)が自ら売主となる場合、仲介手数料は不要です。

2-3.登録免許税・司法書士報酬

購入するマンションの所有権保存登記(新築)や所有権移転登記(中古)、抵当権設定登記(ローン)を行う際は、登録免許税がかかります。登録免許税の税率(本則)は、登記の種類によって異なり0.4~2.0%です。マンションの評価額や借入金額によって税額は変わってきます。登記は、司法書士に代行してもらうのが一般的です。

そのため登録免許税とは別に司法書士報酬もかかります。司法書士報酬の相場は、約5万~10万円です。

2-4.ローン事務手数料・保証料

マンションの購入や建築にあたってローンを組む場合は、事務手数料や保証料がかかります。

・事務手数料
ローン手続きに対する費用で金融機関によって名称や金額が異なります。なお、支払方法は「定額型」と「定率型」の2種類です。

・保証料
ローン返済を保証会社に保証してもらうための費用です。保証料の支払方法は「一括払い」と「金利上乗せ」の2種類があります。

事務手数料と保証料を混同しないように両者の違いを理解しておきましょう。また、金融機関によって金額が変わるため、事前の確認が必要です。

2-5.火災保険料・地震保険料

マンションを取得する際は、万が一に備えて火災保険や地震保険に加入するのが一般的です。火災や地震は、頻繁に発生するものではありません。しかし、被害にあうと多額の損失が生じる可能性があるため、加入しておくと安心でしょう。

火災保険料や地震保険料は、マンションの規模や構造、設定する保険金額によって変わります。「毎年払い」や「5年間一括払い」など複数の支払方法があり長期間分をまとめて払うと総支払額を抑えることが可能です。近年は、自然災害が増加していることから保険料が増加傾向となっています。

2-6.不動産取得税

不動産取得税は、マンションなどの不動産を取得した際に1回だけ課税される税金です。物件取得から半年程度で納税通知書が届き記載されている納期限までに金融機関の窓口やコンビニなどで一括納付します。

不動産取得税の税額は「取得した不動産の固定資産評価額×3%」です。規模が大きく評価額が高いマンションほど税負担は重くなります。物件取得後しばらくしてから通知書が届くので納税分の資金確保を忘れないように注意しましょう。

3.マンション経営で定期的にかかる費用

ここでは、マンション経営で定期的にかかる費用を見ていきましょう。

3-1.管理費・修繕積立金

管理費は、マンションの共用部分を良好な状態に保つための費用です。マンションは、所有者や入居者が専有して使用できる「専有部分」と専有部分以外の「共用部分」の2つに分かれます。

・管理費
エントランスやエレベーター、階段などの清掃、点検にかかる費用や管理組合の運営費用などに充てるために毎月徴収されます。

・修繕積立金
マンションの共用部分の大規模修繕工事費用などに充当すべく長期にわたって積み立てられるものです。投資用として区分マンションを購入する場合は、修繕積立金も毎月かかります。修繕積立金は、将来値上がりする可能性がある点に注意が必要です。マンションは、実物資産のため、築年数が古くなるほど経年による修繕の必要性が高まります。

特に当初の修繕積立金が抑えられている場合、定期的に値上げが実施されるケースも少なくありません。管理費・修繕積立金の額は、物件によって異なるため、購入前に確認しておくことが大切です。

3-2.固定資産税・都市計画税

固定資産税は、毎年1月1日現在の不動産(土地・家屋)の所有者に対して課税される税金(地方税)です。固定資産税評価額をもとに対象となる不動産が所在する市区町村が課税する仕組みとなっており、投資エリアによっては固定資産税と別に都市計画税がかかることもあります。税額(本則)は自治体によっても異なりますが、例えば東京都の場合は以下の通りです。

  • 固定資産税:固定資産税評価額×1.4%(自治体によって異なる)
  • 都市計画税:固定資産税評価額×0.3%(自治体によって異なる)

自治体によっても異なりますが、一般的には毎年4~6月ごろに納税通知書が届き、年4回(第1期~第4期)に分けて納めます。第1期に年税額をまとめて納めることも可能です。自治体に連絡をして口座振替の手続きをしておくと手間がかかりません。

なお、1月2日以降にマンションを新築した場合、建物部分の固定資産税は翌年から発生します。(土地部分は日割りが一般的)

