この記事は2022年1月26日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「米国株式、金利上昇への耐久力は?」を一部編集し、転載したものです。

要旨

米国株式,金利
(画像=PIXTA)
  • 米国株式は2022年に入って米金融政策の先行きに対する不安感などから投資家がリスク回避的になり急落した。

  • 不安感が和らぐと落ち着きを取り戻し反発する可能性もあるが、その後は金融政策の正常化や利上げ、さらにそれに伴う長期金利の上昇によるマイナスと米企業の業績拡大によるプラスで株価はもみ合う展開が予想される。

  • 長期金利の上昇が緩やかで2022年末までに米10年国債利回りが2%程度に収まるならば、株価は2022年末までに急落前の水準まで戻る可能性もあるだろう。

目次

  1. 要旨
  2. 1 ―― 2021年は年末にかけて投資する人が特に多かった米国株式
  3. 2 ―― これから「 金利上昇 vs 業績拡大 」の展開
  4. 3 ―― 年末までに長期金利が2%超えると元の水準に戻るのが厳しい?
  5. 4 ―― 最後に

1 ―― 2021年は年末にかけて投資する人が特に多かった米国株式

2021年は外国株式ファンドが売れに売れたが、その中でも特に人気を集めたのが米国株式ものであった。国内で販売されている米国株式インデックス・ファンドの資金流出入(棒グラフ)の推移をみても、2021年はそれ以前と比べて明らかに資金流入が大きかったことがわかる【図表1】。特に2021年の11月、12月はつみたてNISA等の駆け込み購入があったためか、この2カ月間で3,700億円もの資金流入があった。2021年1年間の流入金額は1兆2,400億円にのぼったが、実にその3分の1が米国株式の株価が高水準で推移していたにも関わらず、11月、12月に集中していた。年末にかけて米国株式を買い増した投資家の中には、この年明けからの急落に驚いた人も少なからずいるだろう。

米国株式,金利
(画像=ニッセイ基礎研究所)

2 ―― これから「 金利上昇 vs 業績拡大 」の展開

そもそも、米国株式は2020年4月以降、米国の金融政策・低金利と企業業績の急激な回復・拡大の2つの要因によって、割安感に乏しいのにも関わらず、株価は上昇し続けてきた。実際にS&P500種株価指数の予想PER(青線)をみても、2020年4月以降、20倍を超えており、2021年末で22倍近くになっていた【図表2】

それが2022年に入り、S&P500種株価指数は年初来の下落率が執筆時点で9%に迫るなど、米国株式は急落した。急落のきっかけは、米国内での物価高が収まらないこともあり、株高を支える一つ目の要因であった米金融政策の見通しが変更され、金融市場が考えていた以上に金融政策の正常化が前倒しで行われることが危惧されたためである。

この急落は、あくまでも金融政策の先行きに対する不安感から投資家がリスク回避的になったことにある。従って、この不安感が和らぐと落ち着きを取り戻し、米国株式は反発する可能性もある。ただ、今回の急落が一時的であったとしたとしても、2022年中に米金融政策は正常化に向かい始めることには変わりない。正常化や利上げ、さらにそれに伴う長期金利の上昇は、米国株式にとって株価を押し下げる要因として残り続ける。

その一方で今後も米国の経済や企業業績は堅調であることも見込まれているため、中長期的には企業業績の拡大が米国株式を下支え、もしくは押し上げることも期待できる。つまり、今後の米国株式は以下のように、金融政策の正常化や長期金利上昇によるPERの低下と、企業業績拡大によるEPSの上昇との綱引きになると考えられる:

米国株式,金利
(画像=ニッセイ基礎研究所)

過去の米国の利上げ局面でも企業業績拡大が勝り米国株式が上昇することが多かった。それもあって、今回も米国株式の先行きに楽観視している市場関係者が多い。

米国株式,金利
(画像=ニッセイ基礎研究所)

3 ―― 年末までに長期金利が2%超えると元の水準に戻るのが厳しい?

