中国経済の概況

1|経済成長の状況

中国経済はコロナショックから持ち直したあと停滞している。昨年以降の流れを振り返ると、コロナショックに直面した昨年1-3月期には前年同期比6.8%減と大きく落ち込んだ。しかし、中国政府(含む中国人民銀行)が財政金融政策をフル稼働させたことで昨年4-6月期には同3.2%増とプラス成長に転じ、その後も順調に持ち直して、今年1-3月期には前年同期に落ち込んだ反動もあって同18.3%増の高成長となった。ところがコロナ対策で緩んだ財政規律を引き締めるとインフラ投資が鈍化した。さらに「住宅は住むためのもので投機するためのものではない」との考えの下、コロナ対策で一時中断していた債務圧縮(デレバレッジ)を再開して不動産規制を強化すると、中国恒大集団が経営不安に陥るなど、不動産業界全体が実質成長率を押し下げることとなった(図表-1)。そして、21年7-9月期の成長率は実質で前年同期比4.9%増と前四半期を3ポイント下回り2四半期連続で減速した。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

産業別に見ると(図表-2)、21年7-9月期の実質成長率(4.9%)に対する寄与度は、第1次産業が0.6ポイント、第2次産業が1.4ポイント、第3次産業が2.9ポイントだった。コロナ禍から持ち直す過程では、第2次産業が先に回復したが、ここもと4四半期連続で第3次産業のプラス寄与が最大となっている。他方、需要別に見ると(図表-3)、21年7-9月期の実質成長率に対する寄与度は、最終消費が3.9ポイント、総資本形成(≒投資)が-0.0ポイント、純輸出が1.1ポイントだった。コロナショックから持ち直す過程では、財政金融両面から実施されたコロナ対策を背景に投資が先に回復したが、ここもと4四半期連続で最終消費が最大のプラス寄与となっている。産業別に見ても需要別に見ても中国経済は、財政金融に依存した緊急事態下の成長構造を脱して、コロナショック前(2019年以前)の自然体に近い成長構造にほぼ回帰したと言えるだろう。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

2|インフレの状況

消費者物価(CPI)は21年1-10月累計で前年比0.7%上昇、10月単月では同1.5%上昇と、21年の抑制目標(3%前後)を下回る水準で推移している。しかし、CPI上昇率が低位に留まる背景には19年に急騰した豚肉が21年春から急落していることがあり、豚肉などの食品を除いたコアCPIは同2.4%まで上昇率を高めてきた(図表-4)。また、工業生産者出荷価格(PPI)は21年1-10月累計で前年比7.3%上昇、10月単月では同13.5%上昇と、国際的な資源エネルギー高を背景に上昇傾向を強めている。こうしたインフレが経済成長を実質的に蝕み始めており、21年7-9月期には名目成長率を4.9ポイントも押し下げることとなった(図表-5)。豚肉価格は急騰前の水準に戻っており、今後は押し下げ要因が消え、押し上げ要因だけが残るため、CPIは上昇傾向を強めるだろう。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

3|新型コロナウイルス感染症の状況

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の状況を見ると(図表-6)、海外からの輸入症例を発火点に国内感染に波及するケースが中国全土で断続的に発生している。但し、新規確認症例に無症状の感染確認を含めても257名が21年の最大である。また、(1)ワクチンの完全接種率が8割近くに達したこと1、(2)死亡者が1月26日以降ゼロで重症化率も低下傾向にあること(図表-7)、(3)親密な関係にあるシンガポールが“ゼロコロナ"から“ウィズコロナ"に転換したことを勘案すると、北京冬季五輪が終わる22年3月以降には中国も“ウィズコロナ"へ政策転換する可能性があるだろう。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

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1 11月20日の微博(ウェイボ)によると、国家衛生健康委員会疾病対策局の呉良有副局長は記者会見で、19日までに12.25億人が新型コロナワクチンを接種し、10.76億人が完全接種を完了し、カバー率がそれぞれ86.9%、76.3%に達したことを明らかにした

需要別の現状と見通し

1|個人消費

個人消費は低位で一進一退と冴えない動きとなっている。個人消費の代表指標である小売売上高の推移を見ると(図表-8)、21年1-2月期に前年比33.8%増の高成長となったあと、8月には同2.5%増まで低下し、その後は9月が同4.4%増、10月が同4.9%増とやや持ち直してきている。但し、物価変動を除いた実質では、1-2月期に前年比34.3%増の高成長となったあと、8月には同0.9%増まで低下し、9月には同2.5%増とやや持ち直したものの、10月には同1.9%増と再び低下することとなった。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

個人消費が冴えない動きとなっている背景には2つの要因がある。ひとつはコロナ禍が断続的に再発するため“リベンジ消費"が完全燃焼しないことである。北京冬季五輪を来年2月に控える中国では小振りな感染に対しても厳格な防疫管理を行なう“ゼロコロナ"政策を続けており、モノの動き(物流)はコロナショック前(2019年)の水準にほぼ戻ったものの、ヒトの動き(人流)が半分前後の水準で低迷している(図表-9)。もうひとつの要因は、昨年来の不動産規制強化とそれに伴う中国恒大集団などの経営不安を背景に住宅販売が落ち込んでいることである(図表-10)。住宅販売が減少すれば、家具や家電など住宅関連消費への波及が避けられないため、影響は大きい。