3-3.賃貸管理手数料

マンション経営には、物件の賃貸管理を自分で行う(自主管理)と賃貸管理会社に委託する(管理委託)の2つ方法があります。管理委託の場合は、賃貸管理会社に支払う手数料が発生します。専業でマンション経営を行う場合は、自主管理も可能でしょう。しかし副業の場合は仕事に支障が出る恐れがあるため、管理委託が現実的といえます。

管理委託手数料は、家賃収入の5%程度が相場です。管理委託で任せられる主な業務は、以下の通りです。

  • 入居者募集
  • 賃貸借契約の締結・更新
  • 家賃の回収、家賃滞納の督促
  • 入居者のクレーム対応
  • 退去手続き

管理会社によっては、家賃滞納時や空室時に一定の家賃保証を受けられるケースもあります。管理会社を選ぶ際は、手数料だけでなく入居率や管理戸数などの実績、サービス内容も比較するといいでしょう。一棟マンションを所有する場合は、上記の業務に加えて共用部分の清掃やメンテナンス、建物・設備の保守点検・トラブル対応なども依頼する必要があります。

3-4.借入金の返済

マンションは、物件価格が高額になるため、金融機関の融資を活用して購入するのが一般的です。家賃収入から借入金を返済するには、毎月の返済額(元本と利息)も考慮しなくてはなりません。借入金の返済後、毎月いくら手元に残るかを把握しておくことが大切です。

マンション経営では、空室期間中に家賃収入を得ることができません。そのため次の入居者が決まるまでの間は、自己資金で借入金を返済する必要があります。空室が発生してもマンション経営を続けられるように、手元資金にはある程度余裕を持たせておくことが大切です。

なお、借入金の返済額のうち税務上必要経費に計上できるのは、利息部分のみとなります。元本部分には、課税所得を減らす効果がなく節税にはつながらない点を理解しておきましょう。

3-5.所得税・住民税

マンション経営で得られる家賃収入は「不動産所得」に該当するため、毎年確定申告をして利益が出ている場合は所得税を納めなくてはなりません。また地方自治体から届く納税通知書をもとに住民税を納める必要があります。不動産所得は、給与所得や事業所得などと合計して所得税を計算する総合課税のため、本業の収入など所得状況によって税率は変わってくるのが特徴です。

通常は、所得が高い人ほど所得税率は高くなります。住民税(所得割)率は、収入にかかわらず一律10%です。不動産所得は、マンション経営の家賃収入から必要経費を差し引いて計算します。税金を計算する際は、どの支出が必要経費に該当するかを判断しなくてはなりません。

本来必要経費と認められない支出を経費計上してしまうと、税務調査で指摘されて修正申告が必要になる可能性があります。自分で税金の計算をするのが難しい場合は、税理士に相談するといいでしょう。

3-6.税理士報酬(確定申告を依頼する場合)

先述したようにマンション経営で得た不動産所得は確定申告が必要です。しかし税金の知識がなかったり本業が忙しく確定申告に時間をかける余裕がなかったりする人は、自分で所得金額や税額を計算するのが難しいかもしれません。自分で確定申告をするのが難しい場合は、税理士に代行してもらう方法もあります。

確定申告を毎年税理士に依頼する場合は、税理士報酬も毎年発生する費用の一つです。税理士報酬は、依頼内容や売上規模によって金額が変わります。例えば、記帳のみ自分で行い確定申告だけをスポットで依頼する場合は、数万円程度で依頼することも可能です。

一方で顧問契約を締結し毎月税務アドバイスを受けながら記帳代行や決算、確定申告まですべて依頼する場合は、年間数十万円の報酬が発生します。税理士に確定申告を依頼する場合は、複数の税理士から見積もりをとって判断することが大切です。

4.マンション経営で不定期にかかる費用

マンション経営では、定期的にかかる費用のほかに以下のような不定期で発生する費用もあります。

  • 設備の交換費用(給湯器、エアコンなど)
  • 退去時の修繕・クリーニング費用
  • 損害保険料(火災保険、地震保険)

一般的に設置済みの給湯器やエアコンなどが壊れた場合、物件所有者が交換費用を負担します。また退去が発生した場合は、次の入居者を迎えるために室内の修繕・クリーニングが必要です。火災保険や地震保険などの損害保険料は、数年分をまとめて支払うケースもあります。

