この記事は2022年2月25日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「都心5区のオフィス平均成約賃料は今後、下落基調に」を一部編集し、転載したものです。
新型コロナウイルス感染症の拡大後、東京都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)のオフィス平均空室率は、2020年の第1四半期(以下、Ⅰ期。Ⅱ期以下も同様)を底に上昇に転じ、以降は上昇が続いている。
平均成約賃料(*)は、平均空室率の底と同時期にピークを迎えて下落に転じ、2021年Ⅰ期には4期前のピークから約16%下落した(下図)。
*:テナント募集のために市場に向けて公開される「募集賃料」に対し、「成約賃料」は実際に成約する賃料
平均空室率の上昇が続く一方、平均成約賃料は2021年Ⅰ期以降上昇に転じ、その後、横ばい傾向で推移している。テレワークの普及などによってオフィス需要は弱含みとみられているが、2021年はオフィスの新規供給が少なかったことなどから、平均成約賃料の下落に歯止めがかかったと考えられる。
ただし、2023年から2025年にかけては、都心5区を中心に、オフィスの大量供給が見込まれている。特に、2023年には都心5区だけで23区の新規供給面積の約9割が供給される見込み(都市未来総合研究所調べ)であり、テナント誘致競争が激化している。
また今後、アフターコロナを見据えた企業が、オフィス見直しの取り組みを本格化するとみられる。新型コロナが感染拡大を始めた当初は、オフィスビルの解約や面積縮小の動きは、比較的対応が容易な中小のIT系企業など一部にとどまっていた。
しかし、現在では大手企業でもオフィスの位置付けや利用方法の見直し、さらにオフィス費用の縮小などを目的に、オフィス移転の動きもでてきた。
その動きの1つとして、自社ビルを売却する事例が増加している。売却後は賃貸ビルに移転するケースも見られる。また、「セールアンドリースバック」の方法をとる企業もでてきている。これは自社ビルなどの売却後、リース契約を締結し、賃料を払い引き続き使用する方法だ。
いずれの場合も、例えば1棟すべてを使用していたものを売却した後、ワンフロアのみ賃貸するなど、オフィス面積は従来よりも縮小するケースが多い。
さらにオフィス売却による賃貸化は、賃貸オフィス面積が広がることから、供給量の増加へとつながる。このように、オフィス需給バランスは今後、供給過剰の傾向になると見込まれる。よって、現在横ばい傾向の平均成約賃料は、今後、弱含みで推移すると考えられる。
都市未来総合研究所 主席研究員/佐藤 泰弘
週刊金融財政事情 2022年3月1日号