他方、個人消費を取り巻く環境を見ると、消費者信頼感指数は9月に底打ちし、21年1-9月期の一人当たり可処分所得は実質で前年同期比9.7%増とまずまずの伸びを示し、調査失業率は4.9%とコロナショック前(5.2%)を下回り、半導体不足で不振だった自動車の生産もショックコロナ前を上回るなど消費環境は改善傾向にある。したがって、これから約2年を見渡すと、長らく続いた“ゼロコロナ"政策で溜まったペントアップ需要が一気に顕在化し、“リベンジ消費"が本格化する可能性を秘めている。そして、その到来は北京冬季五輪後の4-6月期が有望と考えている。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

2|投資

投資はここもと前年割れで底が見えない状況にある。投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)の推移を見ると、21年1-2月期に前年比35.0%増の高成長となったあと、5月には同2.0%減(推定2)とマイナスに転じ、その後も6ヵ月連続で前年割れとなっている。投資の3大セクター別に見ると(図表-11)、輸出が好調なことを背景に製造業では投資が増えているものの、インフラ投資が4月以降7ヵ月連続で前年割れとなり、不動産開発投資も6月以降5ヵ月連続で前年割れに落ち込んでいる。

不動産開発投資にブレーキが掛かった背景には不動産規制強化がある。中国政府(含む中国人民銀行)は商業銀行に対して過剰な貸し渋りを慎むように指導しているが、「住宅は住むためのものであって投機のためのものではない」という基本方針を堅持しているため、不動産開発投資は底割れする恐れが拭い切れない。一方、インフラ投資には底打ちする兆しがでてきた。10月には地方債残高増加額が前年同月と比べて2.5倍に増え、11月には陝西省、広西チワン族自治区、湖北省などで大型建設事業が着工したと伝えられたのに加えて、建築業商務活動指数(予想指数)が上向くなど「両新一重(新型インフラ、新型都市化、交通・水利などの大型建設工事)」が動き出した気配がある(図表-12)。また、製造業の投資は底堅いだろう。輸出がピークアウトすればマイナスの影響は避けられないが、“リベンジ消費"で国内消費が盛り上がればそれをあてにした投資が増えると見ているからだ。したがって、これから約2年を見渡すと、不動産開発投資が引き続き足かせとなるものの、インフラ投資が底打ちし製造業の投資が堅調を保つことで、投資全体では低位ながらも底堅い伸びを示すと予想している。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

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2 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)"と付して公表された数値と区別している。

3|輸出

輸出金額(ドルベース)は依然として高い伸びを示している。21年1-10月累計では前年比32.3%増、10月単月でも同27.1%増と好調を維持している(図表-13)。しかし、輸出単価の上昇が金額を押し上げている面があり、数量ベースで見ると1桁台に鈍化してきている(図表-14)。さらに、世界でワクチン接種が進んでパンデミックが収束し経済活動が本格回復すると、世界に先駆けて生産体制を正常化させた中国の優位性が薄れてくるだろう。したがって、中国に吹いていた追い風は弱まり、コロナショック前の状態に回帰して、輸出のプラス寄与は減少していくと見ている。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

中国経済の見通し

1|メインシナリオ

21年の経済成長率は実質で前年比8.0%増、22年は同5.3%増、23年は同5.4%増と予想している(図表-15)。これからの経済政策は、コロナ対策で肥大化した財政赤字を縮小して持続可能性を高め、コロナ対策で緩んだ金融規律を引き締めて債務圧縮(デレバレッジ)を進めることになるため、経済成長率は巡行速度(=大規模な政策支援なしで無理なく成長できる水準、筆者は5%前後と想定)に回帰していくと見ている。需要別に見ると、個人消費は低位で一進一退と冴えない動きだが、消費を取り巻く環境は前述のとおり改善してきており、北京冬季五輪が終わる来春には“ゼロコロナ"政策で溜まったペントアップ需要が一気に顕在化し“リベンジ消費"が本格化すると見ている。投資はここもと前年割れで底が見えない状況にあり、不動産開発投資は底割れする恐れもあるが、前述した「両新一重」などインフラ投資が底打ちし、製造業も消費向けの投資を増やすと見込むことから、投資全体では低位ながらも底堅い伸びと予想している。なお、輸出は中国に吹いていた追い風は弱まることからプラス寄与はゼロと想定している。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

2|リスク要因

メインシナリオを崩す主なリスク要因としては、(1)新型コロナ(変異株)の海外からの流入と市中感染、(2)債務圧縮(デレバレッジ)に伴う住宅バブルの崩壊(不動産税の立法化がトリガーとなる恐れも)、(3)インフレによる経済成長の押し下げ、(4)共同富裕に伴う統制強化(自由経済の制限)などが挙げられる。


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三尾 幸吉郎 (みお こうきちろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席研究員

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