次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代のどこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU online総編集長・冨田和成が、成長企業経営者と対談を行い、同じ経営者としての視点から企業の経営スタンス、魅力や成長要因に迫る特別対談をお届けする。

今回お招きしたのは、株式会社エアトリ代表取締役社長兼CFOの柴田裕亮氏。同社は「One Asia アジア黄金期におけるリーディングカンパニーになる」という企業理念のもと、エアトリ旅行事業をはじめ、多岐にわたる事業を展開している。ここでは柴田氏に、昨今における経営・事業の変遷や思い描く未来構想などについてお聞きした。(取材・執筆・構成=大正谷成晴)

株式会社エアトリ
(画像=株式会社エアトリ)
柴田 裕亮(しばた・ゆうすけ)
株式会社エアトリ代表取締役社長 兼 CFO
2005年、監査法人トーマツに入所。法定監査・IPO支援業務等に従事。2010年より野村證券に2年間出向し、IPO、ファイナンスに係る証券審査に従事。トーマツ帰任後は、数多くの上場案件に関与したほか、IPO支援室の中核メンバーとして、IPO支援、講演・執筆等を実施。2015年、エボラブルアジア(現 エアトリ)の取締役CFOに就任。2016年の東証マザーズ上場、2017年の東証一部市場変更を牽引。2018年のDeNAトラベル等数多くのM&A案件を経験、投資事業では約66社、27億円の投資実績。2019年に同社代表取締役CFOに就任し、2020年に同社代表取締役社長 兼 CFOに就任。
冨田 和成(とみた・かずまさ)
株式会社ZUU代表取締役
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。

上場を機に事業領域の拡大に着手、現在は5事業を展開し順調に成長

株式会社エアトリ

冨田:柴田社長は2020年1月という、厳しい外部環境のタイミングで社長兼CFOに就任されました。事業は成長し、2021年9月期通期の営業利益は減損控除前で40.5億円、減損控除後で31.5億円と、過去最高を更新しています。まずは、ここ数年における事業の変遷をお聞かせください。

柴田:当社は2007年に株式会社旅キャピタルとして現取締役会長の大石崇徳と現取締役CGOの吉村英毅が共同で創業し、2度の商号変更を経て現在に至ります。その間、2016年にマザーズ市場に上場、翌年に東証一部に市場変更をしました。

上場時はオンライン旅行とオフショア開発の2軸で事業を展開しており、前者は上場後に「エアトリ」のブランドを立ち上げています。以降は新しい事業領域へのチャレンジとしてインバウンド領域や投資事業にも参入し、現在は「エアトリ旅行事業」「ITオフショア開発事業」「訪日旅行事業・Wi-Fiレンタル事業」「メディア事業」「投資事業」の5事業を展開するに至りました。エアトリ旅行事業に続く事業の確立に注力した結果、コロナ禍でも各事業が補完し合い、回復は比較的早かったと実感しています。

冨田:エアトリ旅行事業に関しては、2018年にエアトリインターナショナル(旧DeNAトラベル)を子会社化しています。

柴田:当社としては過去最大規模のM&A案件でした。これにより、国内航空券に加えて海外航空券のインターネット取扱高がナンバー1になっています。2018年から19年にかけてマスマーケティングやシステム開発に取り組み、その後に新型コロナ感染症の感染拡大の影響を受けましたが、投資は一巡したタイミングだったので、そこからの回復はスムーズでした。

冨田:御社にはまさに直撃だったコロナ禍では、どういったことに取り組みましたか。

柴田:大きく2つあり、1つ目はグループ全体のコスト削減を中心とした経営の合理化です。当時は販管費が月間10億円ありましたが、足元では5億円弱になっています。2つ目は事業ポートフォリオの最適化で、エアトリ旅行事業に続く事業にリソースを集中させました。

冨田:御社がポートフォリオ経営を推進する背景や経営思想についてお聞きしたいです。

柴田:創業者2人によるところも大きいのですが、当社では「アジア経済圏の中で生まれるあらゆる変化を事業機会として捉え、終わりなき成長を続けていく」というミッションを掲げていて、新しい事業へのチャレンジはカルチャーとして社内に根付いています。上場時は「自信のある旅行事業に集中すべき」との声もありましたが、我々としてはここぞと思う領域に果敢に参入し、それが一つひとつ形になってきました。「複数の事業を手掛けるとリソースが分散する」といった話はありますが、いけると考えた領域はやり切るスタンスを貫いています。

販売力と開発力、創業者を中心とした経営チーム、成長志向の高い役員・従業員の結びつきが強み

株式会社エアトリ

冨田:新規事業を立ち上げ軌道に乗せ、エアトリCVC・投資事業では非上場株式投資66社への累積投資額28億円に対して、回収済・直近評価額合計は49億円にものぼりました。投資先IPOも8社(うち1社は当社子会社)達成し、今後上場が噂される会社もいくつかあります。こういった強さを実現する御社のコア・コンピタンスについて、どうお考えですか。

