環境と社会貢献、企業統治の3要素に配慮した投資対象を選ぶことでよりよい社会を目指す「ESG投資」が今や世界的な潮流となっています。その波は金融や株式の世界にも押し寄せており、今後はさらに多くの分野や業界にも波及していくことでしょう。そこにはもちろん不動産投資も含まれると考えるのが自然で、今後はESGに配慮した不動産、エシカルな不動産でなければ生き残れないような時代がやってくるかもしれません。
そんなこれからの時代に向けて不動産投資家が知っておくべきESG投資の基本と、その考え方を反映した不動産投資のあり方について解説します。
ESG投資とは何か
最初に、「最近よく聞くけれどESGってそもそも何?」という疑問にお答えしましょう。ESG投資のESGとは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治/ガバナンス)」のそれぞれ頭文字をとったものです。環境や社会貢献、企業統治に配慮している企業やプロジェクトなどを意図的に選んで投資をしようというのが、ESG投資の基本的な考え方です。これは逆に「世の中をよくすることに貢献しない企業には投資をしない」と言い換えることもできるので、こうしたプレッシャーを与えることで企業に積極的な取り組みを促す狙いがあります。
きっかけは2006年、当時の国連事務総長だったアナン氏が機関投資家にESGの概念を投資に組み入れることを提言したことが由来といわれています。同じく国連で提唱されたSDGs(持続可能な開発目標)の流れも相まって世界中の政府や企業などがその取り組みを競い合うような状況になっています。
不動産投資にもESGの波がやってくる
不動産投資のビジネスモデルは、とてもシンプルです。住居物件であれば物件のオーナーが住む場所を提供し、それを必要としている人が入居すると家賃収入が発生します。家賃収入や売却益が期待どおり得られることで不動産投資は成功したといえるわけですが、ESG時代の不動産投資ではこれだけではなく、ESGそれぞれの要件を満たしている必要があるというわけです。
住む人の命や健康を守り、環境にも配慮していることなどSDGsが唱える持続可能性を満たした不動産でなければ入居者から選ばれないとなると、否応なくオーナーはESGやSDGsといった概念を意識せざるを得ません。
こうした動きの中、国による認証制度が検討されていることをご存じでしょうか。対象は住居ではなくオフィスビルですが、働く人の良好な環境を確保して知的生産性の向上や優秀な人材確保を目指し、それを認証する制度であると定義し、国土交通省はこれを「ESG不動産投資の基盤整備」と位置付けています。
オフィスビルでこうしたESG不動産投資の流れが加速すると、今後は認証を受けていないビルは「不健康なビル」と見なされ、人材流出の懸念から企業が入居しなくなるかもしれません。そしてこの流れが住居物件にも押し寄せることはほぼ間違いないでしょう。
さらに国土交通省では「ESG不動産投資のあり方検討会」において、どんな不動産がESGに合致するのかを具体的に列挙しています。人口減少や少子高齢化、地球温暖化対策、防災・減災といった課題の解決に資する不動産の経営がESG適合不動産投資であり、これからの不動産投資ではESGに適合した物件選びや物件づくりに積極的に取り組むべき、としています。
不動産投資で実現可能な「エシカル品質」
ESG投資やSDGsに関連する話題では、「エシカル」という言葉もしばしば登場します。このエシカルには倫理的、道徳的といった意味があり、一般消費者がESGやSDGsの合致する企業や製品を選んで購入することを「エシカル消費」といいます。住居物件に入居する人たちは一般消費者なので、今後一般消費者がエシカル消費を積極的に意識するようになると、不動産物件にも「エシカルであること」が求められるでしょう。
そこでESGに適合したエシカルな物件づくりをするヒントとして、E、S、Gのそれぞれに対する具体的な取り組み方を挙げてみました。
カテゴリー | 具体的にできる取り組み |
E(環境) | 建物の省エネ性能向上、再生可能エネルギーの積極的な利用など、気象変動への対応を盛り込んだ物件選び、物件づくり |
S(社会) | 住む人の快適性や安全をいかに確保するかがポイント。 耐震性を向上した災害に強い物件づくり、入居者の心身の健康に配慮した室内環境づくり、高齢者や障がい者も安心して居住できるバリアフリー化など |
G(企業統治) | 上記のE(環境)とS(社会)を実践するための基盤づくりが基本。不動産投資を通じて何を目指すのか、その取り組みによって何が得られるのかといったロードマップの策定や進捗状況の情報開示、経営の透明化など |
ESGそれぞれの具体的な取り組みを見ると、すでに取り組みが進んでいるものも散見されます。館内照明を省エネ性能に優れたLEDに変更したり、太陽光パネルを取り付けたりして共有部分の電力供給に充当するなど、こうした取り組みは「環境に優しいマンション」であるとして広告戦略にも用いられてきました。今ではこうした取り組みにESGやエシカル品質といった名前がつき、差別化を図るための価値は以前よりも飛躍的に高くなっています。
これからの新常識、ESG不動産の可能性
不動産投資にESGの概念を盛り込むことは、これまでになかった付加価値の創出です。もちろんそのためには新たなコストを伴いますし、短期的にはオーナーの利益につながりにくいかもしれません。しかし不動産投資のESG化は今後考えられる「入居者から選ばれないリスク」の回避と、新たな付加価値によってESGへの高い意識をもった入居者から選ばれる不動産投資への進化でもあります。
一般社団法人日本不動産研究所が調査、発表したESG不動産投資のレポートによると、ESGに適合した不動産投資は短期的な出費がかさみ利回りの低下を招くものの、長期的にはESGに適合した不動産のほうが高い競争力を獲得し、オーナーにとってもメリットが大きいと結論付けています。
すでに欧米では一般的な価値観になりつつあるESGが、今後日本でも定着して対応が求められるのは間違いないと多くのオーナーが認識しており、さらにそのことが経営的なメリットをもたらすと考えている構図が垣間見えます。
まだまだ日本の不動産業界では一般的な価値観になっているとはいえない状況のなか、このタイミングで先手を打ってESG適合の不動産投資を目指すのは賢明な経営判断ではないかと思います。画一的な物件では差別化を図るのが難しく、その結果家賃の引き下げ競争に巻き込まれてしまうのは不動産投資の収益性悪化を招いてしまいます。内装や設備の充実など差別化を図る方法はたくさんありますが、そのなかの選択肢としてESGに適合した物件づくりは有効です。
しかもSDGsへの注目度や全世界的な取り組みが拡大していく流れのなか、ESGに適合していることに対する一般消費者の見方はより好意的なものになっていくでしょう。もはや一部の人たちだけの思想ではなく広く一般の人たちに浸透しつつある価値観に寄り添い、そのニーズに応えていくのがこれからの不動産投資家に求められるエシカル品質です。社会は常に変化しており、不動産投資も社会の変化に適応して進化していくことが求められているのです。
(提供:Incomepress )
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