5.管理費の金額設定と徴収方法

マンションを区分所有する場合は、管理費の金額設定と徴収方法の理解が大切です。管理費はマンションごとに管理規約で定められており、専有面積の割合に応じて負担する金額が決定します。基本的に面積が広い部屋の所有者ほど管理費は高くなる仕組みです。また、共用部分の設備やサービスが充実しているハイグレードなマンションは管理費が高くなる傾向にあります。

管理業務の内容によって金額が決まるため、管理会社の変更などによって管理費が変更される可能性があることも忘れてはいけません。管理費は、口座振替や振込で管理組合に毎月支払います。

6.修繕積立金の金額設定と徴収方法

マンションを区分所有する場合は、修繕積立金の金額設定と徴収方法について押さえておくことも重要なポイントです。

修繕積立金の額は、分譲会社や管理組合が作成する長期修繕計画に基づいて決定されます。一般的に修繕積立金も専有面積の割合に応じて各区分所有者が負担するため、面積が広い部屋の所有者ほど修繕積立金は高くなる傾向です。

修繕積立金は、大規模修繕工事費用に充当するために積み立てられます。積立金不足が予測される場合、途中で修繕積立金の額が値上げされたり不足分を追加で徴収されたりする可能性があるため、注意が必要です。修繕積立金は管理費と一緒に管理組合に支払います。

7.マンションの年間維持費はいくらかかる?

マンションの年間維持費は、物件によって異なりますがどれくらいの金額が相場なのでしょうか。ここでは、マンションの管理費と修繕積立金の平均額について解説します。

7-1.管理費の平均額

国土交通省の「平成30年度マンション総合調査」によると2018年における1戸あたりの管理費の平均は、月額1万862円(駐車場使用料等からの充当額を除く)です。この結果からマンション管理費の年間平均額を算出すると13万344円(月額1万862円×12ヵ月)となります。全体では「月額1万円超1万5,000円以下」が22.5%で最多でした。

次いで「月額7,500円超1万円以下」が17.2%となっています。また1平方メートルあたりの平均額は、月額147円でした。専有面積が25平方メートルなら月額3,675円、80平方メートルなら月額1万1,760円が目安です。マンションの管理費は、総戸数規模が大きくなるほど低くなる傾向にあります。

月額が最も高かったのは、総戸数「20戸以下」で1万3,260円でした。一方で最も低かったのは「101~150戸」で月額9,451円となっています。地域別の管理費の平均額は、以下の通りです。

都市圏・地域管理費の月額平均額(1戸あたり)
東京圏1万2,275円
名古屋圏1万1,538円
京阪神圏1万1,382円
北海道9,287円
東北1万576円
関東1万2,149円
北陸・中部1万1,010円
近畿1万1,045円
中国・四国9,120円
九州・沖縄1万369円

管理費は、地方に比べて都市圏や関東のほうが割高な傾向です。中国・四国は、月額9,120円ですが東京圏は月額1万2,275円で1ヵ月あたり約3,000円の差が生じています。

7-2.修繕積立金の平均額

国土交通省の「平成30年度マンション総合調査」によると1戸あたりの修繕積立金の平均は、月額1万1,243円(駐車場使用料等・専用使用料からの充当額を除く)でした。この結果から修繕積立金の年間平均額を算出すると13万4,916円(月額1万1,243円×12ヵ月)となります。全体では「月額1万円超1万5,000円以下」が25.1%で最多です。

次いで「月額7,500円超1万円以下」が17.9%となっています。また1平方メートルあたりの平均額は、月額164円です。専有面積が25平方メートルなら月額4,100円、80平方メートルなら月額1万3,120円となります。

修繕積立金は、総戸数規模が大きくなるほど低下傾向です。総戸数が「20戸以下」は、月額1万4,722円で最も高く「51~75戸」が月額9,850円で最も低くなっています。都市圏別・地域別の修繕積立金の平均は、以下の通りです。

都市圏・地域修繕積立金の月額平均額(1戸あたり)
東京圏1万3,019円
名古屋圏1万365円
京阪神圏1万883円
北海道1万4,381円
東北1万1,479円
関東1万2,973円
北陸・中部1万151円
近畿1万532円
中国・四国9,500円
九州・沖縄1万244円

