この記事は2022年3月17日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「米FOMC(2022年3月) ―― 予想通り、政策金利を0.25%引上げ、2022年の政策金利見通しを大幅に上方修正」を一部編集し、転載したものです。

目次

  1. 1 ―― 金融政策の概要:予想通り、政策金利を0.25%引上げ
  2. 2 ―― 金融政策の評価:2022年は毎会合での利上げも辞さないタカ派的な内容
  3. 3 ―― 声明の概要
    1. (金融政策の方針)
    2. (フォワードガイダンス)
    3. (景気判断)
    4. (景気見通し)
  4. 4 ―― 会見の主なポイント(要旨)
    1. パウエル議長の冒頭発言
    2. 主な質疑応答
  5. 5 ―― FOMC参加者の見通し

1 ―― 金融政策の概要:予想通り、政策金利を0.25%引上げ

米FOMC
(画像=PIXTA)

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が3月15〜16日(現地時間)に開催された。FRBは市場の予想通り、政策金利を0.25%引上げた。

声明文では景気の現状判断部分で雇用の評価が上方修正された。景気見通し部分ではウクライナ侵攻の影響について言及された。金融政策ガイダンス部分では政策金利の継続的な引上げ方針が明記されたほか、量的緩和政策について今後の会合でバランスシート縮小を開始する方針が示された。今回の金融政策方針決定では、ブラード・セントルイス連銀総裁が0.50%の利上げ幅を主張して反対票を投じた。

FOMC参加者の経済見通し(SEP)は、前回(12月)から、主に22年の予想に関して成長率が大幅に引き下げられたほか、インフレ見通しが大幅に引き上げられた(後掲図表 - 1)。また、政策金利見通し(中央値)は、22年が前回の0.875%から1.875%に大幅に上方修正された。このため、1回に0.25%の利上げ幅を仮定すると利上げ回数は今回も含めて前回の3回から7回へ引上げたことになる。

2 ―― 金融政策の評価:2022年は毎会合での利上げも辞さないタカ派的な内容

政策金利の0.25%引上げはパウエル議長が3月上旬の議会証言で事実上の予告を行っていたことから予想通り。もっとも、FOMC参加者の22年の政策金利見通しで7回利上げと毎会合での利上げ方針が示されたことや、バランスシートの縮小開始時期について早ければ5月会合で決定することが示されたことは予想外であった。今回のFOMC会合は全体的にタカ派的な内容と言えよう。

FOMC会合後の記者会見でパウエル議長は、ウクライナ侵攻により米経済見通しは非常に不透明としつつ、政策金利の継続的な引上げによっても堅調な労働市場は維持できるとの見方を示した上で、FRBがインフレ抑制を優先する姿勢を明確にした。

当研究所はFRBが年前半に集中的に利上げを行い、その後は一旦金融政策の効果を見極めるために、今年7月と11月は利上げを見送ると予想していた。しかしながら、本日示されたFOMC参加者の政策金利見通しやパウエル議長のタカ派的な記者会見からは、2022年に7回の利上げを行う可能性が高まったと判断せざるを得ない。

3 ―― 声明の概要

(金融政策の方針)

  • 委員会はFF金利の目標レンジを0〜0.25%に維持することを決定(今回削除)
  • 委員会はFF金利の目標レンジを0.25〜0.50%に引き上げることを決定(今回追加)
  • 委員会は純資産の毎月の買い入れペース縮小を継続し、3月上旬に買い入れを終了することを決定した(今回削除)
  • 2月以降、委員会は米国債の保有を少なくとも月200億ドル、エージェンシーの住宅ローン担保証券(MBS)の保有を月100億ドルそれぞれ増やす(今回削除)

(フォワードガイダンス)

  • 委員会は雇用の最大化と長期的な2%のインフレ率の達成を目指す(変更なし)
  • インフレ率が2%をはるかに上回り、労働市場が堅調なことから、委員会は近いうちにフェデラル・ファンド金利の目標レンジを引き上げることが適切であると予想している(今回削除)
  • 金融政策のスタンスが適切に強化されることにより、委員会はインフレが2%の目標に戻り、労働市場が引き続き堅調に推移することを期待する(今回追加)
  • 目標レンジの継続的な引上げが適切であることを期待している(今回追加)
  • 加えて、委員会は今後の会合で、財務省証券、エージェンシー債、エージェンシーの住宅ローン担保証券の保有の削減を開始する見込みである(今回追加)
  • 金融政策の適切なスタンスを評価するにあたり、委員会は経済見通しに対する今後の情報の影響を引き続き監視する(変更なし)
  • 委員会は目標の達成を妨げる可能性のあるリスクが生じた場合には、金融政策のスタンスを適宜調整する用意がある(変更なし)

(景気判断)

  • 経済活動と雇用指標は引き続き力強くなっている(変更なし)
  • パンデミックの影響を最も受けたセクターはここ数ヵ月で改善したが、最近の急激な新型コロナ感染急増の影響を受けている(今回削除)
  • 雇用はこの数ヵ月力強く伸びており、失業率は大幅に低下した(雇用について前回の「堅調に”solid”から「力強く」”strong”に上方修正)
  • パンデミックと経済の再開に関連した需給不均衡が、引き続き高水準のインフレにつながっている(今回削除)
  • パンデミックに関連する需給不均衡、エネルギー価格の上昇、より広範な価格圧力を反映してインフレは高止まりしている(今回追加)
  • ここ数カ月で全般的な金融環境は、経済および、家計や企業への信用の流れを支えるための政策措置を一部反映して引き続き緩和的だ(今回削除)