では、米国株式はどの程度の金利上昇ならば許容でき、再び年初の水準まで戻ることができるのであろうか。実際に試算してみた。

試算するにあたって、まず金利上昇によってPERがどのように低下するか考える必要がある。本稿では、以下のようにPERの逆数である「益回り」を「長期金利」(黄面グラフ)と、それ以外の部分である「株式リスク・プレミアム」(青面グラフ)に分けた【図表3】

米国株式,金利
(画像=ニッセイ基礎研究所)

米国株式では2014年以降、株式リスク・プレミアム(青線)が概ね3%から4.5%の範囲で推移してきた【図表4】。足元は2017年から2018年と同様に、予想EPS(赤線)の上昇、つまり業績拡大していることもあって、足元は3%程度と低水準で推移している。

米国株式,金利
(画像=ニッセイ基礎研究所)

ここで、長期金利と株式リスク・プレミアムの水準別のPERが【図表5】である。当然ながら、長期金利や株式リスク・プレミアムが上昇すればするほどPERは低下する。長期金利が2%を超えてくると、PERが株式リスク・プレミアムの水準によらず20倍未満になることが示唆される。

米国株式,金利
(画像=ニッセイ基礎研究所)

次に、株式リスク・プレミアムが足元と同水準の3%の場合の、長期金利とEPSの水準別にS&P500種株価指数を試算した結果が【図表6】である。特に2021年末のS&P500種株価指数の水準4,766ポイントを上回っている場合は赤太字で示している。

米国株式,金利
(画像=ニッセイ基礎研究所)

長期金利(米国10年国債利回り)が2022年に上昇しても2%程度で収まり、かつEPSが240ポイント以上であれば、2021年末のS&P500種株価指数の値を上回ってくる可能性があることが示唆される。S&P500種株価指数の12カ月先予想EPSは現時点で220ポイント台の前半であるため、金利上昇が緩やかな場合、年末までにEPSが一桁%台後半以上、拡大することが、株価がプラス圏で2022年を終えるための条件の一つになるだろう。このようになる可能性は十分あると思われる。

その一方で、長期金利が2.2%まで上昇してしまうと、EPSが250ポイント、つまりEPSが現時点から10%以上拡大して、株価がやっと2021年末の水準まで戻ることになる。2022年は現時点で、S&P500種株価指数ベースで9%の増益予想である。12カ月先予想EPSが2022年末に10%以上、上昇するには、翌2023年は今2022年以上に業績拡大が見込まれる必要がある。ゆえに、2022年末時点でEPSが250ポイントを超えるのは、今後の動向次第ではあるが、かなりハードルが高いといえる。企業業績の拡大が再加速するようなことがなければ、長期金利2%が2022年末までに株価が元の水準に戻れるかどうかの境界線になると考えている。

なお、これまでは米国企業の業績は堅調であるとの前提のもとに、株式リスク・プレミアムが3%程度の低水準を維持できるものとして考えてきた。物価高、特に資源高や今後見込まれる金利上昇等が米国企業の業績拡大に悪影響を与える可能性もある。もし業績拡大が鈍化すると、2018年終わりから2019年(【図表4】赤マーカー部分)のように、株式リスク・プレミアムが上昇する展開も考えられる。そのようになった場合には、株価はさらに大きく下落する展開もありえるため、今後の動向には注意が必要である。

4 ―― 最後に

いずれにしても2022年の米国株式は2021年までと同じように右肩上がりに上昇し、主要指数が最高値を更新し続けるような展開とならない可能性が高い。2019年から3年連続で二桁上昇を続けていただけに、特に2021年から米国株式投資を始めた方の中には、残念に思う方もいるだろう。

しかし、S&P500種株価指数は過去30年を振り返ってみても、配当込み指数のドル・ベースで平均して年率10%以上上昇してきたが、各年の株価動向を見ると10%未満の年も30年中12年もあった【図表7】。しかも、そのうち6年は下落していた。2022年に見込まれる展開が決して珍しいわけではないのである。

米国株式,金利
(画像=ニッセイ基礎研究所)

そのため2022年に米国株式が投資した際に期待したように上昇しなかったとしても、そういう年もある、またそのうち上昇すると割り切って、気長に投資を続けていただきたい。少なくとも現時点で直ちに損切するのは慎重に考えてもよいと思う。ただ、気長に投資し続けるためにも、株価が大きく下落したからといって、楽観的に前のめりで投資しすぎないよう、今一度、ご自身の投資状況を確認し整理することをおすすめしたい。


(ご注意)当資料のデータは信頼ある情報源から入手、加工したものですが、その正確性と完全性を保証するものではありません。当資料の内容について、将来見解を変更することもあります。当資料は情報提供が目的であり、投資信託の勧誘するものではありません。

前山 裕亮 (まえやま ゆうすけ)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 准主任研究員

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