柴田:ノウハウの部分では、我々はIT×旅行分野を手掛けてきた結果としてのテクノロジーと販売の部分です。ベトナムに開発拠点があり、それを生かしながら開発力を高め、旅行事業を通じてWeb分野における販売ノウハウもかなり蓄積してきました。また、創業者だけではなく後から入ってきたプロ経営者的なメンバー、成長志向の高い役員・従業員が有機的に結びつき、この成長を形作っている側面もあります。

プロ経営者という言葉が適切かどうかわかりませんが、私を含め上場前後には中途の経営メンバーが次々とジョインしていて、新規事業やM&Aを推進してきました。そういった存在が複数人いることも、大きな強みです。

冨田:ヘルスケア事業*では出資先の株式会社ピカパカを通じて、PCR検査サービスを取り扱い、「ピカパカPCRクイック検査センター」もオープンしました。PCR検査センターはまさにBtoCの領域ですが、これまでの知見が生かしやすそうです。
*ヘルスケア事業は、2021年11月12日の2021年通期決算発表にて公表の通り、成長戦略「エアトリ2022 ”リ・スタート”」により再編となりました。

柴田:短期間でウェブサイトを立ち上げ、集客をしながらオペレーションも構築するプロセスは、まさにエアトリ旅行事業で培ってきたノウハウがもとになっています。

冨田:PCR検査は自社で提供する一方、エアトリ旅行事業は各航空会社のチケットのオンライン予約を含めたマッチング型のビジネスです。マッチングビジネスと言えば、リクルートの「リボンモデル(リボン図)」が有名ですが、御社の場合は国内企業側の開拓は大手2社やLCCと数が限られていて、住宅や不動産、美容室に比べると営業網が必要のないモデルなので再現性が高いと思います。

柴田:おっしゃるとおりです。汎用性もあるので、いろいろな商材・サービスに対応できるのがメリットだと考えています。

冨田:そうなると、自社でビジネスを立ち上げるのか、それとも買ってくるのかという戦い方になるので、M&Aが加速するのも納得の話しです。

柴田:上場後もM&AやPMIは30件ほど実施していて、我々としてはWi-Fiやキャンピングカーのレンタルなど、さまざまな商材を立ち上げています。

「エアトリ5000」を掲げ、取扱高5000億円の達成を最速で目指す

冨田:ここまでのお話で、御社の捉え方がイメージできました。次いで、今後思い描く未来構想をお聞かせください。

柴田:まず、コア事業のエアトリ旅行事業において、「旅行といえばエアトリ」という姿をどこまで作っていけるのかということです。旅行会社の中には店舗型で1億円のプレイヤーもいますが、我々としても旅行を便利・お得に提供できるかを突き詰めて伸ばしていかないといけません。コロナ前に新中期成長戦略として「エアトリ5000」を掲げ、2019年9月期の取扱高約1500億円から2024年までに取扱高5000億円の達成に向け、エアトリ旅行事業の強化はもちろん、新たな成長領域の発掘などを推進する次第です。

また、最近は「エアトリ経済圏」と呼んでいますが、旅行に続く事業を通じたポートフォリオ経営を確立し、経済圏を作ることも目標です。創業者の吉村は「終わりなき成長」という言葉を好んでいて、成長志向でコングロマリットの形で経済圏を伸ばし、アジアを代表する会社になってきたいと考えています。

冨田:今後も新規事業への参入、M&Aに積極的に取り組みそうですが、事業の選定基準はどうお考えですか。

柴田:キーワードは3つあり、1つ目はその時点ではニッチ市場でプレイヤーが限られているという点。2つ目は、なおかつその市場全体が成長している、もしくは成長が見込まれているということです。3つ目は、我々が参入することでナンバー1が取れるかどうか。こういった観点で参入する事業を判断しています。実際には誰かの目利きによるところも大きく、「これをやりたい」という意思を尊重するカルチャーもあります。

冨田:コア・コンピタンスのところでもおっしゃっていましたが、事業を推進する人材がそろっているからこそ、多岐にわたるビジネスが展開できるのですね。

柴田:事業ごとにキーマンがいて、グループ全体でもタレントが豊富なことは、我々の特長に違いありません。また、エアトリ旅行事業なら創業者の大石と吉村の2人で立ち上げたというように、複数のタレントがそれぞれの強みを持ち寄る共同経営のようなスタイルを採用するのも、当社では少なくありません。M&Aにより優秀な人材がジョインするので、それも経営基盤を強化します。いろいろな人をオープンに迎え入れる企業文化が成長を後押ししているのでしょう。

冨田:共同経営や人材を迎え入れる仕組みが、今日の姿につながっていると理解できました。今後のさらなる発展をご期待申し上げます。本日はありがとうございました。

プロフィール

氏名
柴田 裕亮(しばた・ゆうすけ)
会社名
株式会社エアトリ
役職
代表取締役社長 兼 CFO
ブランド名
エアトリ
出身校
東京大学経済学部経済学科
資格
公認会計士