(景気見通し)

  • 経済の行方は引き続き、ウイルスの行方に左右される(今回削除)
  • ワクチン接種の進展と供給制約の緩和は、経済活動と雇用の継続的な増加とインフレの抑制を支えると期待されている(今回削除)
  • 新型コロナの新たな変異株も含めて経済見通しのリスクは残っている(今回削除)
  • ロシアによるウクライナ侵攻は、多大な人的および経済的困窮を引き起こしている(今回追加)
  • 米国経済への影響は非常に不透明だが、侵略とそれに関連する出来事は、短期的にはインフレに対する追加的な上昇圧力を生み出し、経済活動に重石をかける可能性が高い(今回追加)

4 ―― 会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。

パウエル議長の冒頭発言

  • 本日、FOMCは政策金利を0.25%引き上げた。経済は非常に堅調であり、極めてタイトな労働市場と高いインフレを背景に、FF金利の目標レンジを引き上げることが適切であると委員会は期待している。
  • オミクロン株の急速な拡大は、今年の初めに経済活動の一部に減速をもたらしたが、感染者数は1月中旬から急速に減少しており、減速は穏やかで短期間に留まったようだ。
  • ロシアのウクライナ侵攻による原油や商品価格の上昇は国内の短期的なインフレをさらに押し上げるだろう。
  • 本日の会合で、保有証券の縮小に関する計画の議論が順調に進展したことから、今後の会合でバランスシートの縮小開始を発表する予定だ。
  • ロシアのウクライナ侵攻が米国経済に与える影響は非常に不透明だ。このような環境の中で適切な金融政策を行うには、経済はしばしば予期せぬ形で進展するという認識が必要だ。我々は今後入手するデータと見通しの進展に迅速に対応する必要がある。

主な質疑応答

  • (利上げが早過ぎて景気後退に陥るリスクについて)来年までに景気後退に陥る可能性はとくに高くないだろう。現在、総需要は強く、ほとんどの予測者はそれが続くことを見込んでいる。また、労働市場は非常にタイトで、家計や企業のバランスシートは非常に強い。我々は経済が非常に強力であり、金融引き締めに耐える態勢が整っていると感じている。
  • (インフレが低下する時期について)ウクライナ侵攻前は今年の第1四半期か第2四半期の終わりにはピークアウトすると思っていた。足元は原油価格の上昇により短期的に物価上昇圧力が高まっている。また、ウクライナ侵攻によりサプライチェーンの回復が妨げられる可能性がある。現状で我々は年央にかけてインフレは高止まりし、その後低下に転じ、来年はより急激な低下になると予想している。
  • (FOMC参加者の政策金利見通しはパウエル議長の見通しに沿うか)自身の政策金利見通しについては言及しない。今年は7回の会合があることを指摘する。政策金利見通しをみると多くの参加者が今年7回以上の利上げを予想している。毎会合で政策金利を決定する。
  • (失業率を上げずにインフレを抑えられるのか)足元では1人の失業者に対して1.7人分の求人があり、労働市場は非常にタイトである。FRBは経済全体で需要を減速させ、供給との整合性を高めたいと考えている。価格の安定がなければ雇用の最大化を本当に持続可能な期間で実現することはできない。強い労働市場を維持しながら、物価の安定を取り戻す。
  • (バランスシート縮小に向けた議論について)バランスシートを縮小する計画のパラメータについて、合意に向けた素晴らしい進展を遂げた。我々は今、その計画を完成させて実行する立場にあり、今後の会合で開始できる状況にある。それは早ければ5月の会合後に開始する可能性がある。

5 ―― FOMC参加者の見通し

FOMC参加者(FRBメンバーと地区連銀総裁の16名 )の経済見通しは(図表 - 1)の通り。前回(12月)見通しとの比較では、ウクライナ侵攻に伴う物価高の影響などを反映して、主に22年に関して実質GDP成長率が前回の4.0%から2.8%へ下方修正されたほか、コアPCE価格指数が前回の2.7%から4.1%へ大幅に上方修正された。それ以外の修正は長期見通しも含めて小幅に留まった。

米FOMC(2022年3月)
(画像=ニッセイ基礎研究所)

政策金利の見通し(中央値)は、2022年が1.875%(前回:0.875%)と前回から1.0%ポイント大幅に上方修正された(図表 - 2)。この結果、1回に0.25%の利上げ幅を仮定すると、利上げ回数は今回を含めて前回の3回から7回に上方修正された。これは2022年の残りのすべてのFOMC会合(6回)で政策金利の引上げを行うことを意味する。また、ドット・チャートからは2022年に7回以上の利上げを予想する参加者が16名中7名と半分近かったことが示された。

米FOMC(2022年3月)
(画像=ニッセイ基礎研究所)

一方、2023年は2.75%(前回:1.625%)と3回から4回の利上げが見込まれているほか、長期見通し(2.375%)を上回る水準に引き上げることが示された。24年は2.75%(前回:2.125%)と23年から政策金利の据え置きが予想されている。最後に、長期見通しは2.375%(前回:2.5%)と小幅下方修正された。


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窪谷 浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

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