この記事は2022年2月7日に配信されたメールマガジンの記事「岡三会田・田 アンダースロー『米国株式市場の上昇持続のマクロの条件』」を一部編集し、転載したものです。


岡三会田220207
(画像=PIXTA)

目次

  1. 米国市場が上昇を継続するための条件とは?
    1. 財政拡大の力は日本を大きく上回る
    2. 7〜9月期の「ネットの資金需要」はマイナス10.3%
  2. 米国が抱えるリスク
    1. 企業貯蓄率は2.7%まで上昇 
    2. 企業貯蓄率の上昇は総需要を破壊

米国市場が上昇を継続するための条件とは?

財政拡大の力は日本を大きく上回る

2021年の日本の株式市場は5%(日経平均株価)の上昇だったが、S&P500種株価指数の27%に比較すると物足りなかった。

新型コロナウィルス感染拡大によって経済活動の再開が遅れただけではなく、日本と米国の「経済の膨らむ力(リフレの力)」の差が大きすぎるのがひとつの理由だ。

市中のマネー拡大と、家計に所得を回すためには、政府と企業の合わせた支出の拡大が必要になる。企業貯蓄率と財政収支の合計である「ネットの資金需要(GDP比、マイナスが強い)」が、市中のマネーの拡大と縮小を左右するリフレ・サイクル、そして家計に所得が回る力を表す。

「ネットの資金需要」拡大には、企業の強い投資活動による企業貯蓄率の低下か、政府の財政支出の拡大、または減税による財政赤字の増加が必要になる。企業活動の鈍化は日米とも大差がないが、財政拡大の力は米国が日本を大きく上回った。

▽日本のリフレ・サイクルを示すネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)

日本のリフレ・サイクルを示すネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)
(画像=出所:内閣府、日銀、岡三証券、作成:岡三証券)

▽米国のリフレ・サイクルを示すネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)

米国のリフレ・サイクルを示すネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)
(画像=出所:FRB、BEA 、岡三証券、作成:岡三証券)

7〜9月期の「ネットの資金需要」はマイナス10.3%

日米ともに、新型コロナウィルス感染拡大後の財政拡大で「ネットの資金需要」は拡大。市中のマネーの拡大と家計に所得を回す力を取り戻し、リフレ・サイクルの上振れが株価を押し上げてきた。

日本の「ネットの資金需要」は、最大で2021年1〜3月期のマイナス7%。しかし、その後は緊急事態宣言が連発されたにもかかわらず、さらなる財政拡大を渋り、7〜9月期にはマイナス2.6%まで縮小。

一方、米国の最大は1〜3月期のマイナス15.6%。その後、継続的な財政拡大によって7〜9月期はマイナス10.3%。強い水準を維持している。

財政政策のスタンスの違いを背景に平均すると、3倍程度の違いになっている。両国の国際経常収支は比較的安定しており「財政拡大によるネットの資金需要の拡大は行き過ぎではない」と判断できる。

米国が抱えるリスク

企業貯蓄率は2.7%まで上昇 

米国では、拡大したネットの資金需要が家計に所得を回す力になり、家計貯蓄率は1〜3月期にプラス12.3%と、コロナ前の2倍程度に上昇。経済活動が制限される中で、家計への支援が強制貯蓄として家計貯蓄率を上昇させた。

2021年からは感染抑制策が緩和されて経済活動が再開に向かい、ペントアップ需要が噴出。家計貯蓄率が低下する中で、消費の回復が実質GDP成長率を押し上げた。7〜9月期の時点では家計貯蓄率は7%程度まで低下。

過去のトレンドと比較し、家計貯蓄率の水準はまだ上にあるものの、ペントアップ需要が噴出して消費が強く拡大する局面はすでに過ぎている可能性がある。ここからの消費の拡大は、雇用の拡大と賃金の上昇にともなうものとなるだろう。

家計の強制貯蓄がペントアップ需要の噴出として支出に向かったことにより、その資金は企業に滞留しているようだ。4〜6月期の企業貯蓄率は2.7%まで上昇。企業は資金調達をして事業を行うので、マクロ経済での貯蓄率はマイナスであるはず。

企業貯蓄率のプラス化は、企業の資金が余剰になっていることを意味し、その一部は配当や自社株買いなどに向かっているとみられる。企業貯蓄率が上昇してしまえば「ネットの資金需要」が縮小し、リフレの力が弱くなる。よって、米国が財政拡大を継続しようとしていることは、適切な財政運営と考えらえる。増税があっても、長期的な税収中立であり、短中期的には財政政策は大きな緩和になる。

日本の場合、1990年代から企業貯蓄率は恒常的なプラスの異常な状態となっており、企業のデレバレッジや弱いリスクテイクカ、そしてリストラが、企業と家計の資金の連鎖からドロップアウトしてしまう過剰貯蓄として、総需要を追加的に破壊する力となり、内需低迷とデフレ構造不況の長期化の原因になっていると考えられる。

企業貯蓄率の上昇は総需要を破壊

米国での問題は、企業貯蓄率の上昇が過剰な貯蓄として総需要を破壊する力を持ち、景気下押しやデフレの圧力になってしまうこと。企業の投資行動はまだ弱く、企業の成長と収益への期待が強くない。

財政拡大によって「ネットの資金需要」を拡大し、強いリフレ・サイクルが株価の上昇につながってきた。しかし、株価の上昇が持続的になるには、企業の投資行動が強くなって、企業の成長と収益への期待が強くなっていくことが確認されなければならない。

2022年に「米国経済が強く拡大できるか」そして「株価の上昇が持続的になるか」は、グリーンやデジタルなどの投資フィールドがけん引する形で、企業の投資行動が強くなり、企業貯蓄率が正常なマイナスに戻るかにかかっている。

7〜9月期には、企業貯蓄率は2.2%になり、低下トレンドに入った可能性がある。しかし、プラスの領域にあり、供給制約による物価上昇を過度に懸念して、FEDが金融引き締めを拙速に進めれば、景気をオーバーキルしてしまうリスクになる。

▽:米国の家計貯蓄率と国際経常収支

米国の家計貯蓄率と国際経常収支
(画像=出所:BEA、 FRB、岡三証券、作成:岡三証券)

会田 卓司
岡三証券 チーフエコノミスト
田 未来
岡三証券 エコノミスト

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