この記事は2022年1月13日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「貸出・マネタリー統計(21年12月)~都銀貸出の前年割れが続く、マネタリーベースの伸び率もみるみる低下」を一部編集し、転載したものです。
貸出動向:0.5%前後の小幅な伸びが継続
貸出残高
2022年1月12日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、昨年12月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比0.55%と前月(同0.51%)を若干上回った。伸び率の上昇は2ヵ月ぶりで、昨年半ば以降は前年比0.5%前後の小幅な伸びが続いている(図表1)。
引き続き、円安の進行による外貨建て貸出の円換算残高嵩上げが多少の押上げ要因となっている(図表3)。一方、企業収益の改善に伴ってキャッシュフローも回復したことで資金需要が一服したうえ、大企業を中心に一部でコロナ禍入り後に予備的に借り入れた資金の返済が進んでいることが重荷になっているとみられる(図表4)。
業態別に見た場合には、都銀の伸び率が前年比-1.14%(前月は-1.12%)と7カ月連続の前年割れかつ2カ月連続のマイナス幅拡大となった。一方、地銀(第2地銀を含む)の伸び率は前年比2.02%(前月は1.92%)とプラスプラス幅を拡大している(図表2)。地銀では、相対的に資金需要が根強く残る中小企業向けが主力であるため、都銀に比べて堅調な伸びが続いている。
マネタリーベース:実勢としては小幅な増加基調が継続
1月5日に発表された昨年12月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比8.3%と、前月(同9.3%)を下回り、8カ月連続で低下した(図表5)。
低下の主因は引き続きマネタリーベースの約7割を占める日銀当座預金の伸び率低下(前月10.9% → 当月9.7%)である。日銀当座預金の減少要因となる政府による国庫短期証券発行額が前年同月よりも大幅に縮小する一方で、日銀による資金供給も国庫短期証券買入れを中心に、国債・ETF・社債買入れなどで幅広く縮小されていることから、増加ペースが鈍化している(図表6・7)。なお、コロナオペと同月から開始した気候変動対応オペは日銀当座預金の増勢に寄与した。
その他の内訳では、貨幣流通高の伸び率が前年比0.4%(前月は同0.7%)と2カ月ぶりに低下する一方、日銀券発行高の伸びは前年比3.1%(前月も同じ)と横ばいで推移している(図表5)。
12月末時点のマネタリーベース残高は670兆円と前月末比で9.6兆円増加した。もともと年末にかけては日銀当座預金が増加しやすいという季節性があるものの、季節性や月内の動きを除外した季節調整済み系列(平残)でみても、前月比5.3兆円増と5カ月ぶりの増加幅となっている(図表8)。実勢としては、マネタリーベースの小幅な増加基調が継続している。
マネタリーベースの先行きについては、日銀がETFや国債の買入れを抑制するなど市場への関与を徐々に減らしているうえ、今後もしばらく比較対象となる昨年同月の伸び率上昇が続くことから、前年比伸び率の低下基調が続くと見込まれる。少々先では、コロナオペの一部打ち切りなど資金供給策の縮小が実施される今年4月以降にはさらに低下圧力がかかり、前年割れとなる可能性もある。
マネーストック:市中の通貨量は緩やかな増勢を維持
1月13日に発表された昨年12月のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比3.73%(前月は3.99%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同3.38%(前月は3.55%)と、ともに低下した(図表9)。伸び率の水準はそれぞれ2020年4月以来の低水準にあたる。
銀行貸出の伸び率低迷や日本の貿易収支赤字化が伸び率の低下に影響しているとみられる。
M3の内訳で見ると、主軸である普通預金等の預金通貨(前月7.6% → 当月7.3%)の伸び率低下の影響が大きかった。また、CD(譲渡性預金・前月10.6% → 当月6.2%)の伸び率低下も押し下げに働いた。一方、現金通貨(前月3.3% → 当月3.4%)が伸び率をやや拡大したほか、定期預金などの準通貨(前月▲3.2% → 当月▲3.0%)の伸び率がマイナス幅を縮小したことが支えとなった(図表10・11)。
また、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率も前年比4.62%(前月は4.81%)と2カ月連続で低下した(図表9)。
内訳では、既述の通り、M3の伸びが低下したうえ、規模が大きい金銭の信託(前月13.8% → 当月13.6%)、投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月-0.5% → 当月-1.2%)、国債(前月-1.3% → 当月-2.2%)の伸び率がそれぞれ低下したことが影響した(図表11)。投資信託の残高は今年の春以降、伸び悩みが続いている。
ただし、季節調整値の前月比でみた場合では、M2、M3、広義流動性ともに伸び率は小幅なプラス圏で推移しており、市中の通貨量は実態として緩やかな増勢が続いている(図表12)。
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上野 剛志 (うえの つよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 上席エコノミスト
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