北海道が月額1万4,381円で最も高いものの全体的には地方に比べて東京圏や関東が割高な傾向です。中国・四国は、月額9,500円ですが東京圏は月額1万3,019円で1ヵ月あたり約3,500円の差が生じています。

7-3.修繕積立金は築年数が経過するほど高くなる

マンションの修繕積立金は、築年数が経過するほど高くなる傾向にあります。国土交通省の「平成30年度マンション総合調査」をもとに完成年次別に修繕積立金の1戸あたりの月額平均額をまとめました。

完成年次修繕積立金の月額平均額(1戸あたり)
~1979年1万2,052円
~1984年1万1,077円
~1989年1万1,400円
~1994年1万1,413円
~1999年1万2,024円
~2004年1万1,227円
~2009年1万1,865円
~2014年9,244円
2015年以降6,654円

2015年以降に完成したマンションは、月額6,654円です。しかし「~1999年」は、月額1万2,024円で約2倍の差があります。築年数が新しいマンションの多くは、物件を売りやすくするために修繕積立金の額が安く抑えられている傾向です。

当初は、大規模修繕工事費用を適切に見積もるのが難しく年数経過に伴い正確な修繕費用が判明するケースもあると考えられます。予測より多くの修繕費用がかかると修繕積立金が不足する可能性があります。積立金不足で大規模修繕工事が実施できなければマンションを良好な状態に維持するのは難しくなるでしょう。

これらを踏まえると区分所有でマンション経営を行う場合は、将来の修繕積立金値上げを考慮して収支シミュレーションを実施し運用期間や売却時期を検討することが大切です。

8.マンション経営でかかる維持費のシミュレーション

マンション経営の維持費をイメージできるように一棟マンションを取得するケースについてシミュレーションしてみましょう。前提条件は、以下の通りです。

【物件情報】

  • 物件価格:1億円(固定資産税評価額7,000万円)
  • 想定年間家賃収入:800万円

【融資条件】

  • 自己資金:1,000万円
  • 借入金額:9,000万円
  • 借入期間:30年
  • 借入金利:2%

【税金】

  • 不動産所得:400万円
  • 所得税率:20%
  • 住民税率:10%

この条件で試算すると年間維持費(概算)は、以下のようになります。

定期的にかかる費用年間維持費計算方法
固定資産税約98万円固定資産税評価額×1.4%(※)
都市計画税約21万円固定資産税評価額×0.3%(※)
賃貸管理手数料約40万円想定年間家賃収入×5%
借入金の年間返済額約399万1,884円元金+利息
所得税約80万円不動産所得×20%
住民税約40万円不動産所得×10%
税理士報酬約18万円決算・確定申告のみ
年間維持費合計約696万1,884円-
※固定資産税と都市計画税は東京都の税率で計算

融資条件や収入、税理士への依頼の有無といった条件によっては、もう少し維持費を抑えることもできるでしょう。年間維持費合計は、キャッシュフロー(現金)のマイナスとなるため、税務上の必要経費とは一致しない点に注意が必要です。また区分所有の場合は、上記に加えて管理費・修繕積立金を考慮する必要があります。

9.マンションの維持費に関する注意点

ここでは、マンションの維持費について注意しておきたいポイントをまとめました。

9-1.将来の建て替えを想定しておく

マンションは、経年により老朽化が進みます。一棟マンションを長期にわたって保有するなら将来の建て替えを想定しておくことが大切です。新たに土地を取得する必要はありませんが、一棟マンションの建て替えには多額の費用がかかります。ローンを利用する場合でも、頭金としてまとまった資金を用意しなくてはなりません。

建て替え時期については、減価償却などを考慮するとよいでしょう。また「新規入居者募集の打ち切り」「入居者への立ち退き依頼」といった対応も必要です。一棟マンションの建て替えについて実績やノウハウを持つ不動産会社に早めに相談しておくと安心といえます。

9-2.管理費や修繕積立金の状況を注視する

区分所有でマンション経営を行う場合は、管理費や修繕積立金の状況を注視しておきましょう。前述したように、管理費と修繕積立金は専有面積に応じて区分所有者が負担しますが、滞納があると収支状況が悪化します。大規模修繕計画の内容によっては、積立不足が発生し修繕積立金の値上げや区分所有者への追加負担を求められる可能性もあるでしょう。

