「貯蓄から資産形成へ」を支える有価証券投資への期待
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「貯蓄から資産形成へ」を支える有価証券投資への期待

(金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」ほか)

三菱UFJ信託銀行 受託運用部 チーフストラテジスト / 芳賀沼 千里
週刊金融財政事情 2022年1月4日号

日本の個人はリスク回避的だといわれるが、足元では株式や投資信託などに資金を振り向ける傾向は強まりつつある。今回から3カ月間、個人の投資行動の変化を統計データに基づいて追ってみたい。

そもそも、個人がリスク回避的という認識は正しくないかもしれない。1980年代までは生活の基盤である住宅が個人の保有するリスク資産であり、資産形成の対象でもあった。高度経済成長時代には地方で生まれた人が成人後、東京圏や大阪圏で生活することが多かったことに加え、「土地神話」が存在した。結果として、80年代末には個人の全資産の約80%が不動産、約20%が金融資産であった。当時も現預金は金融資産の約半分を占めていたが、全資産のほぼ10%にすぎないので、その比率が極端に高いとはいえない。

その後、90年代に入ると、日本経済がデフレに陥り、個人は郵便局の定額貯金に走った。運用目的は資産価値の保全だったので、デフレを前提とすれば現預金でも実質購買力が損なわれるリスクは低く、合理的な判断であった。日本銀行「資金循環表」を見ると、現在でも現金・預金は個人金融資産の53.4%を占める(21年6月時点)。欧米主要国に比べて突出して高い比率である。

今後、日本でも物価上昇の局面に移行すれば、現預金では資産価値を保全できない可能性がある。ただ、長期的な不動産価格下落を経験して、土地神話は崩壊している。土地問題に関する国民の意識調査では、「土地は預貯金や株式などに比べて有利な資産である」という質問に対する回答は、90年代前半の60%台から2019年には27.1%に低下した。

そうしたなか、金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する調査」を見ると、金融資産保有世帯の株式保有額は20年に182万円と過去最高になった。資産形成を目的として有価証券投資を行う個人が増加しているとみられる。

同調査では、金融商品の選択基準について、「将来の値上がりが期待できるから」という回答の比率が14年までの5%以下から20年には9.5%に上昇した(図表)。投資に対する前向きな期待が醸成されてきたことが分かる。「元本が保証されているから」という回答の比率は依然として高いものの、20年には26.5%まで低下した。

また、投資については「自己責任」の認識が定着しつつある。同調査では元本割れの経験の受け止め方について、「自分の相場についての予想が外れたのであるから、それは仕方がない」という回答の比率が着実に上昇し、07年の67.1%から20年には74.7%となった。それに対して、「相場の変動によって元本割れするリスクを金融機関が十分に説明しなかったためだ」という回答は、同様に10.2%から4.5%に減少した。「貯蓄から資産形成へ」のカギは、有価証券投資に対する期待や理解の高まりだといえる。

きんざいOnline
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(提供:きんざいOnlineより)