管理費や修繕積立金の状況は、管理組合が作成する収支報告書で確認できます。管理費・修繕積立金は毎月発生するため、マンション経営の収益への影響が大きい費用です。収支状況によっては、売却も選択肢となるでしょう。

10.マンション経営の維持費を下げるための対策

マンション経営の利回り(収益)を上げるには、少しでも維持費を下げる取り組みが必要です。ここでは、マンション経営の維持費を下げる方法を紹介します。

10-1.管理費が高いマンションを避ける

物件購入時に管理費が高いマンションを避ければ維持費を下げることが期待できます。管理費が高いマンションの特徴は、以下の通りです。

  • 総戸数が少なすぎる・多すぎるマンション
  • 設備のグレードが高すぎるマンション

国土交通省が公表している「平成30年度マンション総合調査」によると総戸数が30戸未満、200戸超のマンションの管理費が高い傾向です。管理費は、所有者全員で負担するため「総戸数が少なすぎると一戸あたりの管理費の負担が増加する」「総戸数が多すぎると必要な設備が増える」といったことが考えられます。調査結果を踏まえると投資用マンションは、総戸数50~200戸を目安に選ぶといいでしょう。
設備のグレードが高すぎるマンションも管理費が高くなりがちなので避けたほうが無難です。

10-2.修繕積立金が不足しているマンションを避ける

区分マンションへ投資する際は、修繕積立金の不足がないかを確認しましょう。修繕積立金が足りないと大規模修繕工事を実施できないため、将来値上げされる可能性があります。重要事項説明書などで修繕積立金の状況を確認してから物件を購入することが大切です。

10-3.好条件で融資を受けられる金融機関を探す

金融機関の融資を利用する場合、適用金利などの諸条件によって毎月の返済額や総返済額は大きく変わってきます。繰り上げ返済を予定している場合は、繰り上げ返済手数料がかかるかの確認も重要です。不動産会社に相談するなど好条件で融資を受けられる金融機関を探しましょう。

10-4.可能な範囲で節税に取り組む

マンション経営の維持費を下げるには、節税も有効な手段の一つです。「経費をもれなく計上する」「青色申告を目指す」などできる範囲で節税に取り組んでみましょう。

ただし過剰な節税は、2件目、3件目とマンション経営を拡大していく際に悪影響になることがあります。なぜなら十分な利益(所得)が出ていないと金融機関の評価が下がり融資審査に通らない可能性があるからです。

10-5.確定申告は自分で行う

マンション経営の規模が小さいうちは家賃収入も多くないため、税理士報酬を払うと利益が残らないかもしれません。できるかぎり自分で確定申告を行って税理士報酬を節約することも検討しましょう。会計ソフトを使えば特別な知識がなくても不動産所得の確定申告は可能です。

初めて行う場合は、時間がかかるかもしれません。しかし分からないことは、ネットや書籍で調べたり税務署に聞いたりすれば解決できます。

11.まとめ

マンション経営で安定した収益を得るには、維持費を下げることが大切です。物件や金融機関選びを工夫したり確定申告を自分で行ったりすることで維持費を下げられる可能性があります。まずはマンション経営でかかる維持費を把握し、できる範囲でコスト削減に取り組んでみましょう。

12.マンション経営の維持費でよくある質問

最後にマンション経営の維持費についてよくある質問をまとめておきます。

12-1.Q.マンション経営の維持費の目安は?

借入金の返済や所得税・住民税を除いた家賃収入の10~20%が目安です。諸経費の支払いや借入金の返済、税金の納付を行ってもキャッシュフローがプラスになるように心がけましょう。

12-2.Q.マンション経営の維持費において注意することは?

一棟マンションへの投資では、将来の建て替えを想定しておくことが大切です。区分所有の場合は、管理費や修繕積立金の収支状況に注意しましょう。

12-3.Q.マンション経営の維持費は節約できる?

工夫次第で維持費の節約は可能です。借入金額が大きい場合は、適用金利が少し下がるだけで総返済額の減額が期待できるでしょう。また確定申告を自分で行えば税理士報酬を節約できます。

12-4.Q.マンション経営の節税はどうやってするの?

マンション経営の不動産所得が赤字の場合、給与所得や事業所得と損益通算することが可能です。課税所得が減少するため、所得税と住民税の節税につながります。

(提供:YANUSY

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